第6話 赤い実と黒い影
これまでの登場人物
●神城 冬夜 (かみしろ とうや) 15歳 男性
前の世界では両親の虐待とクラスメイト達のいじめで心を閉ざした。
のちに両親への反抗として財布から現金を奪ったのちに
コンビニへ行こうとしたところ…
信号無視のミニバンに轢かれて死んでしまった。
新たな世界では空き家にクワとジョウロと虹色の種
そして分厚い農業の本があったため
1人で食を確保しようと奮闘することになる。
●セラ・トミーガーデン 年齢不明 女性
悪魔の村で暮らす少女。見た目は冬夜より少し年上ぐらい。
人間と触れ合うのは実は初めてだが
『学校の男子たちと同じように話せばいいでしょ!』の
気持ちで話しかけているため、時々距離感がバグることがある。
こうして冬夜は異世界での生活2日目を迎え
昨日耕して種を植えた畑を見に丘を登っていく。
冬夜「昨日植えたはずなのにもう芽が出たよな…。
まぁでもさすがに実まで付いてるなんてことは…。」
と、ド盛大なフラグを立てて畑に到着すると…。
なんと最後に植えた場所以外すべての箇所に
トマトが赤く熟した状態で実っていたのだ。
冬夜「めちゃくちゃ実がなるの早くない…?
昨日植えたばかりなんだけど…。」
しかも1つの苗に15個以上実がなっている。
冬夜はそのうちの1つをもぎ取る。
手に取ったそれはとてもつややかで、陽の光を受けて輝いている。
冬夜「すっごい綺麗な赤色だ…。ただ1回水をかけただけなのに…。」
冬夜はごくりと唾を飲み、ひと口かじった。
冬夜「……!みずみずしい……酸味が効いてて、すごく美味しい!」
思わず笑顔になり、声が弾んだ。
そこにセラがやってくる。
セラ「へぇ、これがトマトって言うの?1つ食べていい?」
冬夜「いいよ。甘みと酸味のバランスがすごく良くて美味しいんだ。」
冬夜がそう言うと、セラは興味深そうにひとつ取って、ぱくり。
――次の瞬間。
セラ「っ……!」
口をぎゅっと結び、眉を寄せる。
冬夜「ど、どうした?」
セラ「す、酸っぱ……!なにこれ、舌がきゅってなるじゃない!」
唇を尖らせて顔をしかめるセラ。
冬夜は思わず笑ってしまった。
冬夜「ははっ、苦手?僕はこの酸味がたまらないんだけど…。」
セラ「わ、笑わないでよっ!……冬夜の舌、おかしいんじゃないの?」
ぷいっと顔を背けるセラ。しかし、赤い瞳はきらきらしている。
セラ「でも……ちょっとだけ甘さもあるかも。慣れたら食べられるかもね。」
冬夜「そっか。なら、別の野菜なら、セラにも合うかもしれないね。」
セラ「……期待してあげる。」
冬夜の畑には、赤く熟している無数のトマトが収穫を待っていた。
収穫を終え、草原を渡る風に吹かれながら冬夜は額の汗を拭った。
その時――
盗賊A「おい、見ろよ。ひょろい人間が畑仕事なんてしてやがる。」
盗賊B「へっ、珍しいな。こんなところに人間がいるなんてね。」
背後から声がした。振り返ると、三人の男が立っていた。
角はあるが、村の悪魔たちとは違い、服装も荒れている。
腰には刃物を下げ、目つきは鋭い。
冬夜「な、なんだよ……っ!」
盗賊B「お前が手に持ってる赤い実、俺たちによこせや。」
盗賊C「なぁ、どうする?この人間をあの実ごと売れば
いい金になるんじゃねぇか?」
冬夜の心臓が跳ね上がった。脚がすくみ、逃げ出すことすらできない。
冬夜「や、やめろ……!」
その瞬間――
セラ「ちょっと!あんたたち、なにやってんのよ!」
鋭い声が飛んできた。セラだ。
赤い瞳を燃やしながら、盗賊たちの前に立ちはだかる。
盗賊A「チッ……村の小娘か」
セラ「この付近に王都があることも知らないの…!?」
セラが片手をかざすと、魔力の光が集まり、小さな火球が生まれた。
セラ「身の程を知りなさい…!!」
放たれた炎は盗賊の足元で爆ぜ、土煙を上げる。
盗賊B「ぐっ……!」
盗賊C「こ、このガキ、ただ者じゃねぇぞ!」
盗賊A「撤退だ…!なんなんだアイツ…!?」
盗賊たちは顔をしかめ、舌打ちをして草原の向こうへと逃げていった。
冬夜は膝から崩れ落ちた。
冬夜「……た、助かった……」
セラはふぅと息を吐き、冬夜の方を振り返る。
セラ「……なに呆けてんのよ。冬夜って本当に魔法を持たないのね。」
冬夜「ご、ごめん……。」
セラ「まったく……放っといたら今頃どこかに売られてたわよ。」
そう言いながらも、セラは冬夜の腕を引っ張って立ち上がらせた。
その手は小さくても、確かに温かかった。
冬夜「……ありがとう、セラ。
誰かに救ってもらうなんて初めてで…。」
セラ「べ、別に!あんたが死んだら
昨日の出来事が無駄になっちゃうでしょ!だから守っただけ!」
耳まで真っ赤にしながら怒鳴るセラ。
冬夜は、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。
冬夜「さっきのような人たちが50年も連続で
この村へ襲いに来てるって事…?」
冬夜は今朝教えてくれたことを思い出し、セラに尋ねる。
セラ「そうよ。あんな奴らがずっとよ。
正直ちょっと牙を剥くだけですぐ逃げていくから
話にもならない連中だけどね。」
すると次の瞬間、セラは冬夜をにらみつける。
セラ「でも、私でも歯が立たないぐらい強いヤツがたまに来るの。
もし出くわしたら…。背を向けずに逃げる以外生き残れないわ。」
セラでも歯が立たない相手…
その言葉を聞いて冬夜は戦慄した。
すると、セラは不意に笑顔になった。
セラ「ま、冬夜ならそんな奴が来ても生き残れるはずよ!」
冬夜「どこからそんな考えが思い浮かぶんだ…。」
こうして2人はたくさんのトマトを運びながら
村へ向かうのであった。




