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第四話 キラーフィッシュの塩焼きとウィッスルのホイル焼き

 クリアランスの魔法に成功した俺は、いよいよ本格的にモンスター飯を作るために森を歩いて回ることにした。


 レントの実は美味しかったけど、料理に使えそうにないし。


 もっとこう、料理に使えて食べ応えがある食材にめぐり逢いたいところだ。



「しかし、異世界って意外と平和なんだな」



 木漏れ日が降り注ぐ森を見上げながら、俺はひとりごちるように言った。



「もっと頻繁にモンスターが襲いかかってくるような危険な世界だと思ってた」

「タイニーオークにも危険なモンスターはいる。我が持つ強大な魔力に怯えて近づいてこないだけだ」



 隣を歩くコーちゃんが少しだけ誇らしげに言った。


 そ、そうなのか。てことは、遠巻きにこちらの様子を伺ってたり?


 ふと視線を送った木陰にモンスターの姿が見えた──ような気がした。


 ううむ。コーちゃんと一緒でよかったのかもしれないな。


 というかコーちゃんってば、なんにも考えてなさそうな顔をしてるのに、この世界ではモンスターにさえ一目置かれる存在なんだな。


 そういや人々からも敬愛されているって言ってたっけ。


 流石は魔法の王、聖獣フェンリル様だ。


 そんなことを考えながらのんびり歩いていると、開けたところにやってきた。


 細長い木々が立ち並んでいる場所で、多少の雨や風を防いでくれそう。背の高い草もないし、焚き火をしても問題ないだろう。


 おまけに、せせらぎの音が聞こえる。


 コーちゃんと一緒に行ってみると、川幅の広い川が流れていた。


 両岸まで十メートルほどあって、岩肌を滑り下りるように綺麗な水が流れている。流れが弱いので下流なのかもしれない。


 うん。ここならのんびり料理を作れそうだな。



「よし。ここでご飯を作ろうか」

「よきだな! 丁度腹が減ってきたところだった!」



 コーちゃんも嬉しそう。


 だけど、なにを作ろう? 川辺でキャンプ飯……って言ったら魚料理だよな。


 だけど、川釣り用の釣り竿なんて持ってきていないし。



「ううむ、どうするか」



 川を眺めながら、しばし思案する俺。


 石をぶつけた衝撃で魚を気絶させる「石打漁」なんてものがあると聞いたことがあるが、素人ができるものじゃないよな。


 それに、手頃な大きさの石もなさそうだし。


 なにかこう、すごい衝撃を発生させる方法があれば話は別だが──。



「……あ、そうだ」



 ポンと手を叩く。


 コーちゃんを見て、いいアイデアを閃いてしまった。



「なぁ、コーちゃん。魔法ですごい音を出すことはできないか?」

「すごい音? できなくはないが……なにをするのだ?」

「水中で衝撃波を発生させて、魚を気絶させるんだ」



 魔法でできるなら、石を使うより簡単なんじゃないだろうか。



「なるほど。それで魚を得ようというわけか。考えたな飼い主殿」

「そういうわけ。やり方を教えてくれない?」

「いいぞ」



 てなわけで、再びコーちゃんに魔法を教わることになった。


 教えてもらったのは火のエレメントを使った「フレイムボム」という魔法で、巨大な爆発を起こすことができるという。


 おお! 火のエレメント、キター!



「ちなみに火の他にも属性って色々あるのか?」

「うむ。他にも水、風、土……光と闇の属性がある」

「へぇ……色々あるんだな」



 ちなみに、コーちゃんは全属性のエレメントを使うことができるという。


 さらに、各精霊と契約を結んでいるので、エレメントが存在しない場所でも魔法を使うことができるのだとか。


 色々と凄いな。流石は聖獣フェンリルだ。



「フレイムボムを水中で起こせば、魚を捕ることができるだろう」

「ありがとう、ちょっとやってみるよ」



 早速、大気中に滞留している火のエレメントを手のひらに集める。


 一定量のエレメントが集まったところで魔力を注入する。



「よし、唱えてみよ」

「オッケー! いくぞ、フレイムボム──ッ!?」



 瞬間、凄まじい爆音が森の中に(とどろ)いた。


 水中で破裂した炎の塊が一瞬で川の水を蒸発させ、辺り一面が水蒸気に飲み込まれてしまう。



「げほっ……げほっ」

「見事だ」



 思わず咳き込んでしまった俺を見て、満足げに頷くコーちゃん。


 あの、コーちゃん師匠? ちょいと威力が高すぎませんかね?



