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第11話 魔王様と天使の国

これまでの登場人物

●神城 冬夜 (かみしろ とうや) 15歳 男性

 前の世界では両親の虐待とクラスメイト達のいじめで心を閉ざした。

 のちに両親への反抗として財布から現金を奪ったのちに

 コンビニへ行こうとしたところ…

 信号無視のミニバンに轢かれて死んでしまった。

 新たな世界では空き家にクワとジョウロと虹色の種

 そして分厚い農業の本があったため

 1人で食を確保しようと奮闘することになる。

 ある時、セラと共に畑仕事をしていたら

 賊に殺され、白い世界へ向かったあと帰って来た。


●セラ・トミーガーデン 195歳 女性

 悪魔の村で暮らす少女。見た目は冬夜より少し年上ぐらい。

 人間と触れ合うのは実は初めてだが

 『学校の男子たちと同じように話せばいいでしょ!』の

 気持ちで話しかけているため、時々距離感がバグることがある。

 最近冬夜のことが少し気になってきたようだ。


 あの襲撃事件から二日後。

 冬夜とセラは、いつも通り畑で黙々と土を耕していた。


 そのときだった。


???「――この素晴らしく美味しい

    トマトを作っているのは、君かね?」


 低くも、不思議と優しさを帯びた声が背後から響く。

 冬夜が振り返った瞬間、セラはピタリと動きを止めた。

 セラの顔は青ざめ、体は小刻みに震えている。


 そこに立っていたのは、一目で「只者ではない」と分かる人物だった。

 白く長い髪は陽光を受けて輝き、両側には羊のように立派な巻き角が二本。

 纏うのは豪奢なスーツと、漆黒に金糸をあしらったマント。

 王都でも限られた高位の者しか着ることを許されぬ装束だ。


 その堂々たる姿に、冬夜は思わず息を呑んだ。


冬夜 (……あれが、魔王様……?)


 魔王の瞳は、冬夜へと注がれている。

 その目は鋭さを秘めながらも、どこか楽しげに細められていた。


魔王「なるほど…トマトはこんな風に実がなってるのか…。

   1ついただいてもいいかね?」


 魔王様は苗に実っているトマトを優しくつかみ

 冬夜に問いかける。


 冬夜はこんなに威厳を持つ者に対して

 拒否する意図は微塵もない。


冬夜「ど、どうぞ…!」


 冬夜は緊張で言葉が震えながらも魔王様に言う。


 魔王は静かにトマトを嚙みしめる。

 赤い果汁が口元に広がると、その瞳がふっと柔らかく細められた。


魔王「……やはり素晴らしい味だ。」


 低く響く声に、畑の空気がピンと張り詰める。


 冬夜もセラも、息を呑んだまま見守っていた。


 魔王はゆっくりと冬夜へと視線を向ける。


魔王「この村の人々は、あのトマトを毎日食べているのだろう?」


冬夜「は、はい……! 毎日とは限りませんが

   村の皆で分け合って、大切に育てています…!」


冬夜は背筋を伸ばし、敬語で答える。


すると、魔王の表情がさらに和らぐ。


魔王「なるほど……。この味を口にできるのなら

   これまでより村人たちの笑顔が多くなったのも頷ける。」


セラは冬夜の腕をぎゅっと掴み、震える声で囁いた。


セラ「と、冬夜……!あの人が……本当に……魔王様よ……!」


 冬夜はただ頷くことしかできなかった。

 恐ろしい存在であるはずの魔王が、畑のトマトを前に穏やかに微笑んでいる。

 その光景は、どこか信じられないほど不思議で、そして温かかった。


 魔王は腕を組み、視線を遠くに投げた。


魔王「このトマト、この悪魔国以外でも大変美味しいと噂になっている。

   我々と敵対している天使の国でさえも

   あのトマトだけは本当に素晴らしいと大絶賛しているらしいんだ。」


 冬夜もセラも思わず目を見開く。


 天使の国でさえも絶賛?

 それほどまでに……自分たちの畑で育ったトマトが?


 魔王はゆっくりと声を落とした。


魔王「実はかれこれ4,000年近く、この天使の国とは戦争状態になっている。

   我がこの魔王に就任する前、祖父の代からずっとだ。」


 その横顔は、威厳に満ちていながらも、どこか影を落としていた。


魔王「……だが私は、本当は争いを終わらせたい。

   トマト一つで心が通じるのなら、それに賭けてみたいのだ。」


 セラはぽかんと口を開け、冬夜はその真剣な言葉に胸を打たれていた。

 だが、次の瞬間――


天使A「あんな所に魔王様がいます!」


 鋭い声が空を切り裂く。


 見上げれば、数人の天使が羽を広げ、村の上空に舞い降りてきた。


 そのうちの一人が目を丸くする。


天使B「あれ? あの魔王様が……人間に頭を下げてる……?」


 さらにもう一人が叫んだ。


天使C「あれは……!! トマトですわ!!」


 静まり返る畑。

 魔王はトマトを片手に、天使たちと目を合わせ――そして苦笑いを浮かべた。


魔王「貴様らは…天使の国の兵士か。」


 天使Aは畑のトマトを凝視して、目をキラキラさせていた。


天使A「ま、まさか……本物の“あのトマト”がこんなに……!」


天使Bも前のめりになる。


天使B「信じられませんわ!

    天界でも何度も挑戦しましたのに、全部失敗でしたのよ!」


 天使Cが悔しげに翼をばさばささせる。


天使C「そうですとも! 水をやれば枯れ、肥料をやれば実が割れ……

    最後にはただの観葉植物に……!」


 セラはぽかんと呟いた。


セラ「な、なんでそんなにトマトに必死なのよ……」


 魔王はむしろ楽しそうに笑い、冬夜の肩を軽く叩いた。


魔王「聞いたか冬夜。お前のトマトは、悪魔国だけじゃない。

   天使国ですら頭を下げてでも欲しがる宝だということだ。」


 天使Aはすぐさま冬夜に飛びつく勢いで身を乗り出す。


天使A「お願いです!一つでいいのです!一口でいいのです!

    我らにも恵んでくださいませ!」


天使B「わたくしなら金貨百枚積みますわ!」


天使C「いやいや、神殿の鐘を差し上げてもいい!」


セラ「……鐘いらないわよ。」


 冬夜は困惑しつつも手にしたトマトを見つめた。


冬夜「えっと……これって……もしかして

   戦争よりもトマトのほうが大事なんじゃ……。」


魔王と天使たちが同時にこちらを振り返り、真剣な顔でうなずいた。


魔王と天使3人「「その通りだ!!」」




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