表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悲観楽土 〜高天原には、神はいない〜  作者: 光合セイ
第1章 天津餓狼編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/26

17話 天と狗

 猿田彦。


 日本神話に登場する”道案内”の神である。

 交通安全・学業成就・縁結びなど多岐にわたる現世利益をもたらすとされている。

 だがしかし、その本質は史上類を見ないほどの、厄除けの神としての資質である。


 神すら恐れる厄を退け、天津神を葦原中つ国へ導いた。

 その胆力、その気力、その剛腕。

 戦神には勝らずとも、その力は一騎当千。


 そして何より……天照以前の太陽神としての神格。

 八岐の道を照らしていたことから、天地を照らす太陽の神格を得たという話がある。

 季節風の影響で雨季が多いことから、太陽信仰が深く根付く日本において、地を照らす星に役割を充てがわれるほど、猿田彦は強かったと思われる。



 すなわち彼は――皇紀以前の太陽神である。



 ――『日本の神々図鑑』より一部抜書。



◆◇◆◇◆



 困った時の神頼み。

 手ぶらで狼と相対した時なんかは、間違いなく人は神に縋ることになるだろう。

 成功するかは神の匙加減。大抵の場合は失敗し、神の不在証明が完了されることになる。


 逃げられない、生き残れない、助からない。

 そんな心理的圧迫を和らげるための、心の防衛装置みたいな物だ。効果があるかは不明だが。




 では、成功した時の話をしよう。

 手ぶらで狼と相対した時。神頼みが成功したなら、どんな事が起こるのか?


「――ッッッ!!!」


 狼の遠吠えが、俺の認知している物より遥かに高圧感を伴って放たれた。

 だが恐怖を感じる機能が麻痺したらしい、俺の体は怯む事なく突貫する。


 無数の鳥肌を立ったことを感じながら、俺は体の支配権を預けた者へと問いかける。


『そんな前に出て大丈夫なんですか!?』

「仕方なかろう。攻撃手段が身一つしかないのだ。なにゆえ、護身具のひとつも身につけておらん?」

『深夜とはいえ、現代日本でそんな物、必要になるとは思わないじゃないですか!』

「だが人が怖いと言っていたろう?」

『肉体的脅威と精神的恐怖は、まったくの別物です!』


 肉体的に危害を加えてくる世紀末なら兎も角、精神的に参ってる時に近くに来るのは、心配してくれる優しい人だ。

 例えパニックに陥っていたとしても、そんな人に目潰しスプレーとか吹きかけたくない。


 とはいえ餓狼も一筋縄ではない。

 (サルタヒコ)の突貫に対して、その余りある質量を誇る巨躯でカウンターの突進を仕掛けてきた。


「ないのなら仕方ない。そも其方にとって、この戦いは夢なのだ。殴る蹴るしか出来なくとも、問題はなかろう」

『……うぐぅ』


 言いながらも餓狼の突進を避け、腹部に数回殴打を叩き込んで引き下がる猿田彦。

 さすが有史以前からの猛者。殴る蹴るだけとは言っても、戦い方がトリッキーだ。


「だが一撃でも喰らえば即死。我が技量を以てしても、其方の肉体の耐久性を上げることは出来ん。ならば、どうするか?」

『……どう、するんですか?』

「すべて避けてしまえばいい」

『根本的解決ではないと思うんですけど!?』


 攻撃が当たる可能性を微塵も考えていないとか、常軌を逸してる気がするんですけど!?

 とはいえ相手は常識から掛け離れた存在なわけだし、何を言っても通じない気がしないでもないが――


『――ん?』


 なんかピリッとした感覚がしたような……

 多分、手の先っちょあたり。突き指でもしたか? というか、感覚が繋がってるのか?


『いたっ……いっ、だだだだ!? あの、指が、手が痛いんですけど!?』

「む。しまった、少し時間を使いすぎた。腐敗霊力が吸いすぎたようだな」

『なんですか腐敗霊力って……足が! 顔がぁ!?』

「書いて字の通り、有機物の腐敗を促す“力”だ。吸えば血流に乗って全身を巡り、体の内側から腐敗・溶解を始める。その先に待つのは死だ」

『死!?』


 死ぬの!?

 絶対嫌だ、せっかくココまで生きたのに! 死にたくない!


 だからさっきから餓狼は距離を取っているのか。この空間にいる限り、長期戦になれば不利なのは此方だ。

 餓狼は、逃げるだけで勝てる。


 だが猿田彦は顔を顰めることもせず、淡々と俺に告げた。


「胸を撫で下ろせ。何のために我がいると思っている」

『……勝つため』

願意(がんい)を無駄に費やすな。必勝祈願に心を揺らせ。困った時はいつでも――」


 縮地。本当に俺の身体か? と疑問に思うほど、目が追いつかない速度で肉薄する。

 そして握った拳を振りかぶり――餓狼の尖った鼻先に強く振るった!



「――我は力を貸そう」



 顔面に拳をめり込ませるほどの一撃を見舞い、吹き飛んでいく餓狼を見て、俺は唖然とする。

 ……俺、そんなに筋力なかったはずなんだけど……その力、どこから取り出したの?


「さて、そろそろ片を付けようか。いつまでも戦うわけにもいくまい」

『お願いします……助けてください』

「心得た。天狗の兵法、その一角をお見せしよう」


 天狗の兵法。実際に聞くと頼もしさが段違いなのだけど……

 今のところ脳みそが筋肉なのか、と思える解決法ばかりなので、少し不安が残る。


「殺せず、反骨心の塊で、かつ厄介な力を持つ敵を相対した時、其方ならばどうする?」

『俺ですか……? どう、するんでしょう。屈服させるのは……反骨心の塊なら、無理でしょうし』

「そうだな。正解は……」


 言葉を途切った猿田彦は、両手で印を結ぶ。

 両手の指を組み合わせる形。微かに感じる手の感覚から、何となく力を溜めていることがわかった。


「存在を跡形もなく消す、だ」

『……は?』


 組み合わせた両手指を、ぐいっと引っ張る。

 パリ、と何かが裂けた音がした。ピシ、ピシと亀裂は拡大していき、やがて世界は裂けんばかりに暗転する。



「反転総図【光道標旗(こうどうひょうき)】」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