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第二十六話 ポテトクラウンと空雲ステーキ

 しかし、どこのレストランに行こう?


 お金には余裕があるから高級レストランに入ってもいいが、空雲ステーキが食べられなかったら嫌だしな。ここはしっかりと吟味しないと。


 しばらく通りを歩いて、入口にたくさんのメニューが書かれていたレストランに入ることにした。


 店内は宿屋や酒場のような木造で、すごく温かみがある。


 客の陽気な笑い声が響き、肉の焼ける香りがふわりと漂ってくる。



「いらっしゃいませ」



 小綺麗な制服に身を包んだ女性の店員さんが声をかけてきた。



「何名様でしょうか?」

「あ……ひとりなのですが、この子たちも一緒にいいですか?」

「ペット同伴はテラス席のみのご利用になりますが、よろしいでしょうか?」

「テラス席?」

「はい、あちらです」



 女性が二階席を手のひらで指す。


 どうやらこのお店はテラス席があるカフェレストランらしい。


 むしろそっちのほうがいいな。


 スカイハイヴンの景色が一望できそうだし。



「テラス席でお願いします」

「では、どうぞ」



 店員さんを先頭に、二階テラス席へと向かう。


 途中でポテトクラウンと空雲ステーキを食べられるか店員さんに尋ねたところ、「もちろんありますよ」とにこやかに返してくれた。


 店員さん曰く、山頂にあるレストランではどこでも食べられるのだとか。


 流石は名物料理だ。


 案内された二階のテラス席は想像以上だった。


 視界を遮るものがなにもない最高の眺望。


 山に寄り添うように広がるスカイハイヴンの町が一望でき、いくつも連なる山岳地帯が遠くまで見える。


 その美しさに、思わずため息が漏れ出してしまった。



「……すごい景色だな」

「うむ。この世界でも指折りの景色だと思うぞ」

「ミミは景色より食べ物がいいな~」

「あはは、そうだな」



 席に着き、早速注文をする。


 頼んだのは、もちろんポテトクラウンと空雲ステーキだ。


 さてさて、一体どんな料理が運ばれてくるのだろう。


 特に空雲ステーキが楽しみだ。


 しばし景色を堪能していると、店員の女性が料理を運んできた。



「おまたせしました。ポテトクラウンと空雲ステーキです」

「おお、これが……」



 ポテトクラウンは宿屋の店主さんが言っていた通り、ジャガイモを細長く切ってカリカリに焼いたものだった。ベーコンやたまねぎも入っている。


 本当にスイスのレシュティみたいだな。


 スイスも山岳地帯だし、こういう料理が生まれる場所なのかもしれないな。


 そして、正体不明だった空雲ステーキ。


 その見た目にびっくりした。



「すごい。本当に空に雲があるみたいだ」

「であるな」



 コーちゃんも驚いている様子。


 空雲ステーキは鶏肉のステーキに雲を模した大根おろしがのっていた。


 本当に雲みたいな見た目に驚き、さらに和風だったことに二度驚く。


 もしかして考案したの、転生した日本人だったりするのだろうか。



「では、いただきます」

「いただきます」

「ま~す」



 コーちゃんたちと手を合わせ、早速いただく。


 ポテトクラウンは見た目通りの味で、表面はカリッと香ばしいのに中はホクホクとしていて色々な食感が楽しめる。じゃがいもの素朴な甘さとベーコンのジューシーさがマッチしていて、すごく美味しい。


 空雲ステーキもポテトクラウンに勝るとも劣らない味だった。


 鶏肉のジューシーな旨みと、大根おろしの爽やかな風味がよく合っている。ソースもさっぱりとしていて美味しい。


 ポテトクラウンと一緒に食べるとまた別の楽しみ方ができるのもいい。


 しかしこのソースはどうやって作ってるんだろう。


 甘さの中に辛味があるし、スパイスを入れてるのかな?


