第18話 強制涙とカレー作り
これまでの登場人物
●神城 冬夜 (かみしろ とうや) 15歳 男性
交通事故で死んだ後この世界にやって来て
トマトを作っていたら2つの国の戦争を終わらせ
5人の新規同居者に恵まれた。
●セラ・トミーガーデン 195歳 女性
悪魔の村で暮らす少女。見た目は冬夜より少し年上ぐらい。
人間と触れ合うのは実は初めてだが
『学校の男子たちと同じように話せばいいでしょ!』の
気持ちで話しかけているため、時々距離感がバグることがある。
冬夜のことがますます気になってきたようだ。
●セリカ 年齢不詳 女性
蜘蛛族で下半身が本物の蜘蛛のように変身できる。
額にも目が2つあり、視力はかなり良い。
おっとりした性格で大抵はニコニコしている。
●シルビア 年齢不詳 女性
手先が器用で裁縫が得意なダークエルフ。
何に対しても興味を持ち、常に元気。
作った服を村人たちに着てもらい
喜んでもらうことを夢見ている。
●ティアール 年齢不詳 女性
ヴァンパイア族で見た目は冬夜を除いて1番幼い。
控えめで素直な態度をとる性格で、血を扱う魔法が使える。
自己主張をしたがらないので
相手に押されてばかりなこともしばしば。
●インテグラ 年齢不詳 女性
猫耳を付けた獣人族。主に治癒の薬を作ることに専念している。
だが用途通りに使われないことが多く途方に暮れている。
暗い性格でよく自分を卑下するが
本人は少しでも何とかしたいと思っている。
●アテンザ 年齢不詳(205歳以上) 女性
元天使軍の兵士として天使の国を守っていた…が
実際は拠点の門番役だったらしい。
大空を飛ぶことに憧れ、自力で曲芸飛行を覚えた。
いつか冬夜を抱えて雲の上の世界を見せてあげたいと考えている。
パクチーはすべてインテグラの薬剤調合に使うことになった。
冬夜は畑で収穫したスパイスを1つひとつ確認し
大きめのフライパンを用意した。
それらを持って畑のそばにある小さな調理場へ移動する。
セラたちも興味津々で集まってくる。
冬夜「じゃあまずは……玉ねぎを刻んでもらおうかな。」
冬夜は包丁と玉ねぎを人数分用意し、6人に渡す。
セラが元気よく包丁を握り、シルビアが「任せなさい!」と張り切る。
しかし、最初のひとかけらを切った瞬間――。
セラ「いっ……い゛たぁあ!? 目が!目がぁあああ!!」
シルビア「くっ……なんで!? 視界が滲むっ!」
ティアール「ご、ごめんなさい……!止まらなくて……!」
インテグラ「わぁああ…!おかぁあさぁーん…!!」
アテンザ「これは…敵の催涙魔法並みね……っ!」
セリカ「なんですかぁこれはぁ~!!」
全員、包丁を握ったまま涙を流し、完全に戦場のような光景となっていた。
そんな中、冬夜はやっぱり…と言わんばかりの顔で言う。
冬夜「……玉ねぎは切られると、機嫌の良し悪しにかかわらず
人に涙を流させるちょっとスゴイ野菜なんだ。」
セラが涙でぐしゃぐしゃになりながら振り返る。
セラ「な、何それぇ!?呪いの野菜なのっ!?
もう二度と切りたくないわよぉぉ!」
するとシルビアが涙目になりながらもニヤリと笑う。
シルビア「でもスパイスと合わせれば美味しいんでしょ?」
冬夜「もちろん。全部混ぜて出来上がった味はたまんないほど最高なんだ!」
みんな涙でボロボロになりながらも
少しずつ切られた玉ねぎが山を作っていく。
冬夜は「ありがとう」と微笑み、フライパンに油を入れていく。
そこにまず、シナモン、カルダモン、ベイリーフを入れる。
カルダモンとベイリーフはスパイス畑から収穫し
シナモンに関しては、移住者からもらったものだ。
────────
狐耳の移住者「移住前にいた森でこんなものがあったんだ。
結構独特なにおいで、仲間が薬品ぐらいにしかならないと
言ってたんだが…。」
冬夜「あ、それです!!新しい料理の材料になるんです!」
狐耳の移住者「これがか?変なものを使うんだなぁ。ま、これはあげるよ。
俺は薬剤師じゃないから持ってても意味ないしな。」
冬夜「ありがとうございます!!」
狐耳の移住者「へへっ。英雄様のお役に立てて嬉しいもんだなぁ。」
────────
冬夜は火の魔法を使える人はいないかと尋ねると
6人全員が手を上げた。
その様子を見て冬夜は開いた口が塞がらない。
そこにセラが釘を刺すような言葉を放つ。
セラ「火を出すなんて初歩の魔法よ。誰だって覚えられるわ。」
冬夜の心にはなかなかのダメージが入ったところで
セラがフライパンの近くに手をかざす。
冬夜「えっと…優しく火をつけてね…?」
冬夜の言われた通りにセラは小さな火をフライパンの下に灯した。
フライパンはぐつぐつと音を立て、冬夜はスパイス3種を炒めていく。
そしてセラたちが切ってくれた玉ねぎを入れていく。
しばらく炒めて玉ねぎが狐のように黄色くなってきた。
次にこれもスパイス畑で収穫して冬夜自身がみじん切りにした
生姜とニンニクを入れてまたも炒めていく。
その様子を見てセラが腰に手を当てて話しかけてきた。
セラ「さっきからずっと炒めてばっかりね。
そこまでしないとできないものなのかしら…?」
冬夜「そうなんだよ。カレーは炒めて炒めて
よぉ~く炒めて作る料理なんだ。」
セラが苦笑いすると、冬夜はこの村名物になったものを取り出した。
そう、トマトだ。
事前に刻んだトマトをフライパンに入れてまたも炒める。
ティアール「あ、トマト…!カレーにも使うんですね。」
冬夜「トマトを入れることで酸味がありつつもまろやかにしてくれるんだ。
味の的を射るにはトマトが良い…なんちゃって。」
ティアールは思わず吹き出す。
このダジャレもあのインド人が言い出したものだという事は
内緒にしておこう。
冬夜「そして次に、塩を入れる。」
この塩はセラの母から貰ったもの。
村人や移住者の支援があってこそ生み出される料理に
セラたちだけでなく、冬夜も期待に胸を膨らませていた。
そしていよいよ本格的スパイスを投入する…!
