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悲観楽土 〜高天原には、神はいない〜  作者: 光合セイ
1.5章 高尾修験編

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25話 居間の反省会

 新たな仲間として小人のシトナイを迎えた俺は、ジト目を向けてくる安倍に見守られながら下山した。

 登りとは違って心臓に来るような疲れは溜まらなかったが、いつ転んでもおかしくない恐怖が心臓を突き刺した。


 ……やはり運動不足は悪。早く体力を付けないと死ぬ。物理的に。心臓が。


 とはいえ体力作りは一朝一夕で出来るものでもない。

 今日は山登りと悪霊退治でヘトヘトなので、明日から頑張ろうと思う。……本当だよ? 嘘じゃないよ?


 そんなわけで今日は帰宅。

 超大豪邸の安倍家は、超ど田舎にありながらも、超ハイテクな仕組みを有している。

 何度も『超』なんて誇大表記を使ってしまう程度には、この家は現実味のない機構が備わっていた。


 一応、この家は陰陽師一家の持ち家のはずなのだが、その……もう少しこう、ノスタルジックな雰囲気には、できなかったのだろうか?


 それともこれが、時代に合わせるということなのだろうか。それにしたって近未来的だけども。


「ホァ……」

「そうだよね、普通驚くよね」


 俺の相槌に合わせて、シトナイがコクリと勢いよく首肯する。


「何言ってるの。このくらいしないと、外敵から身を守れないでしょ」

「安倍家は何と戦ってるんですか」

「自分で言うのもなんだけど、安倍宗家は日本国の要人なのよ? 機密情報があるかもだし、無かったとしても時間稼ぎに使えるじゃない」


 遅滞戦術の話でもしてる?

 なんで自宅の建築するだけで、そんなこと考えなきゃいけないんだよ。

 普通は壁と扉で身は守れるんだよ。断じて自動防衛システムなんて物は必要はない。


「そんなことはどうでもいいのよ。今回の反省会をするわよ。風呂で汗を流したら居間に来なさい」

「あ、はい……」


 ちなみに、風呂も男湯と女湯で分けられている。なんでだよ、家には一つでいいだろ。



◆◇◆◇◆



 沸いたばかりのお湯から、もくもくと湯気の漂う風呂場にて……俺は本日最大の衝撃を受けた。


「え、おま、ええ――!?」

「ダァ……?」



◆◇◆◇◆



「あら、遅かったじゃない。……顔真っ赤じゃない、のぼせたの?」

「……いえ、その」


 なんて言おうか一瞬迷う。

 言って軽蔑されるのは嫌だし、言わないとこれからも俺がしなければならなくなる。

 聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥とも言う。これからの事を考えれば、後者一択なのだが……


「どうしたのよ、元気ないわよ?」

「……変な目で見ないと、誓ってくれますか?」

「は? 聞くだけ聞いてあげるわよ」


「――明日から、シトナイの入浴をお願い出来ますか」


 俺の言葉に、安倍は頭に疑問符を乗せた。

 しかし流石の理解力。すぐに俺の言葉の意味を察したのか、ぐにゃあと顔を歪めて言った。


「アンタ、まさか……」

「し、仕方ないじゃないですか! 俺だって入る前に知ったんですから! そん時には師匠も風呂に入ってましたし、まさか女湯に突入させるわけには――」


「そもそもなんで式神と入ってるのよ。符に戻せばいいじゃない」

「――あ」


 ……完全に失念していた。

 俺もシトナイも泥だらけになってたから、早く身体洗わなくちゃ、なんて思考が先走っていたのかもしれない。


「はぁ。式神自体、陰陽師個々人にとっての機密情報なんだからね? 霊力も消耗するし、緊急事態以外は戻しておきなさい」

「ヤーッ!」


 安倍の言葉に、いの一番に首を振ったのはシトナイだった。しかも横に。

 俺の手の上でぶんぶんと首を振る姿は、子犬を見ているようでほっこりする。


「ふーん。懐かれてるじゃない。裸の付き合いって、意外に効果的なのかしら?」

「知りませんよ……」


 引きこもり舐めるなよ。そもそも対人コミュニケーション歴が少ない。裸の付き合いなんて、それこそだ。


「ま、それも含めての反省会ね。ほら座りなさい」

「ほら、シトナイ。手から降りて」


 俺はシトナイを座卓の上に降ろすと、ようやく腰を下ろして正座した。シトナイも座卓の上で正座している。


「足は自由にさせていいわよ。歩き疲れてるでしょ」

「あ、助かります」


 そう言われて俺は胡座を掻いた。シトナイは正座がデフォルトのようだ。


「さて、式神召喚の時、倦怠感を感じたりはしなかった?」

「……うーん、特に何も感じなかったですね」

「そ。なら、まだ召喚余地は残されてるかもね。良かったじゃない」

「召喚余地ですか?」

「ええ。式神召喚の時には、霊力を使う。召喚コストや、霊力の保有量も関係してくるんだけど。基本的に一人につき一体なの。無理に召喚しようとすれば、倦怠感を通り越して気絶するわ。式神の主な召喚理由が戦闘である以上、気絶は致命的でしょう?」


