27話 異常な出力
――その風は、俺の首を狙った打撃だった。
当たれば死ぬかも?
いやでも殺しは御法度だよな?
なんて、いつもなら考えるだろうが、今回ばかりはそうもいかない。
寸でのところでしゃがみ、回避に成功した。
だが頬を掠める。少し痛い。
攻撃者である難波先生は、第二撃、第三撃を続けて出してきている。早い打撃だ。避けれるか?
落ち着け、焦るな。
やるべきは分析。まずは回避。
二、三撃は単調だ。
一つは、頭上から振り下ろされる右拳。
そして、左脇腹を狙い、隠された左フック。
なるほど、肉弾戦か。クールな見た目によらず武闘派だ。
赤鬼が迫ってくる様子はない。背中に天秤を抱えているところを見ると、恐らくサポーター……陰陽師がアタッカーなのだろう。
……OK。なら、やりようはある。
春休み中、毎日師匠にボコられた末に身につけた『マジカル⭐︎護身術』なら、人の身からの攻撃を避けられるだろう。
頭上からの拳を後退して回避。さらに突き出される拳を左に逸れることで避け――
「オごッ――!?」
殴られた。
何が? なんて思う暇もない。
頭上から振り下ろされた拳は、俺の頭に当たることはなかった。だが外れた拳は右フックへと変貌し、俺の左脇腹を凹ませ吹き飛ばした。
「おっと、すまない。フェイントのつもりだったのだが」
何がフェイントだ、避けられるかこんな速度。
ゲホゴホと息を吐き出しながら分析を再開する。
視覚で見えてる物だけが全部じゃないな。
……いや、だとして、どうしろと?
左右上下を見て、可能性を考えきゃ、ってこと? 人外しか出来ないんじゃない? いや、本当にどうしろと?
「シトナイ」
「――ばぁ」
「攻撃準備」
押してダメなら引いてみろ。
この場合、多分逆なのだろうが。
俺は胸元に懐刀を忍ばせる。
「大丈夫、ではないですけど……死んではないんで」
痛みなら、慣れている。
いつも師匠に殴られてるし……それに――
――橙色の炎が、脳裏に過ぎる。
「じゃあ、今度は俺から――」
俺は一歩、前に踏み出す。
心を前傾し、首を突き出し。
先程は、先に攻撃して来たのだから、今度は譲ってくれるだろう。
そんな淡い期待は、一撃で打ち砕かれた。
文字通りの一打撃。
途轍もない速度の正拳突きが――俺の腹部を襲った。
「うぐっ……!」
痛くはない。当たってないからだ。
ギリギリで寸止めされている。
当たっていたらと考えると、肝も背筋も凍りつく。
「平気だろう?」
「強者の余裕、ですね」
「君たちよりも優れてなければ、教師など出来んさ」
「まぁ、それもそうですけど……一応、こっちも死線を超えた経験持ちなんで」
俺の胸元が光り出す。
ニタァ、と諧謔的な笑みが浮かんだのを、我が事ながら悍ましくも自覚した。
強者とは、余裕を持て余す者を指す。
逆説的に言えば、強さという名の傲慢を膿んでいるとも。
油断大敵、好事魔多し、勝って兜の緒を締めよ。
いつの世も、油断・慢心こそが命取りとなる。
予備動作なしで攻撃してくる相手に、先手攻撃が通用するとは思っていなかった。
遅い鳶は肉を食えない。ならば動きが遅い俺が、受けに回るのは必然。それを予期した行動が要となる以上――
「シトナイ」
――忍ばせた懐刀は、最上の起死回生となるはずだ。
「今だ」
「ダァ!」
「――っ!?」
懐に潜ませた極太の光線が、総図内を青白く塗り替えた――!
◆◇◆◇◆
「やり過ぎだ」
その後、俺の霊力放出に耐えきれず、砕け散った人工総図の中から投げ出された難波クラス一同は、地下運動場へと戻って来た。
もちろん身体測定は中断、人工総図の復旧員が現在、総図発生装置の復旧を急いでいる。
「ごめんなさい……」
師匠曰く、俺の霊力の放出量は、基準値の倍以上なのだという。
つまり普通の陰陽師が出せる倍以上。
総図内での戦闘も考慮されている人工総図が、壊れてしまうのも頷ける霊力の密度になっている、とも言える。……納得できるかは兎も角として。
霊力の放出だけで人工総図が破壊された事以上に、それを間近で受けても無傷の難波先生にこそ、驚愕するべきではなかろうか。
これ、本当に大丈夫なのだろうか。
……その、賠償金とか、諸々とか……
「……人工総図発生装置は、内部が少し崩壊しただけだ。復旧員に任せれば、次のクラスが来ても問題なく発生させられるだろう」
「ご迷惑を……」
「とりあえず、君に関しては霊力放出も、当面の間は禁止だな。威力が洒落にならん」
「え」
唯一の攻撃手段が……!?
うぅ、すまん、シトナイ。俺が考えなしなばっかりに……
「それと、一応この後すぐに保健室に行くように。あれだけの放出量だ、脳に異常をきたしていてもおかしくはない。何かがあってからでは遅いからな」
「はい……」
俺がシトナイと共にシュン、としていると、見兼ねたらしいクラスメイト達が集まってきた。
「ま、まぁまぁ。高原も予想外だったのだろう? なら仕方ない!」
「そだよぅ。間違えてこその学び舎、だからねぇ。落ち込むことないさぁ」
「……でも、ちょっと怖かったです!」
「コラ、思っても言わない!」
最初に駆け寄って来た長門に肩を貸してもらい、俺はピリピリする膝を伸ばして立ち上がる。
「ありがとう、長門くん」
「大丈夫さ、助け合いだよ!」
本当に助かる。正座していたせいで、足が思うように動かないのだ。
「だが本当に、あれだけ放出して無事なのか? タフなんだな、高原は……」
「タフっていうよりは、式神頼りっていうか……」
霊力の放出の仕方を、俺は知らない。
だけどシトナイは知っている。なら任せる他ないだろう。……お陰で、出力の調整は出来ないけれど。
「なるほどな。課題が出来た、と思う方が良さそうだな!」
「そうだね……頑張ろうな、シトナイ」
「――ダァ!」
元気いっぱいのシトナイの声を聞いて、俺は微かに口角を上げる。
やはりシトナイは癒し枠。式神万歳。
俺は長門に肩を貸してもらいながら、保健室までゆっくりと歩を進めるのだった。
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