粉状にしたターメリック、ガラムマサラ、コリアンダー、クミン
そして唐辛子を少し入れる。
冬夜「う~ん…!いい感じになってきた!」
スパイスと玉ねぎの甘みが絡み合い
香ばしさと刺激が混ざり合った匂いが立ち上っていた。
セラは頬を押さえて完成を待っている。
セラ「うわぁ…これ、なんだかお腹が勝手に鳴っちゃう…!」
インテグラは鼻をひくひくさせ、香りを楽しむ。
インテグラ「すごい…これは薬膳どころじゃない…。
生きる力が湧いてくるような香りがします…!」
冬夜が見ているカレーの作り方の本を6人ものぞいてみる。
作り方の書きこみに所々あのインド人男性がまばゆい笑顔で
カレーを作る工程の写真が現れる。
アテンザ「…ものすごくいい笑顔でカレーを作ってる。
やはりカレーはおいしい料理なのね…。」
シルビア「でも、この顔の人見たことないわね…。
冬夜みたいに違う世界の人なのかな?」
ティアール「どうでもインド…?えっと冬夜さん、これは…?」
冬夜「あぁ…インドっていうのは…僕が前にいた世界にある国のことだよ。
カレーってのはこの国から生まれたんだ。」
6人がそのインド人男性に様々な疑問を抱く最中
カレーのにおいが風に乗って村の中心部へと行き届いていく。
広場で子どもたちが遊んでいたが、ふと一人が立ち止まる。
子ども「…なんかいい匂いしない?」
次第に人々も気づきはじめ、「あの匂いは一体どこから?」と
ざわめきが広がる。
村長「むむ、この香り…異国の祭りか?」
と村長までも匂いの元を探しに歩き出すのだった。
──────
カレーの完成まであと少し。
だがある食材がない。
冬夜「あとは肉だけど…。それっぽいのがないな…。」
冬夜は本を読み返してみる。
本に載っているカレーには鶏肉を使っている。
また、説明には『インド人は牛肉を食べないけど肉は何でもいいヨ』
と書かれている。
冬夜「…そうだ、ケンルタスの肉!誰かケンルタスの肉持ってない?」
冬夜が6人に聞くとアテンザが手を挙げた。
アテンザ「おととい、この村に来る前にケンルタス狩りをしてたの。
3匹分しか狩れなかったけど…それでもいい?」
3匹分。あの牛肉のように美味しいケンルタスの肉が
3匹分もカレーに入れられる。冬夜にとっては十分すぎる量だ。
冬夜「3匹分!?それ使ってもいいかな…!?」
アテンザ「もちろん。その新しい料理でみんなが笑顔になるなら
何だって用意するよ。」
その言葉を聞いて冬夜は涙を流しつつも笑顔になる。
冬夜「ありがとうアテンザ!!」
アテンザはウインクを飛ばし、冬夜はケンルタス肉を投入する。
ティアール「わぁあぁあ…!!」
間もなくできるカレーの出来栄えにティアールは思わず声が漏れる。
そして冬夜はまた魔法に関することを聞いてきた。
冬夜「誰か水の魔法を使える人はいない?」
冬夜の問いにとっさに反応したのは全員。6人が手を挙げた。
その様子を見て冬夜は驚愕。
セラ「火より初歩の魔法よ…?」
それを聞いた冬夜は落ち込んでしまった。
とっさにティアールが慰めてくる。
ティアール「だ、大丈夫です…!本を読んだりなどして
いっぱい練習すれば出ますよ…!!」
ティアール本人として、その言葉の量では足りないと思っていたが
思ったより冬夜の立ち直りは早かった。
冬夜「そ、そうだよね…!無力でも努力して
成果を出してこそだよね…!!」
こうして冬夜の隣でティアールはフライパンの上に手をかざし
魔力を集中させる。
そして───
少量の水がフライパンに注がれていった。
──本当に少量の水が。
冬夜「オッケー、これぐらいで大丈夫。」
冬夜は仕上げに炒める速度を速める。
そしてとうとうカレーが出来上がった。
だが…。
冬夜「アレがない……!!」




