第二十七話 バロメッツ狩り
バロメッツがいる場所は、スカイハイヴンの北部。
つまり、バリバリの山岳地帯だった。
スカイハイヴン山頂に続いてまたしても山登りか……と億劫になってしまったが、そうでもなかった。
依頼書に書かれていたバロメッツが確認された場所は、街道のすぐ近くだった。
モンスターは街道の近くには現れないって言ってたけど、人間に危害を加えないモンスターは出てくるんだな。
さて、羊のバロメッツはどこにいるのかな。
なんて考えながら周囲を見回す俺の目に、奇妙な光景が映った。
「あっ! 見てユウマ! コーちゃん!」
俺より先に声をあげたのは、頭の上に乗っているミミだ。
「木の上に羊さんがいる!」
「……ホントだ」
一応言っておくが、幻覚を見ているというわけではない。
本当にモコモコの羊が木の上にいたのだ。
それもたくさん。
全員、むしゃむしゃと美味しそうに木の上で葉っぱを食べている。
「なぁ、コーちゃん?」
「うむ。アレがバロメッツだな」
「マジですか」
いや、こんなに簡単に見つけられたのはありがたいが、奇妙な光景すぎる。
細い枝の上に乗ってるヤツもいるし。
もしかして、体重がめちゃくちゃ軽いのか?
「……ンメェ?」
と、木の上でのんびり葉っぱを食んでいたバロメッツと目が合った。
瞬間、ギョッと目を見開くバロメッツ。
「ンメェ!?」
「ンメェ!」
「メェメェメェ! メェメェ!」
山の中に響き渡る羊さんたちの鳴き声。
そして、一斉にピョンピョンと枝から枝に飛び移り、逃げ始める。
「……あっ! 逃げた!?」
うわ、すごい! 羊なのにムササビみたいに枝から枝に飛び移ってる!
なんて身軽なやつらだ。
しかし、このままじゃ逃げられてしまう。
「あの羊を仕留めるんだよね!? ユウマ!?」
「ああ、そのつもりなんだが……ミミ、なにかできるのか?」
「うん、任せて!」
ミミは頭の上でもそもそとなにかをしはじめる。
だけど、見えないのでなにをしているのかは全然わからない。
そして、しばしの沈黙の後──。
「……えいっ! マインドブレイク!」
ミミの声が響いた。
瞬間、黒い霧が数メートル先のバロメッツ周辺にブワッと広がった。
「メェッ!?」
「メェ……」
その霧から逃れようとするバロメッツたちだったが、まるで糸が切れた操り人形のように次々と地上に落ちてくる。
な、なんだ? 一体、なにをやったんだ?
「おお、今のは暗黒魔法ではないか!」
感心したような声をあげたのは、コーちゃんだ。
「見事であるぞ、ミミ」
「えっへっへ。すごいでしょ~」
「……え? 今、魔法を使ったのか?」
「そうだよユウマ。ミミが一番得意な暗黒魔法!」
暗黒魔法って無限収納と同じ系統の魔法だよな?
そういや、ゴミを処理できる暗黒魔法が使えるって言ってたっけ。
だが、今のは違う魔法みたいだったが。
「なんて魔法なんだ?」
「マインドブレイクっていう暗黒魔法! 黒い霧をぶわって出して、頭をガツンとぶっ壊すやつ!」
「頭をぶっ壊す……」
ナニソレすごく危険な響き。
まさか脳を破壊するのか?
いや、ミミが誇張して説明してるだけで、気絶させる程度の魔法だよね?
こ、怖いから詳細は聞かないでおこう。
「だけどすごいなミミ。そんなすごい魔法が使えるなんて」
「……む。我も魔法は得意であるぞ?」
コーちゃんが「異議あり」と言いたげにかぶせてきた。
いつも幸せそうな顔はどこへやら、ちょっとだけムッとしている様子。
「見たところ、マインドブレイクで仕留め損なったバロメッツが何匹もいるようだな。どれ、我が格の違いを見せてやろう」
などと息巻く魔法の王、聖獣フェンリル様は、モコモコのお尻をフリフリして火のエレメントを集めだす。
「灰燼に帰すがいい。フレイムボム!」
コーちゃんの鼻先から、巨大な炎の弾が放たれる。
木の上に着弾した瞬間、凄まじい爆発が起きた。
「うおおおおっ!?」
その激しい爆風で軽く吹っ飛んでしまった。
慌てて身を起こすと、さっきまで生い茂っていた木々はなくなり、巨大なクレーターができていた。
「す、すげぇ……」
「ふっふっふ。どうだ? なかなかの威力であろ?」
「だけど、羊さんも炭になってない?」
頭の上からミミの声。
「それに、さっきミミが頭をぶっ壊した羊さんたちも消えちゃったし……」
確かにミミが仕留めてくれたバロメッツも木っ端微塵になっちゃったな。
コーちゃんの魔法はすごかったけど、炭にしちゃうと食べられない。
おまけに、ギルドから報酬ももらえない。
「……そ、そうであった」
「まぁ、コーちゃんがすごい魔法を使えるのはわかったよ」
シュンとするコーちゃんの頭をナデナデ。
すぐに「であろう!?」と尻尾をフリフリしはじめた。
「次から魔法使うときはもう少しエレメントを少なめにしような?」
「うむ! 我、頑張る!」
この聖獣様は褒めるとすぐ機嫌がよくなるよな。実に可愛いワンちゃんだ。
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