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第8話 拡散、増える種、そして過労

これまでの登場人物

●神城 冬夜 (かみしろ とうや) 15歳 男性

 前の世界では両親の虐待とクラスメイト達のいじめで心を閉ざした。

 のちに両親への反抗として財布から現金を奪ったのちに

 コンビニへ行こうとしたところ…

 信号無視のミニバンに轢かれて死んでしまった。

 新たな世界では空き家にクワとジョウロと虹色の種

 そして分厚い農業の本があったため

 1人で食を確保しようと奮闘することになる。


●セラ・トミーガーデン 195歳 女性

 悪魔の村で暮らす少女。見た目は冬夜より少し年上ぐらい。

 人間と触れ合うのは実は初めてだが

 『学校の男子たちと同じように話せばいいでしょ!』の

 気持ちで話しかけているため、時々距離感がバグることがある。

 最近冬夜のことが少し気になってきたようだ。


 数日後。

 セラの家族が大絶賛したトマト料理の噂は、あっという間に村中に広まった。


子どもA「セラの家で食べたあの赤い実、すごく美味しかったんだ!」


子どもB「酸っぱいけど、クセになるって父ちゃんが夢中で食べてたよ!」


子どもA/Bの母「子どもたちが薬草嫌いでも、あれだけはちゃんと食べたのよ。」


 畑を耕す冬夜のもとに、次々と村人が訪れる。


中年の男性村人「おい坊主。その“トマト”ってやつ

        俺にも分けてもらえないか?」


若い女性村人「料理の仕方も教えてくれないかしら?

       うちの旦那が気に入っちゃってねぇ。」


 突然の人気ぶりに冬夜は戸惑いながらも

 トマトを収穫して手渡したり、農業本を片手にレシピを説明したりした。


冬夜「えッ…!?あ、はい!!」


中年の男性村人「ヘヘッ、助かるぜ坊主。息子と嫁さんがコレ大好きでね。」


 冬夜は中年男性に笑顔で対応し

 今度は若い女性に料理のコツを教える。


冬夜「えっと、気を付けてほしいのは、油の量です。

   多すぎたり少なすぎたりすると、味に変化が出てしまいます。」


若い女性村人「あら、そうなの?油の量なんて気にしたことなかったから

       いい勉強になったわ!」


冬夜 (だからあの家で度々爆発が起きてたのか…。)


 セラはそんな冬夜を少し離れた場所から見守っていた。


セラ「最初は本当に不運そうだと思ったけど…。

   ふふっ、まさか村の人気者になるなんてね。」


 腰に手を当ててつぶやくが、どこか誇らしげだ。


 ある日には、村の広場で小さな即席屋台まで開かれた。

 トマトスープを振る舞う母親、焼きトマトを試す子どもたち。

 広場いっぱいに「美味しい!」の声が響く。


 冬夜は人々が笑顔で食べる光景を見て、胸の奥がじんわり温かくなった。


冬夜 (……あの頃は“僕なんかいらない”って思ってたけど。

  今は、誰かの役に立ててるのかもしれない。)


 空を見上げると、雲ひとつない青空が広がっていた。




 数日後。

 ボロ家に入るとあの虹色の種がまた置いてあった。

 しかもトマトの時より倍以上に増えている気がする…。


 冬夜は朝から畑をさらに広げ、トマトの隣に新しい作物を植えようとしていた。


冬夜「次は…ジャガイモと、ニンジン、そしてイチゴを…。」


 前の世界で見慣れた野菜たちを頭に浮かべながら、種を植える。


 汗が額を伝い、体はどんどん重くなる。


冬夜 (もっと……育てなきゃ。村のみんなが楽しみにしてるんだから……。)