「大爆発を起こすなら先に言ってくれよ……」

「我もこれほどの大爆発を起こすとは思わなかった」



 コーちゃんが言うには、魔法初心者のフレイムボムは現代で言う爆竹レベルの爆発しか起きないらしい。



「威力をコントロールするにはエレメントの量を調整すればよいのだが……ふむ。この程度の量でこの威力が出せるとは、やはり飼い主殿は魔法の才能があるようだ」

「そ、そうなのか?」



 才能があると言われるのは嬉しいが、調子に乗ってると大事故に繋がりそうだな。次に魔法を使うときは、エレメントの量を少なくしておこう。



「しかし、大漁だな」

「え? 大漁?」



 コーちゃんに言われ、俺は首を傾げてしまった。



「周辺を見てみろ」

「……あっ」



 言われて気づく。俺たちの周りに、凄まじい数の魚や貝が落ちていた。


 きっとフレイムボムでふっ飛ばしたんだな。


 爆心地にいたのか、黒焦げになってる魚もいる。ピラニアみたいに牙がある魚だ。



「魚はキラーフィッシュ……貝はウィッスルだな」



 スンスンとニオイをかぎながらコーちゃんが言う。


 どちらも水棲のモンスターらしい。


 キラーフィッシュは肉食の危険な淡水魚。ウィッスルは生き物を襲うことはないが、身の危険を感じると笛のような音を出して威嚇することからそう名付けられたらしい。



「なるほど……淡水魚に、貝か」



 キラーフィッシュとウィッスルを手に取り、しばしメニューを考える。


 食材は手に入れたが、なにを作ろう。


 淡水魚だから刺し身にするのはちょっと危険だよな。


 この世界にどんな寄生虫がいるのかわからないし。


 ここは火を通しておいたほうが無難か。



「よし、決めた。キラーフィッシュは塩焼きに、ウィッスルはホイル焼きにしよう」

「塩焼きとホイル焼きか! 実にいい案である! わふっ!」



 コーちゃんがぴょんとジャンプする。


 どんなメニューでも賛成していたように思えるが、まぁよしとしよう。


 というわけで、早速料理の準備を始める。


 バックパックにくくりつけてあったミニサイズの焚火台を取り出す。


 これは折りたたみができるひとり用の小さい焚火台で、これがあればどこでもバーベキューが楽しめる優れモノなのだ。


 天面にクッカーをのせることもできるので様々な用途で使うことができる。


 取っ手の部分を持ってパカッと開き、底に小さい固形燃料を置く。


 ライターを使って火をつけようとしたんだが──。



「……しまった、忘れちまった」



 バックパックのポケットの中に入れたと思ってたけど、置いてきてしまったらしい。



「悪いコーちゃん。火をつける魔法ってあるかな?」

「先ほどのフレイムボムでいけるぞ」

「いや、あれは使えないだろ……」



 焚火台ごと吹っ飛んじゃうぞ。



「小さな火を起こせる魔法はないのか?」

「ふむ。となると、生活魔法だな」



 先ほどのフレイムボムと違い、威力が弱めの魔法は「生活魔法」というジャンルで多くの人が使っているらしい。


 それそれ。そういうのを求めてたんだよ。


 弱めの火を起こせる魔法は「フレイム」というらしい。


 早速、指先に火のエレメントを少量集め、詠唱する。


 ぶおっと指先から、炎が吹き出した。



「うおっ!?」



 想像よりも強くでびっくりしてしまったが、固形燃料に着火することに成功した。焚火台がちょっと焦げちゃったけど。


 魔法の威力の調整って難しいな。そこらへんはおいおい練習するとしよう。


 火をつけることができたので、料理を続ける。


 天面の上にクッカーを起き、水を入れて湯を沸かす。


 それを見て、コーちゃんが尋ねてきた。



「その湯はなにに使うのだ?」

「貝の砂抜きだよ」



 塩水につける方法もあるが、この方法が簡単かつ短時間でできるのだ。