 なんてソースの秘密をあれこれ考えながら、スカイハイヴンの名物料理を堪能した俺たち。


 料金も銅貨三枚と非常にリーズナブルだった。


 景色も最高だったし、心もお腹も大満足。


 ──だけど、今日のイベントはこれで終わりじゃない。



「それじゃあ本日のメインイベントに行こうか!」

「うむ!」

「空の旅だね!」



 店を出た俺たちが向かったのは、巨大な飛空艇が停まっている停泊所だ。


 飛空艇の遊覧飛行を楽しもうじゃないか。


 しかし、飛空艇を見られる場所であれだけの人だかりができていたことを考えると、長蛇の列ができているかもしれないな。


 まぁ、時間はたっぷりあるし、ゆっくり待とう。


 ──なんて思っていたのだが。



「……あれ? 誰もいない?」



 やってきた遊覧飛行の受付所はもぬけの殻だった。


 誰ひとりとして並んでいない。


 もしかして場所を間違ったのかと思ったが、掲げられている看板をコーちゃんに読んでもらったところ、ここで間違いはないらしい。


 これは超ラッキーでは──と喜んだのもつかの間、受付カウンターに哀しい置き看板が置いてあった。



「……欠航と書いてあるぞ、飼い主殿」

「え、マジで?」

「ユウマ、ケッコーってなに?」



 頭の上に乗っているミミが尋ねてきた。



「ニワトリのこと?」

「違う違う。船が出られなくなったんだってさ」

「え? 乗れないの? なんで?」

「モンスターが出たんだと」



 置き看板によると、遊覧飛行を行う空域に巨大なモンスターが現れたらしく、本日の遊覧飛行は中止になったらしい。


 残念すぎるが、モンスターが出たなら仕方ない。


 遊覧飛行中に襲われて墜落しましたなんて目も当てられないし。


 コーちゃんが「ふうむ」と首をひねる。



「スカイハイヴン近郊に現れるモンスターといえば、巨大なトカゲだな」

「巨大なトカゲ?」



 なにそれ。食べられるのかな?



「……今、食べられるか考えていたであろう?」

「うっ」



 コーちゃんにチクリと言われ、思わず後ずさり。


 実に鋭い。その通りでございます。


 トカゲ肉って鶏肉に似た食感を持ってるって聞いたことがあるし、焼いて煮込んでも美味そうじゃん?