 水を与えて数時間後、畑の土から小さな芽が顔を出した。


冬夜「……出た。ジャガイモの芽……!」


 喜びと同時に、視界がかすむ。


冬夜「あ、やばいッ…目がぁ……。」


 そのまま、冬夜は崩れるように倒れてしまった。


――その頃。


セラ「冬夜~!そろそろ日が暮れるからご飯にしな……。」


 畑を訪れたセラの視界に、ぐったりと横たわる冬夜の姿が飛び込んできた。


セラ「ちょっ……。冬夜…!?うそ…死んじゃった…?!」


 慌てて駆け寄り、呼吸を確かめる。


 幸い、眠るように息をしている。


 セラは周囲を見渡し、ため息をついた。


セラ「…もう……!心配かけないでよ…!!」


 近くの小屋――冬夜の家に

 なぜか前日まではなかったはずの立派なベッドが置かれていた。

 不思議に思う暇もなく、セラは冬夜を背負い家へと運び入れる。


セラ「ふう…っ。人間族って、案外軽いのね…。

   いや、冬夜が軽すぎるだけかもしれないけど…。」


 額の汗を拭きながら、彼をそっとベッドに寝かせる。


 寝顔を見つめて、セラは小さくつぶやいた。


セラ「冬夜って、不運そうな顔してるけど

   なんでそんなに必死になるのよ…。」


 返事はもちろんない。

 けれど、その寝息はどこか安心しきったものだった。


 冬夜をベッドに寝かせたあと

 セラは椅子に腰を下ろし、頬杖をついて寝顔を見つめていた。


セラ「……ホント、バカよね。」


 無茶をして倒れたことを責めるように言う。けれど声はどこか柔らかい。


 しばらく黙っていたが、ふっと小さく笑った。


セラ「でも……そういうところ、嫌いじゃないかも。」


 自分で言って、慌てて口を押さえる。


セラ「な、なに言ってんの私!ただの世話の焼ける人間ってだけ…!」


 真っ赤になった顔を両手で隠し、視線をそらす。


 そのとき――


冬夜「……う、ん……。」


 ベッドの上で、冬夜が小さく声を漏らした。


セラ「……え?」


 驚いて振り返ると、冬夜の瞼がゆっくりと開いていく。


冬夜「ここは……?」


セラ「冬夜…!!畑で倒れるまで働くなんて正気なの…!?」


 セラは思わず声を荒げた。


冬夜「え……あれ?僕……倒れてたのか。」


セラ「“あれ?”じゃないわよ!本当に心配したんだから!」


 言いながら、耳まで真っ赤になっている。


 冬夜は少しぼんやりしながらも

 そんなセラを見て、思わず笑みをこぼした。


冬夜「……ごめん。でも、ありがとう。助けてくれて。」


セラ「っ……!べ、別にアンタのためじゃなくて……っもう。」


 セラは顔を背けたまま、しばらく黙っていたが

 その瞳には、先ほどの本音の余韻がまだ色濃く残っていた。

 冬夜はその気配を感じ取り、柔らかく言葉を紡ぐ。


冬夜「セラ……一人で畑を見てくれてたんだよね?

   ありがとう。僕は……本当にセラに支えられてる。」


 セラは顔を少し赤らめ、視線を逸らす。

セラ「……べ、別に……。ただ……

   冬夜があんなに頑張ってるのを見て

   放っておけなかっただけよ。」


 冬夜は小さく笑みを浮かべると、ぐっと体を起こした。

 そしてセラの方へ手を差し出す。


冬夜「じゃあ、これからも一緒にやろう。

   畑も、作物も、村の未来も。僕一人じゃ心許ないけど……

   セラがいてくれたら、きっともっと楽しくなる。」


 その真っ直ぐな言葉に、セラは一瞬だけ驚いた表情を見せる。

 だがすぐに、ほんの少し照れを含んだ微笑みを浮かべ、その手をそっと取った。


セラ「……ふふ、仕方ないわねっ。じゃあ、一緒に耕しましょ!」


 二人の手が固く結ばれ、外の畑に差し込む陽光が未来の希望を照らしていた。




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