第二十八話 バロメッツしゃぶしゃぶ
それからミミやコーちゃんにも手伝ってもらい、一時間で十五匹ほどのバロメッツを狩ることができた。
ギルドのお姉さんが言ってたバロメッツを狙った肉食獣やモンスターが現れることもなく、いつの間にか山の天気もよくなっていた。
見上げた空には、太陽が燦々と輝いている。
丁度昼時。ご飯を食べるにはいい時間帯だ。
「……ふたりのおかげで結構狩れたし、お昼ご飯にするか」
「よきであるな!」
「賛成〜」
コーちゃんとミミが元気よく返事をする。
「メニューはどうするのだ、飼い主殿!? 羊肉のステーキか!? それとも唐揚げか!?」
「それもいいけど、今回はラムしゃぶだ」
「……ラムしゃぶ?」
頭の上から不思議そうなミミの声がした。
多分、こっちの世界にはしゃぶしゃぶという文化がないのだろう。
モンスターだから知らないだけかもしれないが。
「薄く切った肉を熱い出汁に通して食べる鍋料理だよ。あっさりした味わいになってすごく美味いんだ」
「へぇ、美味しそう……」
ミミがごくりと唾を飲み込む。
今回はバロメッツの肉を使ったラムしゃぶだし、普通のヤツよりさらに美味しいはずだから期待しててくれ。
というわけで、早速調理を始めることに。
まずはバロメッツの解体から。
木から吊り下げ、ウインドカッターの魔法で首を切って血を抜く。
これには時間がかかるから、その間に他の準備を進める。
焚き火に水を入れた鍋を置き、昆布を入れて沸騰させる。
次に具材だ。
コマルの市場で買ったキャベツを五センチくらいに切っていく。他にも玉ねぎやニラ。さらに、黄金シメジも食べやすいサイズに。
「お次は、特製のゴマダレを作るぞ」
「ゴマダレ?」
「ラム肉をつけるタレだよ、ミミ。これがあると、さらにラム肉を美味しく食べられるんだ」
小さな器に生姜のみじん切り、ごま、醤油、酢、砂糖を入れて混ぜる。
チャカチャカ混ぜていると、食欲がくすぐられる醤油とごまのいい香りがふわっと……。
スンスンと頭の上から香りを嗅ぐミミの声が。
「……あ、美味しそうな匂い!」
「だろ? もうすぐ食べられるから待ってろよ」
ゴマダレが完成したところで、吊り下げたバロメッツを見ると、丁度血抜きが終わっていた。
威力を調整したウインドカッターを使って皮を剥いでいく。
ここらへんは前にスカーレットボアでもやったからもう手慣れたものだ。
あ、そうだ。内臓はミミに処理してもらおうかな。
「ミミ、この内臓を魔法で消せる?」
「魔法? できるよ」
スタッと頭の上から降りてきたミミは、すぐに黒い光の粒を集めて魔法を発動させた。
「……イグレイト!」
瞬間、地面に黒い穴が出現し、一瞬で内臓を飲み込んでしまった。
「はい、これでおしまい」
「す、すご……」
本当に簡単に処理ができたよ。
これなら、生ゴミ以外もミミにまかせてよさそうだ。
コーちゃんがなにやら言いたげな顔でこちらを見ていたので「コーちゃんの魔法もすごいから」とフォローしておいた。
羊毛や骨はギルドに買い取ってもらうので、布にくるんで他のバロメッツと一緒にバックパックの中に保管しておく。
解体したバロメッツの肉は、食べやすいように薄く切っておく。
最後に沸騰している鍋から昆布を取り出し、酒を入れてひと煮立ち。
これで準備は完了だ。
「それじゃあ、ラムしゃぶを始めようか」
「うむ!」
「うわぁ! 楽しみ!」
器に特製ゴマダレを入れてコーちゃんたちに配ってから、鍋の中に具材を入れていく。
まずは硬い野菜から。
その後にバロメッツ肉を入れるんだが──おおっと、浄化魔法をかけるのを忘れてたな。あやうく食あたりでダウンするところだった。
クリアランスを肉にかけて、さっと出汁に通す。
最初の肉はコーちゃんとミミの器に入れてやった。
「……む? 我らから食べていいのか?」
「バロメッツを仕留められたのは、ふたりの協力があったからだからな」
ひとりでやってたらもっと時間がかかっていただろう。
「ほれ、食べな?」
「そういうことなら、いただこう」
「ありがとう、ユウマ!」
あぐっと器の肉を頬張るコーちゃんたち。
「……おおっ!?」
食べた瞬間、二匹そろって驚いたような顔をする。
「う、美味い! ラム特有の旨味は残ったままなのに、臭みが全くないぞ!?」
「あちちっ……! だけど美味しいっ! このユウマ特製のタレがいいね!」
「あはは、よかった」
喜んでもらえて俺も嬉しい。
ミミは猫舌だろうし、無理しないようにな。
「さて、俺も食べてみるか」
一切れバロメッツ肉を取って、ササッと出汁を通す。
いい感じで色が変わったところで、ゴマダレにつけてぱくっと。
「……うおっ、なんじゃこりゃ!?」
思わず驚きの声が出てしまった。
ラムしゃぶはお気に入りの料理でよく食べているけど、これはこれまで味わった中で最高に美味い。
元々ラム肉をしゃぶしゃぶで食べるとクセが少なくなるが、本当にゼロに近い。その一方で、風味は普通のラム肉より強く、脂の甘さも際立ってる。
味が濃いと言えばいいのだろうか。
やはりモンスター肉ってすごく美味いんだな。
もう一度バロメッツ肉を堪能しようと思って一枚取ったらコーちゃんにズボンの裾を引っ張られた。
「もっと食べさせろ」
「ミミも!」
「はいはい」
こいつらは自分でしゃぶしゃぶできないから仕方ないな。
少し多めにラム肉を入れていく。
ササッと出汁を通して、彼らの器の中にドサッと。
「うむ! うむ! 美味い!」
「はふはふ……おいひぃ……」
ガツガツと食べるコーちゃんたちを微笑ましく眺めながら、俺もバロメッツ肉をいただく。
野菜も柔らかくて食べやすい。
ふと、顔を上げると雪化粧したスカイハイヴンの山々が陽の光を浴びてキラキラと輝いていた。
ほっと息を吐くと、白い息が空に溶け、静かに消えていく。
最高の景色に、美味いラムしゃぶ。
いやぁ、こんな場所でラムしゃぶができるなんて最高だなぁ……。
「……おや?」
最高のモンスター飯に舌鼓していると、背後から女性の声がした。
振り向いた俺はギョッとしてしまった。
背後に立っていたのは、なんとも美しい女性だった。
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