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第10話 白い世界、そして帰還。

これまでの登場人物

●神城 冬夜 (かみしろ とうや) 15歳 男性

 前の世界では両親の虐待とクラスメイト達のいじめで心を閉ざした。

 のちに両親への反抗として財布から現金を奪ったのちに

 コンビニへ行こうとしたところ…

 信号無視のミニバンに轢かれて死んでしまった。

 新たな世界では空き家にクワとジョウロと虹色の種

 そして分厚い農業の本があったため

 1人で食を確保しようと奮闘することになる。

 ある時、セラと共に畑仕事をしていたら

 賊に殺され、白い世界へ向かったあと帰って来た。


●セラ・トミーガーデン 195歳 女性

 悪魔の村で暮らす少女。見た目は冬夜より少し年上ぐらい。

 人間と触れ合うのは実は初めてだが

 『学校の男子たちと同じように話せばいいでしょ!』の

 気持ちで話しかけているため、時々距離感がバグることがある。

 最近冬夜のことが少し気になってきたようだ。


 冬夜はセラと共に畑仕事をしていた際

 突如やって来た賊に刺されて死んでしまった。


 次に冬夜が目を開けた時、そこは眩い光に満ちた場所。


創造神「す、すまないッ!本当にすまないッ!」


 身体を起こした瞬間、神は信じられないほど必死に頭を下げ

 何度も土下座を繰り返していた。


創造神「まさか、あんな危険な村の近くに君を送ってしまうなんて……!

    完全に私のミスだ!取り返しのつかないことを……!」


 神様は冬夜が何かを言い出す前にいきなり提案をしてくる。


創造神「これなら今度こそ大丈夫だから!

    天使の国なら平和だし、みんな優しいし

    畑だって安全に耕せる!冬夜くんにピッタリの場所なんだよ!」


 必死にアピールする神様。


冬夜「……そう言っていただけるのは本当に嬉しいです。」


 冬夜は一度、俯いてから顔を上げた。


冬夜「でも……事が収まってからでいいので

   もう一度、あの村に戻してください。」


創造神「へ?い、いまなんて?」


冬夜「死ぬ前の世界では、僕には友達が一人もいませんでした。

   毎日がつらくて、孤独で……。」


 冬夜は終始暗い顔で話をする。


冬夜「だけど、あの世界に来てから――セラという友達ができて

   毎日がとても楽しかったんです。」


 目元を少し緩めて、微笑む冬夜。


冬夜「だから……セラに、もう一度会わせてください。」


 神様は固まったまま、口をパクパクさせた。


創造神「……えっ、えっ?ちょっと待って。さっき刺されて殺されて

    あんなに怖い思いしたばっかりなのに……?

    それでも帰りたいって言うの?」


冬夜「はい。」


 迷いのない声。


創造神「……はぁぁ……君って子は……。」


 神様は額を押さえ、深くため息をついた。だが、すぐに顔を上げる。


創造神「わかった。そこまで言うなら……なんとかしてあげるよ。」


 神様は覚悟を決めた。


創造神「……でも、私ひとりじゃ心許ないし、ちょっと専門家を呼ぼう。」


 創造神がパチンと指を鳴らすと

 柔らかな光と共に、白衣を羽織った優しげな女性が現れた。


看護神「呼ばれて飛び出てこんばんは~♪

    …って、あら?この子が例の?」


創造神「そう!冬夜くん。痛いのも怖いのも

    もう二度と味わわせたくないんだ。」


 看護神は冬夜を見て、にこりと微笑んだ。


看護神「……うん、わかったわ。あんた、本当に頑張った子ね。」


 そう言うと彼女は手をかざし、冬夜の身体を淡い青色の光で包む。


看護神「この加護を授けるわ。“鋼の肉体”。

    刃物も槍も、あらゆる凶器を弾き返す

    強靭な防御力を発動できる力よ。」


冬夜「……!本当に、そんな力を僕に……?」


看護神「だけど――これは身体への負担が大きいの。

    発動すれば、次に使えるまで5日間はかかる。

    それだけは覚えてね…。」


創造神「ごめんね、そこはどうにもならなかった……。

    でも、これなら君を守れると思うんだ!」


 冬夜はそっと両手を握りしめ、頭を下げた。


冬夜「ありがとうございます……。これで、セラを守れるかもしれない。」


 神様と看護の神は一瞬顔を見合わせ、にっこりと笑い

 冬夜の身体は光に包まれていった。


 ────


 村に戻った冬夜は、まず賊の姿がどこにもないことに気づいた。

 代わりに、畑の脇の地面には――黒々と焼け焦げた

 まるでレーザーで貫かれたかのような跡が点々と残っていた。


冬夜「……な、なにこれ……?」


 唖然と立ち尽くしていると、セラが駆け寄ってきた。


セラ「……冬夜ぁっ!!」


 涙でぐしゃぐしゃになった顔のまま、彼女は冬夜に飛びついた。


セラ「生き返った…生き返ったのね…!!」


 冬夜は一瞬戸惑ったが、彼女の温もりに思わず胸が熱くなる。


冬夜「セラ……ただいま。」


 抱擁がしばし続いたあと、冬夜は畑に残る不穏な痕跡に視線を向けた。


冬夜「ねぇ、あれ……いったい何があったの?」


 するとセラは鼻をすすり、涙を拭いながらも、驚くほどさらっと答えた。


セラ「あぁ、それね。実は――魔王様が来て

   賊をレーザーで跡形もなく消し去っちゃったの。」


冬夜「……え?」


セラ「うん、あの人たち、“魔王様お気に入りのトマト”を

   奪おうとしてたんだって。だから3人はバシュッて。」


 セラは指で「ピッ」と撃つジェスチャーをして見せる。


冬夜「……えぇぇぇぇぇ!?!?」


 どうやらあのトマトは、魔王様にまで気に入られていたらしい――。


 驚く冬夜を気に留めず、セラは話をつづけた。


セラ「おまけにリーダー格の1人は、両膝を撃たれた後に顔を…。

   なんて言うか、冬夜よりひどい死に方をしたのよ…。」


冬夜「……魔王様、怖い。」


 怖気づいた冬夜を見て、セラはぷっと笑った。


セラ「ウフッ…何その顔。まさか自分もあんな風に

   殺されると思ってるの?」


 セラは冬夜をからかっているようだが、少し違う。


セラ「でも安心して。魔王様は『あのトマトを作った少年に

   礼が言いたかった。』って涙を流してたのよ。」


 ……冬夜は魔王様に殺される…なんてことにはならないようだ。


 そして冬夜は家の裏に

 何やら土を掘り返して埋めた跡を見つけた。


冬夜「あれ…?こんなのあったっけ…?」


 冬夜は土を素手で掘り返そうとすると…。


セラ「待って!掘っちゃダメ!!」


 セラが大声で止めてきた。

 冬夜は理由を聞くと……。


セラ「ちょっと残酷かもしれないけど…。その土の下には

   さっき殺された冬夜が埋まってるのよ……。」


 それを聞いて冬夜は顔が青ざめた。


冬夜「という事は…。僕が死んでも

   その死体は消えずに残っていくって事…?」


 なんとも理解しがたい話だが

 あの時魔王様が、死んだ冬夜を埋めてくれたらしい。


冬夜「後で魔王様にお礼を言いに行かなきゃ…。」


 冬夜はそう心に決め、トマトやほかの作物の苗に

 水をあげるのだった。





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