第25話 天使の国に流れたウワサ
これまでの登場人物
●神城 冬夜 (かみしろ とうや) 15歳 男性
交通事故で死んだ後この世界にやって来て
トマトを作っていたら2つの国の戦争を終わらせ
5人の新規同居者に恵まれた。
●セラ・トミーガーデン 195歳 女性
トマトの村で暮らす少女。見た目は冬夜より少し年上ぐらい。
人間と触れ合うのは実は初めてだが
『学校の男子たちと同じように話せばいいでしょ!』の
気持ちで話しかけているため、時々距離感がバグることがある。
冬夜のことがますます気になってきたようだ。
●セリカ 年齢不詳 女性
蜘蛛族で下半身が本物の蜘蛛のように変身できる。
額にも目が2つあり、視力はかなり良い。
おっとりした性格で大抵はニコニコしている。
●シルビア 年齢不詳 女性
手先が器用で裁縫が得意なダークエルフ。
何に対しても興味を持ち、常に元気。
作った服を村人たちに着てもらい
喜んでもらうことを夢見ている。
●ティアール 年齢不詳 女性
ヴァンパイア族で見た目は冬夜を除いて1番幼い。
控えめで素直な態度をとる性格で、血を扱う魔法が使える。
自己主張をしたがらないので
相手に押されてばかりなこともしばしば。
●インテグラ 年齢不詳 女性
猫耳を付けた獣人族。主に治癒の薬を作ることに専念している。
だが用途通りに使われないことが多く途方に暮れている。
暗い性格でよく自分を卑下するが
本人は少しでも何とかしたいと思っている。
●アテンザ 年齢不詳(205歳以上) 女性
元天使軍の兵士として天使の国を守っていた…が
実際は拠点の門番役だったらしい。
大空を飛ぶことに憧れ、自力で曲芸飛行を覚えた。
いつか冬夜を抱えて雲の上の世界を見せてあげたいと考えている。
トマトの村に寿司が流行りだしてから1週間ほどが経った。
冬夜たちが暮らす悪魔の国から巨大な川の向こう側。
天使の国のとある食堂にて、宮殿警備の天使たちが
仕事の休憩時間にお茶を飲みながら世間話をしていた。
天使A「ねぇ、知ってる?隣国のとある村で
“スシ”っていう料理が流行ってるんだって。」
天使B「スシ?なにそれ、歌か舞か?」
天使A「違う違う!お米を丸めて、その上に魚を乗せるんだってさ。」
天使C「魚をそのまま食べるの!?そこの人間って大丈夫なの?」
天使A「それがすっごく美味しいらしいの。
回ってるとかいう噂もあって…。」
天使B「回る…?料理が回るのか?まるで天使の国の宴会芸みたいじゃないか。」
天使C「なんか気になるわね…。
女王陛下にお願いして、食べに行けないかしら。」
天使A「そうだ、ちょっとアナタ。隣国の村に行って
スシを作ってもらえないか交渉してきなさいよ!」
こうして寿司の噂は光の国・天使国にまで届き
やがて「我々にもスシを!」と広まっていく。
そして天使の国から1人の男性天使が飛び立って行った。
────
数日後、冬夜の家の戸を叩く音。
ティアールと冬夜がドアを開けると
そこに立っていたのは、純白の翼を広げた天使だった。
天使D「人間よ、あなたは冬夜様であろう?」
冬夜「え、あ、はい。どちらさまで…?」
アテンザ「その声、セブンですね。お久しぶりです。」
やってきた天使はアテンザの知り合いだった。
アテンザの姿を見たセブンはいきなり弾ける笑顔が出た。
セブン「アテンザか!久しぶりだな!元気にしてるか?」
セブンの笑顔に釣られたのか、アテンザも穏やかな笑顔で話す。
アテンザ「戦闘がないので退屈はしてますが…
それを除けば毎日楽しいですよ。」
セブン「それはよかった!アテンザが急に悪魔の国へ
移住しに行くとか言ったもんだから心配だったが
問題なさそうだな!」
セブンは終始ニコニコでアテンザと会話を楽しんだ後
本題を話し始める。
セブン「実は我ら天使の国にも“スシ”の噂が届いてな。
ぜひとも我に寿司の握り方を教えてほしい!そして――回し方も!」
ティアール「ま、回し方!?な、何を言って…。」
冬夜は苦笑しつつ答える。
冬夜「えっと…回すのは別に僕が手で投げたりしてるわけじゃないんだよ。
専用の機械に寿司を乗せておけば、自動で流れていくんだ。」
セブン「な、なんと!寿司が自ら輪を描くというのか!?
それは天界の理に通ずる“無限の環”ではないか!」
ティアール「ちょっと大げさすぎませんか…!?」
その直後、魔王がトマトを取りに冬夜の家にやって来た。
魔王「お~い、冬夜よ!例のトマトを頼むぞ~!」
いきなりやってきた魔王にセブンはビビりちらかしていた。
セブン「うひゃあ!?ま、魔王さ…!?」
ビビるセブンを気にも留めない2人。
冬夜は魔王にトマトをカゴ3つ分渡した。
魔王「いつもありがとうな、冬夜。」
魔王が飛び立とうとする直前、冬夜が止める。
冬夜「あ、ちょっと待ってください魔王様!
ちょっと頼みたいことがありまして…。」
魔王「なんだ?また新たな料理の提案か?」
魔王はなんだかウキウキしているようだ。
冬夜「実は、回転寿司というものを作ろうと思ってまして……。」
それを聞いた魔王はさらに心が躍る。
魔王「なんと…!ちょっとどんなものなのか、この紙に書いてほしい。」
冬夜は魔王から紙とペンを受け取り
寿司を回す仕組みをさらさらと描き出した。
冬夜「こうやって…楕円形の形にして、寿司をこの上に乗せるんです。」
出来上がった設計図は、まるで子どもの落書きのようなシンプルなもの。
だが“回る寿司”という概念は十分に伝わるものだった。
魔王「ほう…!ならば、専門家を呼んでくるとしよう。
ちょうどヒマしてるだろうからな!」
そう言って魔王は城へと戻って行った。
数十分後、魔王は1人の技術師を連れてきた。
技術師「私の名はハリアー。王都で昇降機や門の開閉などといった
大きなものを動かすことを自動化することに適した悪魔技師だ。」
堂々とした様子からは魔王から絶大な信頼を置いているように見える。
そしてハリアーは先ほど冬夜が描いた図を受け取った。
黒いエプロンを締め直しながら、真剣な顔でうなずく。
ハリアー「なるほど……レーンという物を動かすだけであれば
魔法を軽くかければ動かせるぞ。動力は、そうだな…。
魔石を使えば半永久的に回り続けるはずだ。」
ティアール「ちょ、ちょっと待って。そんな簡単に回せるの?」
ハリアー「私ら悪魔は“回す”のは、得意ですからな!ハッハッハ!」
なぜか誇らしげになるハリアーに冬夜は苦笑いを浮かべた。
冬夜 (いや、得意不得意の問題なのか……?)




