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第2話 悪魔の村と種まき

これまでの登場人物

●神城 冬夜 (かみしろ とうや) 15歳 男性

 前の世界では両親の虐待とクラスメイト達のいじめで心を閉ざした。

 のちに両親への反抗として財布から現金を奪ったのちに

 コンビニへ行こうとしたところ…

 信号無視のミニバンに轢かれて死んでしまった。

 新たな世界では空き家にクワとジョウロと虹色の種

 そして分厚い農業の本があったため

 1人で食を確保しようと奮闘することになる。


 村の入り口に近づくと、そこにいた人々――

 いや、悪魔のような姿をした人たちが十数人ほどいた。

 角を生やした青年、翼をなびかせる主婦、灰色の皮膚をした老婆。

 だが、彼らは冬夜を見つけても敵意を向けず、不思議そうに眺めていた。


角を生やした青年「人間……? なんでこんな場所に」

目つきの悪い老婆「でも、弱そうじゃのぉ。魔力の気配もない。」

ガタイのいい男「ふん、放っておけばすぐ死ぬだろう」


 冷ややかな言葉。それでも冬夜にとってはまだ全然優しい方である。

 殴られるより、笑われるより、ずっと。


 すると、赤い瞳の少女が冬夜に向かってきた。

 冬夜より少し年上のお姉さんに見える。


少女「アンタ、見ない顔ね。何しに来たの?」


 少女が尋ねると、冬夜は戸惑いながらも自分の意思を伝えることにした。

 ──この人は僕の意見を笑うそぶりは見せないだろう。と


冬夜「あの丘の向こうにある家なんですけど…あそこに住んでもいいですか…?」


 冬夜が先ほどまでいた丘のボロ家を指差し少女に聞く。

 先ほどまで険悪な顔をしていた少女は

 冬夜の家を見て不思議がる表情へと変わった。


少女「へ?あんな家あったかしら…?」


 そう言って間髪(かんはつ)置かず、少女はニヤリと不気味な笑みを浮かべる。


少女「でも住むのはいいわよ。ただし、自分の食い扶持(ぶち)は自分で探しなさい。

   魔法も使えないなら、せめて畑を(たがや)すぐらいはできるでしょ?」


 少女は了承してくれたが、トゲのある言葉を返してきた。

 厳しくても、それが現実。働かざる者は食うべからず、だ。


冬夜「あ、ありがとうございますっ!」


 冬夜は少女にお礼を言うと、丘の家まで戻ることにした。


 丘に到着し、冬夜は空き家に入る。

 今日からここが僕の家。だけど…。

 床はきしみ、壁には隙間風が吹き込む。それでも雨風を凌げるだけありがたい。


 冬夜は家の中を探索していると

 なぜか勝手に開いたクローゼットから何かが倒れてきた。

 

 ──まるで冬夜を待っていたかのように。


冬夜「うわっ!?なんでクローゼットが勝手に…。ってこれは…?」


 ──クワだ。よくある農作業で使う、土を掘り起こして畑を耕す物。


冬夜「前に住んでいた人は、農家だったのかな。」


 冬夜はクワを手にする。

 すると、あの時少女から言われた言葉がよみがえってくる。


(回想)少女『魔法も使えないなら、せめて畑を耕すくらいはできるでしょ?』


 冬夜は「意地でもやってやる」と想いを固め、玄関へ行く。

 そこには先ほどまではなかったはずの、袋に入った植物の種と1冊の分厚い本

 そして赤黒く染められた鉄製のジョウロが置いてあった。


 種はなぜか虹色だ。少し気味が悪い。


冬夜「なんだよここ…農家の幽霊が僕に何かしようとしているのか…?」


 連続する怪奇現象に冬夜は恐怖を感じるが

 それ以前に食べるものを作らなくては。


 冬夜は分厚い本を手に取る。


『農業入門 ~畑を耕し、食を得るために~』


 表紙には見慣れぬ文字が並んでいるのに

 なぜか内容は頭の中にすらすらと入ってきた。


『この世界の土は、作物の種を植えれば気候にかかわらず必ず育つ。

 野菜の姿を心に思い描きながら畑を耕して種を植えれば、その野菜が芽吹く。

 ただし、水やりを怠れば、育たぬ。』


冬夜「な、なんだそれ……」


 常識では絶対に考えられない。

 けれど、本にはクワで畑を耕して虹色の種をまくと

 冬夜にとって見覚えのある野菜が育っているイラストがある。


 本当に育つのか気になるところではある。


 冬夜はクワと種と本を持って家の裏側へ行くことにした。

 広がる草原の一角、地面を掘り返すにはちょうどいい場所だった。


 冬夜はクワを手にして深呼吸をひとつ。

 そして、頭の中にイメージを描いた。


 (……赤くて丸いトマト。甘酸っぱくて、みずみずしいやつ……)


 ザクッ、ザクッと土を掘り返しては種を植える。

 そして水をかけ土を潤していく。


 種は残り13粒。冬夜はこの種すべてを

 トマトにイメージして種を植えて水をかけた。


 が、最後の1粒を植えたところで、ジョウロの水がなくなってしまった。


冬夜「しまった…。もう水が終わっちゃったか…。」


 冬夜は村のそばにある川へ水を汲みに行くことにした。

 村まで片道5分はかかるだろうか。かなり歩く気がする。


 そして川辺へ着き、ジョウロに水を汲む。

 すると、先ほど冬夜に声を掛けた赤い瞳の少女が話しかけてきた。


少女「なにしてるの?」


 振り向くと、少女は腰に腕をあてて立っていた。

 赤い瞳が、冬夜の持つ赤黒いジョウロをじっと見つめる。


冬夜「野菜を……育ててみようと思って。」

少女「ふぅん……。野菜を育てる人なんて

   王都の外壁近くに住む人しかやらないわよ。」


 少女がこう言うという事は、このあたりの土は育ちにくい…

 という事なのだろうか。


 いや、あの本には『気候にかかわらず育つ』と書いてあったはず…。


冬夜「あの家の中にクワとジョウロ、そして虹色の種が置いてあったんだ。」


 冬夜は少女に農業を始めるきっかけを話す。


冬夜「それに、キミが『魔法が使えないなら畑でも耕せ』って

   言ってくれたから…。」


 冬夜がそう言うと、少女は今までこらえていたような笑いを漏らす。


少女「プッ…。あれ、ホンキにしてたの?人間って本当に面白いわねぇ!」


 …嘲笑われた気がする。だけど、両親やクラスメイトと違って

 どこか柔らかい感じがした。


少女「で、本当に土を掘って畑を耕してたのぉ?ちょっと見せてよ~!」


 少女は興味本位なのか嘲笑したいのか冬夜にはよく理解できなかったが

 目を輝かせて冬夜を見つめていたため、連れてくることにした。




 6分ほどかけて、畑に到着した。

 なんともう芽が出てる。


冬夜「育つの…早くない?

   芽が出るまで数日はかかるだろうと思ってたんだけど…。」




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