第16話 部屋の割り当て
これまでの登場人物
●神城 冬夜 (かみしろ とうや) 15歳 男性
交通事故で死んだ後この世界にやって来て
トマトを作っていたら2つの国の戦争を終わらせ
5人の新規同居者に恵まれた。
●セラ・トミーガーデン 195歳 女性
悪魔の村で暮らす少女。見た目は冬夜より少し年上ぐらい。
人間と触れ合うのは実は初めてだが
『学校の男子たちと同じように話せばいいでしょ!』の
気持ちで話しかけているため、時々距離感がバグることがある。
冬夜のことがますます気になってきたようだ。
●セリカ 年齢不詳 女性
蜘蛛族で下半身が本物の蜘蛛のように変身できる。
額にも目が2つあり、視力はかなり良い。
おっとりした性格で大抵はニコニコしている。
●シルビア 年齢不詳 女性
手先が器用で裁縫が得意なダークエルフ。
何に対しても興味を持ち、常に元気。
作った服を村人たちに着てもらい
喜んでもらうことを夢見ている。
●ティアール 年齢不詳 女性
ヴァンパイア族で見た目は冬夜を除いて1番幼い。
控えめで素直な態度をとる性格で、血を扱う魔法が使える。
自己主張をしたがらないので
相手に押されてばかりなこともしばしば。
●インテグラ 年齢不詳 女性
猫耳を付けた獣人族。主に治癒の薬を作ることに専念している。
だが用途通りに使われないことが多く途方に暮れている。
暗い性格でよく自分を卑下するが
本人は少しでも何とかしたいと思っている。
●アテンザ 年齢不詳(205歳以上) 女性
元天使軍の兵士として天使の国を守っていた…が
実際は拠点の門番役だったらしい。
大空を飛ぶことに憧れ、自力で曲芸飛行を覚えた。
いつか冬夜を抱えて雲の上の世界を見せてあげたいと考えている。
5人の自己紹介が終わり、新居の部屋割りを
決める段になったとき――
セリカ「……冬夜さんの隣、静かで落ち着きそう。
冬夜さんに安心を送るためにぜひ私を隣に…!」
シルビア「いいや、隣は私でしょ。ほら、夜業して
服とか裁縫するとき、すぐに冬夜を呼べるし!」
ティアール「あの……わたし、血を扱う術を夜に練習することが多いので……
すぐ助けてもらえる場所にいたほうが、安心できるのですが…。」
インテグラ「……薬草の匂い、強いから……
隣にいれば……中和にちょうどいいかもです…。」
アテンザ「……冬夜を守るには、隣が最も合理的なはずです。
戦闘力のある私が適任かと。」
5人が同時に隣を希望。空気がピキピキと張り詰める。
冬夜 (やめてくれぇ……僕の隣の部屋は2つしかないんだぁ……!!
胃が痛くなってきた…吐きそうだぁ…!)
お腹を抱える冬夜にセラがクスクス笑いながらささやく。
セラ「ねぇ冬夜、くじ引きにでもしたら?」
冬夜「くじ引き…!いいね、じゃあくじ作ってくる──」
冬夜の発言を遮るかのようにシルビアが少し物騒な提案をする。
シルビア「誰か冬夜の隣にふさわしいか、
ここは実力で決めるべきでしょ!」
アテンザ「望むところです。」
その提案にアテンザは速攻で乗る。
セリカ「えっ、け、喧嘩はだめですよぉ…。」
ティアール「そ、そうですよ…!冬夜さんが困ってます…!」
インテグラ「……わ、私はどこでもいいですから……でも、できれば……。」
豪邸のリビングにて、突如「冬夜の隣争奪戦」が始まる。
その論争を止めるかのようにセラが大声で5人に呼びかけた。
セラ「はいちゅーもぉーく!!冬夜がくじを作ったから
みんなで引いていこう!!」
セラの提案で、公平にくじ引き大会が行われることになった。
冬夜が急ごしらえで用意したくじの紙切れを握りしめ
移住者5人が真剣な表情で並ぶ。
冬夜「えっと……一応、部屋の位置が書いてあるから
引いたらそのまま入ってね。」
シルビアは張り切っている。
シルビア「オッケー!こういうのは運も実力のうちだからね!」
セリカ「……えへへ、どの部屋でも楽しそうだなぁ。」
アテンザ「勝敗は天に委ねるのみ…か。悪くないね。」
そして、結果――
アテンザ → 一番左の部屋
セリカ → その隣
ティアール → 冬夜の左隣
冬夜 → 真ん中 (固定)
インテグラ → 冬夜の右隣
シルビア → 一番右
セラ → シルビアの隣 (事前に決めた)
冬夜「おお……こうなったか。」
ティアールはうれしさのあまり小さくガッツポーズをして
少し取り乱す。
ティアール「…す、すみません、ちょっと嬉しくて…!」
インテグラはボソッとしながらも笑顔になる。
インテグラ「……悪くない結果……。」
シルビアはくじ結果に納得がいかないのか
不満げに頬をふくらませている。
シルビア「ちょっと!なんで私が端っこ!?
これ絶対なんか仕組まれてるでしょ!」
そこにアテンザ、セリカ、セラがやってくる。
アテンザ「私が真の端っこだよ。
両隣に誰かがいるだけいいじゃないの。」
セリカ「どこであろうと、自分の部屋があるのはいいものですよぉ~。」
セラはクスクス笑ってシルビアにささやく。
セラ「ふふ、でも私も端っこだから一緒だよ?
仲良くしようね、シルビアちゃんっ!」
その言葉にシルビアは赤面する。
シルビア「うっ……ま、まあ、いいけど!」
こうして部屋割りが決まったところで
新たな共同生活が始まった。
その日の夜。冬夜は中央の部屋で布団に入るが――。
冬夜 (左はティアール、右はインテグラ……
両隣がめちゃくちゃ静かすぎる……。)
静かすぎて逆に気になる。
すると――
コンコンっ。
部屋のドアからノックが鳴った。
ティアール「あ、あの……冬夜さん、まだ起きていますか?」
冬夜「え? あ、うん、起きてるよ。」
ティアール「その……誰かと一緒に過ごしながら寝るのが初めてで……
落ち着かなくて……。すみません、迷惑ですよね。」
冬夜「そ、そんなことないよ。僕だって慣れてないから、おあいこだよ。」
ティアールの声は安堵に変わり、部屋へ戻っていく足音が聞こえた。
ところが数秒後、またも声が――。
インテグラ「……眠れない。頭の中で薬草の配合が……。」
冬夜 (なんで夜に研究モードなんだ!?)
インテグラはぼそぼそと薬草の名前をつぶやき続けたところで
冬夜はドアを開けた。
冬夜「インテグラ。研究に熱中したいのはわかるけど
今は休む時間だからさ。明るくなったら一緒に研究しよっか。」
その言葉を聞いたインテグラの眼に光が宿った。
インテグラ「は、はいっ!一緒に…!!
いいえ…今は休むべき時間ですね。」
笑顔になったインテグラを見て冬夜も微笑む。
冬夜「うん。明るくなったらね。それじゃおやすみ。」
インテグラが離れていくのと同時に
冬夜は部屋のドアを閉める。
今日はいい夢が見れそうだ──。




