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第五話 はじめてのモンスター狩り

 コーちゃんはササッと俺の前に出ると、「ウウウ」と豚に向かって威嚇した。


 それを見て、サッと背筋が寒くなる。


 てっきり野ブタでも現れたのかと思ったが、モンスターだったのか。


 草むらから次々とスカーレットボアが現れる。


 ざっと数えて十体ほど。


 スカーレットボアをひと言で表現するなら「赤い毛に覆われた豚」だ。


 コーちゃん曰く、彼らは非常に好戦的で集団で狩りをする肉食獣らしい。燃え上がるような赤い体毛は、彼らの危険性を示唆しているように思える。



「どうやら食欲が我への恐怖に勝ったらしいな」



 ふん、と鼻を鳴らすコーちゃん。


 そうか。俺が作ったモンスター飯のニオイにつられて現れたのか。


 しかし、とそんなスカーレットボアを見て思う。


 ヤバそうな見た目だが、完全に豚かイノシシだよな?



「コーちゃん、あれって豚だよな?」

「そうだ。スカーレットボアは豚のモンスターだ」

「てことは、食べられるんだよな?」



 豚といえば食肉の代表。


 ヒレは一頭の豚から二パーセントしか取れない貴重な部位で、豚肉の最高級肉と言われている。


 脂身がほとんどないのに柔らかく、ジューシーで繊細な食感を楽しめる。


 スカーレットボアのヒレも、さぞかし美味いだろう。


 思わずごくりと唾を飲み込んでしまう俺。



「……本当に飼い主殿の食欲には頭が下がるな」

「ぶひっ」



 呆れたようなため息をもらすコーちゃんに呼応するように、スカーレットボアたちがじりじりとこちらとの距離を詰めてくる。


 ジッとこちらを睨みつけてくる瞳には、ただならぬ敵意が見える。


 多分、彼らが狙っているのは後ろにあるキラーフィッシュの塩焼きとウィッスルのホイル焼きだろう。


 かなりいい匂いがするからな。



「ここは我に任せよ」



 コーちゃんが牙をむき出しにして「ウウウ」と威嚇をしながら前に出る。


 飼い主の俺が見てもちょっと怖い。


 だが、スカーレットボアたちは、ひるまなかった。



「ふん、下等生物どもめ。腹をすかせて我の恐ろしさを忘れたか」



 彼らを見て、コーちゃんが鼻で笑う。



「だったら、今一度思い知るがいい!」



 コーちゃんがわふんと空に向かって吠える。


 瞬間、その鼻先に緑色の光が渦を巻いて集まり始める。


 あれは風のエレメントだ。



「ゆくぞ! ウインドカッター!」



 光の渦がやがて刃の形に変わり、スカーレットボアに襲いかかった。



「ぴぎっ!?」

「ぎいっ!!」



 赤い鮮血をほとばしらせ、スカーレットボアが倒れる。三体ほどのスカーレットボアが風の刃で真っ二つになった。


 す、すごい。これってレントのときにも使った魔法だよな?



「ぎ、ぎぎ……」

「ぷぎぎっ」



 コーちゃんに対する恐怖が蘇ったのか、残されたスカーレットボアたちが後ずさりする。


 そんな彼らをドヤ顔で見るコーちゃん。



「逃げるなら許してやるぞ、下等生物」

「……ぷぎぎっ!」

「ぶひ~っ!」



 いきり立つスカーレットボアたち。


 完全に頭に来てるな。すぐに突進してきそうな気配がする。


 まだ七匹もいるし、一度に全部来られたら流石のコーちゃんでも厳しいのではなかろうか。俺も手伝ったほうがよさそうだ。



「コーちゃん、さっきの風の魔法って俺にも使える?」

「む? ウインドカッターか? できると思うが、標的に命中させるには練度が必要だぞ? フレイムボムと違って自らの力で当てる必要があるからな」



 なるほど。周囲を一気にふっとばすフレイムボムと違って、標的に当てる繊細な「エイミング力」が必要ってわけだ。


 魔法の中では難しい部類なのかもしれない。



「とりあえずやってみる。やり方を教えてくれ」

「方法はフレイムボムと同じだ。風のエレメントを集め、ウインドカッターを詠唱すればいい」

「風のエレメントか」



 早速試してみる。手のひらに風のエレメントを集めて魔力を注入。


 コーちゃんのときと同じように、エレメントが渦を巻き始めた。


 おお、意外と簡単だな。



「……よし、いくぞ! ウインドカッター!」



 手のひらをスカーレットボアに向けて叫ぶ。


 瞬間、コーちゃんのよりも巨大な風の刃が発射された。



「……うおっ!?」



 思わず尻もちをついてしまった。


 凄まじい突風を伴いながら射出された風の刃は、スカーレットボアの足元に突き刺さり、巨大な傷跡を残して消えた。



「ああ、クソ。外れたか」

「しかし、惜しかったな。あと数発試せば当たるかもしれぬ。試してみよ」

「オッケー! やってみる!」



 スカーレットボアたちは、俺の魔法にビックリしたのか足をすくませている。


 動き回られるより当てやすいし、やるなら今だ。


 再び風のエレメントを集めて、ウインドカッターを唱える。


 今度はエレメントの量を抑えて、小さめの刃を作った。


 さっきは放ったときの衝撃が強すぎたからな。これくらいなら狙いやすいだろう。



「ウインドカッター!」



 さっきよりも小さく、速度の速い風の刃が放たれたが、刃はスカーレットボアの頭の上スレスレを飛んでいってしまった。


 ああ、惜しい!


 でも、次こそは当ててやる!