 置き看板には、より詳細な情報がかかれていた。


 なんでも、国王直属の騎士団がモンスターの対処にあたるらしく、すぐに遊覧飛行は再開するという。


 王国騎士団か。かなり大掛かりだが、そこまでする価値があるんだろう。


 彼らがその巨大モンスターを倒すまで大人しくしておくか。


 スカイハイヴンの名物料理は食べられたわけだし、ひとまずはよしとしましょうかね。



***



 翌日。


 早朝に宿の窓から外を見ると、一面真っ白だった。


 と言っても、雪が積もってるというわけではなく、町全体に霧が降りていて白い幕に覆われたみたいになっていたのだ。


 道や建物を見るとしっとり濡れていたので、雨が降っているのだろう。


 スカイハイヴンは高地にある町だし、天候が悪くなると雲がかかってこんな風になってしまうんだろうな。


 雨は嫌だが、すごく神秘的な雰囲気でワクワクする。


 こんな日に遊覧飛行ができたら素敵かもしれないな。


 天空に果てしなく広がる、白銀の海……。


 空の青と混ざり合う光景は、実に神秘的だろう。



「……残念だが、今日も欠航らしいね」



 ため息混じりでそう返したのは、宿屋の店主さんだ。


 朝食がてら飛空艇の遊覧船が出ているのか聞いてみたのだが、どうやら本日も欠航らしい。



「天候が理由で?」

「いや、例の空域を荒らしてるモンスターだな。王都から腕利きの騎士団が派遣されてるらしいんだが、まだ到着していないんだ」

「……え? そうなんですか?」



 てっきりもう対処していると思ってた。


 しかし、到着がこれからとなると運行再開まで時間がかかりそうだな。


 ううむ。これは困ったことになってきたぞ。このままのんびり待っててもいいが、運行再開まで一週間かかりました……なんてことは避けたい。


 なにせ、俺の休みはふた月しかないのだ。


 もっと色んな場所に行って、たくさんのモンスター飯を食べたい。


 その巨大な空飛ぶモンスターが遊覧飛行の邪魔をしているというのなら、排除するのもやぶさかではないが……。



「……我らでやるか?」



 足元にいたコーちゃんがそっと尋ねてきた。


 どうやら彼も俺と同じことを考えていたらしい。



「そうだな……相手次第だと思うけど、ひとまず情報を集めようか」



 凄まじくデカい相手だったら、流石に無理だろうし。


 コーちゃんは「ふむ」と続ける。



「モンスターの情報と言ったら冒険者ギルドだな」

「だな。ちょっと行ってみよう。いいかい、ミミ?」

「え~っと……よくわからないけど、どういうこと?」

「簡単に言えば、散歩がてら町の人に話を聞きに行こうってことだ」

「それならいいよ! ミミ、ユウマの頭の上に乗る!」



 元気よく賛成してくれたけど、一歩たりとも歩く気はないらしい。


 すっかり俺の頭の上が気に入ったみたいだ。


 というわけで、ミミを頭の上に乗せて冒険者ギルドに向かう。


 場所は調べるまでもなかった。


 宿屋の二件隣に、剣とモンスターのイラストが描かれた看板を掲げているお店があったのだ。


 コマルの冒険者ギルドも宿のすぐ近くにあったし、冒険者が宿を使うことを考えて利便性を優先しているんだろうな。


 しかし、立地はコマルの冒険者ギルドと似ていたが、建物の大きさは明らかに小さかった。


 外見は宿屋の半分くらいのサイズで、普通の民家のような見た目。


 中に入ってさらに驚いてしまった。


 広さはコマルのギルドの十分の一程度。小さなカウンターとテーブルがひとつあるだけで、個人経営の立ち飲みバーって感じがする。



「いらっしゃいませ」



 カウンターの向こうに立つ女性が声をかけてきた。


 メリルさんと同じ制服を着ている。


 きっと受付嬢さんだな。この格好は全国共通なんだろう。



「依頼をお探しでしょうか?」

「あ、いえ。依頼を探しているわけじゃなくて、遊覧船の運行を邪魔しているモンスターについて聞きたいんですが」

「遊覧船?」

「はい。空域を荒らしているというモンスターです。なにか情報は来てますか?」

「……ああ、合同依頼の申し込みですね。詳細はあそこの依頼書に書かれていますので、まずはご一読ください」



 受付嬢さんが店内にある掲示板を見る。


 コマルではメリルさんが色々と依頼を案内してくれたけど、スカイハイヴンではあそこに依頼が張り出されるシステムのようだ。


 とはいえ、貼られている依頼書は二、三枚くらいだが。


 ギルドの規模も小さいみたいだし、元々スカイハイヴンで出される依頼は少ないのかもしれないな。


 ひとまず受付嬢さんに教えてもらった依頼書を見てみることに。


 あ、この依頼書、すごく上質な紙でできている。


 動物の皮で作った羊皮紙かな?


 いかにも身分の高い人から発注された依頼のような雰囲気がある。


 だが、なんと書いてあるのか全然読めない。



「コーちゃん、これってなんて書いてあるんだ?」

「我に任せよ」



 コーちゃんは掲示板に前足をついて壁立ちして、依頼書を読み始める。



「……なるほど。空域を荒らしているモンスターがわかったぞ」

「お、そうなの? どんなモンスター?」

「うむ。レッドドラゴンだ」

「へぇ、レッドドラ……なんだって?」



 一瞬納得しかけ、聞き返してしまった。


 レッドドラゴン?


 え? 嘘? 空飛ぶ巨大なモンスターって……レッドドラゴンだったの!?


 それって確か、ミミの故郷を荒らしてたっていうヤツだよな!?


 慌てて受付嬢さんに尋ねる。



「あ、あの、すみません。レッドドラゴンって、あのレッドドラゴンですか?」

「……え? は、はい。多分、あのレッドドラゴンじゃないかな……」



 苦笑いを浮かべる受付嬢さん。


 それを見て、我ながらアホみたいな質問をしてしまったと反省する俺。


 受付嬢さんが続ける。



「あの、失礼ですがお客様はレッドドラゴンの合同討伐依頼を受けに来たわけではないのですか?」

「違いますね。遊覧船に乗りたかったのですが欠航していると聞いて、一体どんなモンスターが現れたのかなと」

「……なるほど、そういうことでしたか」



 それから、受付嬢さんは現在の状況をかいつまんで説明してくれた。


 数日前に、スカイハイヴンの空域に巨大な赤いドラゴンが現れ、スカイハイヴンで産出された鉱石を乗せた飛空艇が落とされてしまったらしい。


 その鉱石はノクタニア王国の首都にある国内有数の商会に運ばれる予定のもので、国内産業が大打撃を受けてしまったという。



「それで、レッドドラゴンを討伐すべく国王様お抱えの騎士団がスカイハイヴンに派遣されることになったんです。彼らが到着次第、全国から集められた冒険者による合同の討伐作戦が実施される予定なんです」

「な、なるほど……」



 そういうことだったのか。


 遊覧船の欠航だけじゃなく、かなりの大事件だったんだな。


 国内産業が大打撃を受けたって言ってたし、国王様としても一日も早く運行を再開させたいのだろう。



「……合同依頼に参加するのか?」



 コーちゃんが尋ねてきた。


 俺は首を横に振る。



「いや、遠慮しとこう。巨大なドラゴンなんて相手にしたくないし。国王様お抱えの騎士団や冒険者さんが集まるなら、彼らに任せといたほうがいい」



 こっちは素人だ。下手に手を出したら足手まといになる。


 だが、ドラゴンが討伐されるまでなにをしよう?


 町を散歩したり宿でのんびりしたりしていてもいいが、食べたいよな。


 ──この土地で捕れるモンスターを使った、至極のモンスター飯を。



「ちなみに、ここ辺りにモンスターは出ますか?」



 受付嬢さんに尋ねた。


 彼女はしばし「う~ん」と考え、口を開く。



「バロメッツは結構見ますね」

「バロメッツ?」

「羊のモンスターです。危険なモンスターではないのですが、バロメッツを狙って他の肉食の獣やモンスターが集まるのでたまに討伐依頼が出されるんです。確か今も出ていると思います」

「掲示板に貼られていたな」



 と、コーちゃんが続ける。


 出されていた依頼は、至極簡単なものだった。


 討伐してバロメッツの耳を持ち帰ればOK。


 一匹につき銅貨五枚。


 報酬は微々たるものだが、どうせ狩るなら受けておいたほうが得だろう。


 しかし、羊のモンスターか。


 ──実に美味しそうだな。



「討伐依頼、受けますか?」

「はい、そうします」



 というわけで、バロメッツ討伐依頼を受けた俺たちは一旦宿に戻ってバックパックを取ってからスカイハイヴンを出発することにしたのだった。


 まってろよ、バロメッツ。


 ジンギスカンにして食べてやるからな!

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