第5話 悪魔族とは
これまでの登場人物
●神城 冬夜 (かみしろ とうや) 15歳 男性
前の世界では両親の虐待とクラスメイト達のいじめで心を閉ざした。
のちに両親への反抗として財布から現金を奪ったのちに
コンビニへ行こうとしたところ…
信号無視のミニバンに轢かれて死んでしまった。
新たな世界では空き家にクワとジョウロと虹色の種
そして分厚い農業の本があったため
1人で食を確保しようと奮闘することになる。
●セラ・トミーガーデン 年齢不明 女性
悪魔の村で暮らす少女。見た目は冬夜より少し年上ぐらい。
人間と触れ合うのは実は初めてだが
『学校の男子たちと同じように話せばいいでしょ!』の
気持ちで話しかけているため、時々距離感がバグることがある。
冬夜がこの世界に来たことで、家族の本来あるべき姿を目の当たりにし
自分もそこに混ぜてもらったことで、自然と笑顔が出てくるようになった。
セラの両親は冬夜が来たことでいつもより多く飲んだらしい。
どうやらこの世界にもお酒はある。
そして食事を終え、4人は就寝した。
夜明け前。冬夜は目を覚まし外に出る。
雲はところどころに点在しているが、それを上回るほどの空が
今日の日の出を待っている。
朝の風は涼しく、優しく冬夜を撫でて過ぎ去っていく。
セラ「あ、ここにいた!」
セラは起床した際に冬夜がいないことに気づき
家中を捜していたという。
冬夜「おはよう、セラ。」
冬夜は笑顔でセラにあいさつするが、セラはムスッとした表情だ。
セラ「もう…!朝起きたら家中捜してもどこにもいなかったから
畑に行ってるか、誰かに殺されたかと思ったじゃない!」
セラは完全な怒った表情ではなく心配をする表情も混ざっている。
冬夜「『殺されたかと思った』…?この村って、そんな物騒なの?」
セラ「だってこの村は、王都から1番近い村なのよ!
王都からやってくるならず者たちが安息を求めて
この地にやってくることなんてもう50年連続で起きてるんだから!」
50年。言い換えれば半世紀。人間ならもう初老の年になる。
四半世紀すら生きていない冬夜にとっては途方もない歳月だろう。
なのにセラがそれを知っているという事は…。
冬夜「なぜ50年もここでそんなことが起きてるのを知ってるんだ…?」
セラ「私たち悪魔族や、他の種族は人間族より10倍も長寿なの。
50年なんてホント短い出来事に過ぎないのよ。」
悪魔族がそれほど長生きだとは…。
でも、セラはどう見ても綺麗なお姉さんにしか見えない…。
そこで冬夜は気になる質問をする。
冬夜「どうしてそこまで長生きなんだ…?」
しかし返って来たのは曖昧な返事だった。
セラ「さぁ…?私のおじいちゃんおばあちゃんも
もうすぐで900歳だけど、まだまだ元気だよ。
今でもランニングや滑空を毎日やってるし…
もしかしたら1000歳超えちゃったり…!」
その100年は人間にとっては文化が丸々変わっちゃうんだよなぁ…。
そう冬夜が心の中でツッコむと、母親がやって来た。
セラ母「あら、セラがこんな朝早くから起きてるなんて珍しいわね。」
セラ「あ、お母さん!おはよ!」
セラは母に明るく挨拶する。が、父が来ない。
冬夜「そういえば、お父さんは…?」
母は呆れ…というかいつものことだというように話す。
セラ母「昨日飲み過ぎたことでまだぐっすり眠ってるみたいですよ。
今日も仕事なんですけどねぇ。」
冬夜の父も飲み過ぎが原因でよく起こせと頼まれたが
起こしたら「まだ寝かせろカス」と言って再び寝る。
そして起こさなかったら「起こせと言ったはずなのに無能が」と言われる。
冬夜は苦い表情をして母に話す。
冬夜「それは…起こした方がいいのでしょうか…。」
冬夜が渋々聞くと、母は当然と言うように答える。
セラ母「もちろんよ。遅刻しちゃったら大変じゃない。
さ、セラ。お父さんを起こしてちょうだい。」