 仕組みは単純で、急激な温度の変化でヒートショックが起き、体を冷やそうと呼吸をするから砂を吐くという具合だ。



「すごいな。やはり飼い主殿は博識だ」

「褒めてもなにもでないぞ」



 とりあえずナデナデしてあげたけど。


 この方法でやる砂抜きは十分ほどで終わるのだが、その間にキラーフィッシュの下処理をする。


 ナイフで優しくこすって鱗を取り、肛門付近を絞ってフンを絞り出す。お次に肛門の手前からエラの付近までナイフを使って切り開き、内蔵を取り出す。


 最後に背骨にそって血合いをひっかき、水で洗えば下処理は完了だ。


 これは現代の魚の下処理方法だけど、こっちの魚も同じ方法でいけた。


 体の構造が同じだからか?


 下処理を済ませたキラーフィッシュを串に差し、焚火台に並べていく。


 そうこうしている間に、ウィッスルの砂抜きが終わったようだ。


 殻の隙間からニュニュっと長い管が伸びている。


 そんなウィッスルを自宅から持ってきたホイルに包む。


 ポイントはぴっちりと隙間なく包むことだ。こうすると貝がひっくり返って美味い汁が台無しになることはないし、ホイルで蒸されるのでうまみが一層増す。


 というわけで、ひとつずつ天面に置いていく。


 並べ終わったところで、キラーフィッシュとウィッスルにクリアランスの魔法をかけた。魔素の中和を忘れないようにしないとな。


 小川のせせらぎを聞きながら、しばし待つことに。


 こういう時間も、大自然の中なら最高の贅沢だ。


 キラーフィッシュの身から滴る脂が固まったらいい頃合い。



「……よし。そろそろ、いただこうか」

「で、あるな」



 キラーフィッシュの塩焼きと、ホイルに包んだままのウィッスルをひとつずつ皿に盛りつける。


 ホイルを開けると、ぱかっと殻が開き、美味しそうな身が顕になった。


 おお、いい感じにできているな。



「では、いただきます」

「いただきます」



 早速、塩焼きからガブリ。



「ハフ、ハフハフ……」

「むおおおおっ! これはっ!」



 コーちゃんが目をキラキラとさせながら、歓喜の声をあげた。



「さ、さ、最高に美味であるぞ、飼い主殿っ!」

「うん。これは美味いね」



 塩焼きは外側がパリッと、中はふわっとしていて、咀嚼するたびに香ばしい風味が口の中に広がっていく。


 ウィッスルはしっかりとした歯ごたえがあり、ホイルで蒸したおかげかふっくらとしていて、甘みと塩気のバランスが絶妙だ。


 おまけに、汁の一滴まで美味しい。


 別の味を楽しむために持ってきた醤油を垂らしてみたのだが、これがもう最高の組み合わせだった。お互いがお互いを際立たせているというか。


 うむ、これぞ味のマリアージュ。



「これが夢にまで見たモンスター飯かぁ……」



 ウィッスルを食べながら、思わずしみじみとしてしまった。


 子どもの頃からの夢だったモンスター飯。


 まさか本当に叶うなんて思わなかったから、感慨もひとしおだ。



「しかし、モンスターをコレほど美味しく調理できるとはな」



 むしゃむしゃ美味しそうに食べながら、コーちゃんが感心したように言う。



「流石は飼い主殿だ」

「料理っていっても、焼いただけだけどね?」



 しっかり下処理をしたのがよかったのかな? 川魚や貝は下処理の具合で臭みが残ったり、異物が混入してしまったりと一気に味が落ちてしまうからな。



「……ん?」


 と、初めてのモンスター飯に舌鼓していると、ふいに背後から気配がした。


 ガサガサと草をかき分けるような音。


 ふとそちらを見ると、豚のような生き物が草むらからこちらを見ていた。



「……え? 豚?」

「気をつけろ、飼い主殿! モンスターのスカーレットボアだ!」


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