 そう言われれば確かに。気絶どころか、倦怠感も感じてないということは、俺の持つ霊力がシトナイ召喚に追いついてるということだ。

 安倍みたいに十二体の式神を従える、とまではいかないだろうが。……そう考えると、安倍ってすごいな。


「これって、山道を登って苦しんで禊? をしたから、シトナイの召喚に耐えられるようになったって、ことですか?」

「いいえ。霊力の保有量と強弱は別よ。アンタでもわかるように言うと、電流と電圧の違いのような物。流れている電子(霊力)に対して、その数を示すのが保有量で、力を示すのが強弱よ」

「……ああ」


 東京に来る前、渡辺さんと勉強したところだ。

 オームがどうとか、なんたらの法則だとか。……少なくとも、俺は理系向きの頭はしていない、ということはわかった。


「ま、理論なんていいのよ。いま必要なのは感覚。理論は学校に通えば、無理矢理にでも勉強することになるわ」

「そうですか……」


 聞くところによると、陰陽師も義務教育中は普通の学校に通っているのだそう。

 幼少期から少年期は”霊力を使う”感覚を覚えさせ、知識教育は神祇専門学校……高校入学に合わせて始めるのだとか。

 つまり俺は陰陽師として、同い年とまったく同じスタートラインに立っているということになる。


「アンタの次の式神召喚は追い追い考えるとして、問題は”力”の放出ね。あれ、どっちの”力”を使ったの?」


 ……どっちの? 使ったのはシトナイじゃないのか?

 俺が言葉の意味をわかっていないのを察したか、安倍が具体的に説明を始める。


「術者の”力”を式神が使うこともあるの。基本的に式神が保有する”力”の補足分を精霊、とかなんだけどね。今回の場合、相当な量を消耗しただろうからわかると思ったんだけど――」

「「……?」」

「――主従揃ってわからなそうね。……まったく。相性がいいのか悪いのか」


 ”力”の消耗……つまり霊力が消耗すれば、さっきも言ったように倦怠感を覚える……あるいは気絶するんだったか。

 けれど俺は見ての通り、消耗するどころか元気一杯だ。

 確かに不自然だとは思う。俺もシトナイも悪霊から狙われる程度には貧弱なのに、なんであんな攻撃が出来たんだ?


「……ま、どんな理由であれ、消耗してないなら上々よ。戦闘中に自滅しないのが一番だからね」

「それで完結していいものなんですか、これ?」

「するしかないでしょう? 現状、何もわからないんだから。下手に考え込むよりも、得られる恩恵は預かった方が得よ」


 サッパリしてんだよなぁ。まぁでも理由には同感だ。

 現状、シトナイについての情報はないに等しい。強いてあげるなら小人……風体からして、コロポックル説が有力ってだけ。

 この情報だけで何を考えろっていう話なわけで。考えるほど謎が深まるなら、下手に裾野(すその)を広げる必要はない。


「さて、反省会はここまでにしましょう。ダイニングに行けば夕食が用意されてるだろうし、早く食べて早く寝るわよ。明日も早いんだからね」

「そうですね……でも、四時起きはやりすぎだと思うんです」

「何言ってるの。言ったでしょう、厳しい修行になるって。覚悟しなさいよ」

「……お手柔らかに、お願いします」


 その後、数人の家政婦が待つダイニングで、俺の歓迎会と称して豪勢な食事が用意された。

 ……金目鯛はやりすぎだと思うの。

 下手な箸使いで平らげたのち、せめて食器は洗わせてくれ、と食後の手伝いをした俺は、用意された自室に戻って床に就いた。


 今日の修行は、基礎の基礎。ただの式神召喚。

 本格的な修行は明日からだそうな。

 今日の体力の無さを鑑みると、かなり不安が残る。だがやるしかない。


 不安と興奮で高鳴る心臓を落ち着かせながら、なぜか符に戻らず隣で寝始めたシトナイを寝かしつける。


 ……本当に、この子は何者なんだろうか?

 スヤスヤと眠る小人の寝顔を見て、俺はゆっくりと瞼を閉じた。



次回更新は1/19(月)になります。

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