その言葉を聞いてセラは家の中に入る。
そして母は不安そうな表情で冬夜になぜ質問をしたのかを聞いた。
セラ母「どうしてあんなことを聞いたのですか…?」
冬夜は胸の内から絞り出すように話す。
冬夜「昨日もセラが話してくれたように、僕は前の世界では
奴隷のような扱いを受けてました。
分からないことを聞いただけなのに…殴られ、蹴られ、半殺しにされて。」
そう言うと冬夜は左肩にある痛々しい傷を見せる。
その傷を見て母は速攻で治癒魔法を使った。
…だが、効果は表れなかった。
セラ母「うそ…?私の治癒魔法が効かないなんて…。
どんな身体してるのよ…!?」
母の表情は驚きと絶望が混ざっていた。
冬夜「…お母さん。治癒魔法を使ってくれたのは嬉しいですけど…。
それだけではどうにもならないほどの傷なんです。」
そして冬夜は袖を元に戻し肩の傷を隠した。
それと同じタイミングで
セラの父が大きなあくびをしながら外にやって来た。
セラ父「ふあぁあぁああぁあ~…。おはよぉ~むにゃむにゃ…。」
母は表情を硬くして父に話す。
セラ母「あなた、この子を丁重に扱ってちょうだい。
昨日のようなお話を次もしたら
もう何もかも残らないと思ってください…!!」
その言葉を聞いた父は一気に目が覚めた。
セラ父「あ………。わかった。昨日の時点でそうしようと思ってたところだ。」
その言葉を聞いて母は昨日見せた笑顔に戻り、家の中へ入っていった。
男同士2人きりで日の出の光が差し込む。
冬夜は父に、セラから聞いた悪魔族について
さらに知りたいと思っていたため質問をしてみる。
冬夜「あの…セラから聞いたんですけど、悪魔族の寿命って
人間の10倍…というのは、本当でしょうか…?」
その質問に父は優しく返す。
セラ父「そうだぞ。真人間以外は寿命が10倍さ。
それに伴って、年齢制限モノの下限も人間の10倍だ。
僕が昨日飲んでたお酒だって、人間だったら20歳で飲めるけど
それ以外の種族は200歳からだね。」
そしてお酒の話になったからか、父はワクワクしていることがあるという。
セラ父「あの子もあと5年で200歳。僕たちと一緒にお酒が飲めるようになる。
自分の子供とお酒を飲めるようになるのが
人生の中で1番待ち遠しい時間だよ。」
そして父は冬夜にこんな質問を投げてきた。
セラ父「そういえば、冬夜くんはいくつなんだ?
もしかしたらもうすぐでお酒が飲める年頃なのかなと思ってね。」
悪魔族は勘が鋭すぎる…。下手にウソはつけないなと冬夜は感じる。
冬夜「15歳です。」
そう冬夜が答えると、父は眼を輝かせた。
セラ父「15歳か…!!5年後、セラと一緒にお酒が飲めるじゃないか!!
楽しみがまた1つ増えたぞぉ~!!くぅ~~ッ!!」
父はガッツポーズをして片足を上げる。
あまりのテンションの上がりように冬夜は困惑していた。
冬夜「あの…お父さん。テンション上がりすぎでは…?」
そう言うと父は間を置かずに冬夜の両肩をつかんで笑顔で話す。
セラ父「15歳のキミではまだ分からないとは思うが
大人になって、子供が生まれたら僕と同じことを考えるはずさ。
愛する我が子が成長して、その我が子と一緒に
お酒を飲んで盛り上がる…。
それはすべての親が望む最高の幸せなんだよ。」
セラの父が望む夢、それは成長した子供とお酒を飲むこと。
冬夜「僕にも、そんな日が訪れるのかな。」
空を見上げながら冬夜はつぶやく。
セラ父「必ず来るさ。キミはイイ男だからね。
その魅力に女の子は必ず寄ってくるはずさ。」
父がそう言うと冬夜は少し苦笑いをした。
セラ父「さて、今日も仕事だ。冬夜くんも、今日1日頑張ろうな。」
そう言って父は家の中に入っていった。
冬夜「さてと…昨日植えたトマトはどうなってるかな。」
そう言って冬夜も家に入り身支度を済ませ、丘の上にある畑へ向かうのだった。




