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第13話 ボロ家の改築


 ある夏の日差しが照り付ける日の事。


 移住してきた大工や石工たちが、冬夜の家を見に来る。

 壁はひび割れ、屋根は穴だらけ。

 ドアはギイギイと音を立て、夜風が吹けば家の中までスースー。


悪魔大工「……ここで毎日寝てるのか?」


冬夜「え、えっと……はい。雨が降るとちょっと大変なんですけど

   もう慣れちゃいました。」


 その言葉に建築職人たちは顔を真っ青にする。


悪魔作業員A「慣れちゃいました、じゃねぇよ!

       こりゃ生物が暮らす家じゃない!」


天使測量士「まったく……トマトで世界を救ったってのに

      英雄の家がこれか!」


 セラは横で腕を組んでむくれていた。


セラ「だから言ったのよ! 冬夜の家はボロボロだって!」


冬夜「え、言ってたっけ?」


セラ「言った!……多分!」


 その場で職人たちが即座に話し合いを始める。


悪魔作業員A「よし、俺たちで建て直すぞ!」


悪魔作業員B「天使国からも木材を取り寄せられるようになったし

       最高の家を建ててやろうじゃねぇか!」


 こうして冬夜の知らぬ間に

 「新しい家を造る大プロジェクト」が始動してしまう――。




 冬夜の家を建て直す話が広がると、村全体が大騒ぎになった。


 悪魔国の大工、天使国の木材職人

 魔王様から派遣された宮廷設計士まで加わり――

 気づけば「村一番の豪邸を建てよう!」というとんでもない方向に。


冬夜「え、えっと……僕、そんな大きな家じゃなくていいんですけど……」


天使木材職人「なに言ってんだ!英雄の住まいに見合う家じゃなきゃダメだ!」


宮廷設計士「トマト条約の象徴になるんだからな!」


 冬夜の抗議はあっという間にかき消された。


 ――そしてその横で、セラがキラキラした目で図面を覗き込んでいる。


悪魔設計士「……で、2階は冬夜様がゆったりできるよう

      専用個室を広く取る予定です。」


セラ「ねぇ冬夜!この部屋に本棚を置いて、こっちには暖炉!

   あと私の寝室は二階の角部屋が絶対いいわ!」


悪魔設計士「お、こちらのお嬢様もご一緒に?」


冬夜「ちょ、ちょっと待って!? なんでセラが決めてるの!?」


セラ「だって、あんた1人じゃインテリアのセンスゼロでしょ!」


冬夜「うっ……否定できないけど……!」


さらに勢いづいたセラは設計士に直談判を始める。


セラ「ここは広めのキッチンにしてください!

   冬夜がまた倒れないように、私が料理できるようにするの!」


悪魔設計士「ふむ。承知しました。では調理場のスペースを

      少し広く取るよう監督に伝えますね。」


冬夜「セラ、それ僕の家……だよね?」


セラ「ふん、もう半分は私の家みたいなものよ!」


 職人たちは爆笑しながら図面にどんどん書き足していく。


 気づけば冬夜の新居は

 村人総出の「みんなの夢が詰まった大豪邸」へと膨れ上がっていった──。



 数週間後。

 村から少し離れた丘では、冬夜の新しい家のお披露目に

 大勢の悪魔や天使が集まっていた。


 大工たちが胸を張って宣言する。


悪魔監督「完成だ! 英雄の家にふさわしい、村一番の立派な家だぞ!」


 冬夜は目を丸くする。


冬夜「……わ、わぁ……。」


 そこに建っていたのは、白い壁と赤い屋根が美しい大きな家。

 窓枠やドアノブまで丁寧に作られ

 庭には大きな畑スペースと小さな調理場まで用意されている。


 セラが胸を張る。


セラ「どう?すごいでしょ!私が色々口出ししたおかげよ!」


冬夜「いや、ほんとにすごいけど……。まさかここまでするとは…。」


セラ「ふふん!」


 村人たちの拍手喝采の中、冬夜は家の中に入る。

 広々としたリビング、光が差し込むキッチン

 そして二階には落ち着いた寝室。


冬夜「……本当に、僕のために……。」


 思わず胸が熱くなる冬夜。


 だがその時――


セラ「ここが私の部屋ね!」


 二階の一室でセラが勝手にベッドに飛び込んでいた。


冬夜「えっ!?ちょっと待って、ここ僕の家だよ!?」


セラ「いいじゃない!どうせ広すぎて1人じゃ使い切れないんだから!」


冬夜「そ、それはそうだけど……!」


女性村人A「ほほえましいわね、あの2人。」

女性村人B「えぇホントね。すっかりお似合いだわ。」


 村人たちはくすくす笑い、誰もセラを止めようとしない。


 2階の部屋は同じような部屋が7つある。


冬夜「こんな同じ部屋がいくつあってもなぁ…。」


セラ「それは家族が増えたときの子供たちの部屋として

   使えばいいんじゃない?」


冬夜「子供…かぁ。」


 思えば冬夜は前の世界では恋どころか友人すらおらず

 家族すらも信じられる存在ではなかった。


 誰も相談には乗ってくれない。

 廊下を歩いていると学校のヤンキーや先生から肩をド突かれ

 同級生からは(さげす)んだ目で見られる。


 そんな生活が続き、次第に登校を拒否していった。


 だが、両親はそれを許すはずがない。


 あの後、父は冬夜が学校に行こうが行かなかろうが

 ただのストレス発散なのか分からず暴力を振るってきた。


 母は一向に家に帰って来なくなり、冬夜が中学2年の時は

 1度も家に帰って来なかった。


 「恋」という存在。誰かを愛し、誰かに愛されることを知らずに

 冬夜は前の世界で死んでしまったが

 この世界に来てからは、セラをはじめトマトの村の住人や

 悪魔の王都、天使の国、両国の狭間の者までが

 この村に移住し、幸せな日々を送っている。


 移住が出来たのは全員が口をそろえて「冬夜のおかげ」と言う。


 そしてセラは彼に1番寄り添っていた。


 前の世界では決して得られなかった物が

 今この世界でようやく、そしてたくさん手に入ったのだ。


冬夜「…そうだね。僕に子供が出来たら、そうすることにするよ。」


 もし冬夜に子供が出来たら、彼は必ずこう思うはずだろう。


 ──絶対に前の世界での僕のような経験は絶対にさせない。と


 こうして冬夜の新生活は

 セラが“半分同居人”になった状態で始まる。


 はずだった――。




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