 再びエレメントを集めて魔法を放つ。


 次は腹部を少しだけ切り裂いたけど致命傷には至ってない。これも惜しい。


 よし、次こそ──。



「……ウインドカッター!」

「ぴぎっ!?」

「……あっ! 当たった!?」



 飛び退こうとしたスカーレットボアの胴体に見事命中。


 体をスパッと真っ二つに切り裂いた。



「な、なんと!」



 それを見ていたコーちゃんが、あんぐりと口を開ける。



「まさか、四発目で当てるとは……」

「へっへっへ~、どんなもんだ」

「ぐぬぬ……才能があるのは認めるが、流石にちょっとできすぎではないか?」



 悔しそうに歯ぎしりするコーちゃん。


 いや、なんで対抗心燃やしてんだ。


 お前は魔法の王だろう。もっとこう、どっしりと構えてろよ。



「ぴぎぎぎっ!」

「ぶきーっ!」



 スカーレットボアが一斉にこちらに向かって走り出す。


 仲間をやられ、怒りが頂点に達したのだろう。


 赤い毛がさらに赤く燃え上がっているような気がする。



「来るぞ、飼い主殿!」

「大丈夫だ! まっすぐ来るなら当てやすいからな! ふたりでやろう!」



 まさに猪突猛進。


 横に避けるなんて考えは微塵もないと言いたげに、残った六匹のスカーレットボアが突っ込んでくる。



「ゆくぞ、飼い主殿! ウインドカッター!」

「はあっ! ウインドカッター!」



 コーちゃんと同時に魔法を詠唱。


 鋭い風の刃が、迫りくるスカーレットボアを次々と仕留めていく。


 わずか数秒後、辺りには絶命したスカーレットボアたちの死体だけが転がっていた。



「や、やったか?」

「うむ。すべてのモンスターを仕留めたようだな」

「……ぃよっしゃああっ!」



 興奮さめやらぬ俺は、思いっきりガッツポーズをした。


 初めてのモンスター飯に続いてモンスター狩りに成功だなんて、これが興奮せずにいられようか!


 異世界に転移してモンスターを狩った経験がある人間なんて、世界広しといえども俺くらいのものだろう。


 ふっふっふ……これは楽しすぎるな。



「しかし、かなりの数のスカーレットボアを仕留めたな」



 コーちゃんがキョロキョロと辺りを見回す。


 一匹も逃げてないから、合計十の死体があることになるな。



「多すぎると思ったが、飼い主殿の胃袋だったら十匹くらい容易く食せるか」

「いや流石に無理だろ」



 このコーギーちゃんは俺をなんだと思ってるんだ。


 豚肉を食べたいとは言ったが、確実に胃もたれを起こす数だ。



「せいぜい、いけて一匹だぞ」

「いけるのか? さっき塩焼きとホイル焼きを食べたばかりだが」

「ん~、多分大丈夫だろ」



 料理次第だとは思うが。


 だが、残りのスカーレットボアはどうしよう? 冷凍保存でもできればいいが、この世界に冷蔵庫はないよな。あったとしても、森の中では使えないだろうし。



「食べないスカーレットボアは保存しておきたいんだが、コーちゃんの魔法でどうにかできない? たとえば氷の魔法とかさ」



 氷漬けにしてしまえば長期間保管できるだろうし。



「氷の魔法はあるが、もっといい魔法があるぞ」



 コーちゃんが黒い光の粒を集め、鼻先を俺のバックパックにつけた。



「……これでよし。その背嚢を開けてみよ」



 背嚢……バックパックのことか。


 言われるがまま、バックパックのファスナーを開ける。


 びっくりした。


 バックパックの中が、真っ暗の無限空間になっていた。



「ちょ、なにしたのコレ!?」

「無限収納のマジックバッグに変化させた」

「む、無限収納!?」



 どうやらコーちゃんは、魔法を使って俺のバックパックを異次元空間に繋げたらしい。



「時空魔法は我の得意とする魔法のひとつ。その空間は時間の概念がない。つまり、中に入れたものが腐ることも冷めることもない」

「なにそれすごい」



 めちゃくちゃ便利な魔法じゃないか。


 肉を入れても腐らないし、作った料理を入れておいても温かいままってことだよな? 異世界旅行にはもってこいな代物だ。



「じゃあ、早速使わせてもらうよ」



 仕留めたスカーレットボアをバックパックの中に入れてみる。


 スカーレットボアはバッグの入口よりも大きかったけど、足先を少しだけ入れるとシュポッと吸引されるように中に入っていった。



「うわっ、勝手に入った!?」

「一部を入れるだけで収納される」

「これ、間違って俺も入っちゃわない?」

「安心しろ。生き物は入らないから飼い主殿が吸い込まれることはない」

「そ、そうなのか。ちなみに中から出すときはどうするんだ?」



 元々バッグの中には着替とか色々入ってたしな。


 取り出せないとちょっと困る。



「出したい物をイメージして手を突っ込むのだ」

「イメージ……?」



 試しに、クッカー(キャンプで料理をする際に使う、携帯用の鍋やフライパン)をイメージして手を突っ込んでみる。


 すると、手のひらになにかが触れた。


 そのまま引っ張り出すと、本当にクッカーが出てきた。



「うわ、すごい。物を探す必要もなくなるのは便利だな」

「ただ、中になにが入っているのかは確認できんから気をつけろ。物を入れるときはメモを残しておくことをおすすめする」

「……そ、そうするよ」



 なにを入れているのか忘れてしまったら、二度と取り出すことはできないってことだからな。


 腐りもせず永遠に同じ姿で異次元空間に取り残されることになる。


 ……あ、てことはゴミなんかはここに突っ込んどけばいいのか。


 それは楽でいいな。

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