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第二話 生粋の変人

 その夢を抱くようになったのは、はるか昔……幼少の頃だ。


 最近も異世界スローライフ系のラノベを読んでいるけれど、子どもの頃もファンタジー漫画やラノベを読み漁っていた。


 だが、俺を虜にしていたのは恐ろしい魔王と戦う主人公ではなく、彼らが倒すべきモンスターだった。


 大鷹の頭に獅子の体を持つグリフォン。


 ライオンの頭にヤギの胴体、ヘビの尻尾を持つキメラ。


 ニワトリの頭に竜の翼を持つコカトリス。



「美しく猛々しいモンスターの姿にひと目惚れした俺は……いつしか味も知りたくなった。それで、ファンタジーの世界に行って彼らの肉を使った料理を作って食べまくるのが夢だったんだ!」

「そうか。いい夢だな。だが、そういうのをこの世界では『さいこぱす』と呼ぶと野良猫のタマに聞いたぞ」



 顔をムニュらせたまま、コーちゃんが呆れたように言う。


 なんとでも呼ぶがいい。だが、異世界に行けるのであれば、俺は食べてみたい。


 モンスターを使った「モンスター飯」を!



「しかし、モンスターは『魔素』という人体に悪影響を及ぼす猛毒を持っている。人間が食すにはちょっと適していないと思うが」

「……え? そ、そうなのか? 食べられないのか?」



 な、なんということだ……。


 俺はコーちゃんの顔をムニュッていた手を離し、うなだれてしまった。


 そんな俺を見て、慌ててコーちゃんが続ける。



「そ、そう悲しい顔をするな飼い主殿。魔素の毒素を中和する浄化魔法を使えば食べられると思う」

「そうなのか!? じゃあ、それで!」



 思わず立ち上がり、ガッツポーズする俺。


 絶望から一気に歓喜に。


 やった!一瞬無理かと諦めかけたけど、これはマジで夢が叶いそうだぞ!


 子どもの頃から夢に見た、モンスター飯──ついにそれが食べられる日が来るなんて。


 いやぁ、人生二十四年、ここまで必死に生きててよかったなぁ!


 それもこれも、全部コーちゃんのおかげだ。


 思わず立ち上がり、コーちゃんの手を取り一緒に踊ってしまう。



「やったぜ、やったぜ! 夢のモンスター飯だ!」

「我、やっぱり選ぶ飼い主を間違ったのかもしれぬ……」



 俺と一緒に奇妙なダンスを踊りながら、ぽつりとそんなことを言うコーちゃん。


 てなわけで、ピーマンの肉詰めを食べ終わってコーちゃんから思いがけないプレゼントを頂戴した俺は、ウキウキで旅の準備をすることにした。


 と言っても、押入れからキャンプグッズを引っ張り出しただけだが。


 時間ができたらキャンプをしようと買ったはいいものの、その機会に恵まれず押入れの中でホコリをかぶっていたグッズの数々だ。


 コンパクトテーブルに椅子、ミニコンロやランタン、焚き火台、チタンマグカップ、クッカーにナイフ、着替えなどなど。


 美味しくモンスター飯をいただくための調味料も用意した。


 それを四十リットルのバックパックに収納する。


 もっと大きな五十リットルとか八十リットルのバックパックでもよかったが、色々と持っていきたくなってしまうのでこのサイズにした。


 荷物が多くなると、その分重くなってしまうからな。


 ちなみに、俺の服装は動きやすいものにした。


 アウトドア用の黒のパーカーにカーゴパンツ。足元はジャングルブーツで、パーカーの下にはTシャツを着ている。暑くなったら上を脱げばOKというわけだ。



「よし、準備はこんな感じでいいか」



 リビングに置いたバックパックはいい感じにパンパンになっている。


 テーブルや焚き火台など大きなものはゴムロープを使ってバックパックの外側に固定した。


 ちなみにテントは持っていかない。この旅行は日帰りのつもりだからな。



「頑張って色々準備しちゃったけど、明日は仕事だからとりあえず今回は日帰りのお試し旅行って感じでもいいか? コーちゃん?」

「かまわんが、明日は日曜日ではないのか?」

「日曜だけど、仕事があるんだよね」

「……そうか。飼い主殿は本当に偉い大人だな」

「あはは、ありがとう」



 コーちゃんの頭をナデナデ。


 もっと長い旅にしたいが、これが社畜の哀しいところなのだ。


 まぁ、日帰りでも十分楽しめると思うし、異世界が危険な場所だったら旅行を楽しむどころじゃなくなってしまうし。


 まずは日帰りで行ってみて、大丈夫そうだったら有給を使ってまとまった休みを強引に作ろう。


 ……申請が通るのかはわからんが。


 有給は労働基準法第三十九条で定められている労働者の権利なんだけどな~。


 まぁ、そんな愚痴はさておき。



「よいしょ……っと」



 バックパックを背負うと、ずしりとした重さが両肩にかかる。


 うっ、結構重いな。


 だが、これくらいなら歩けそうだ。


 魔法で異世界と行き来するみたいだし、重さはさほど気にしなくてもいいはず。



「……あ、そう言えばコーちゃん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「む? なんだ?」

「コーちゃんって異世界の神様に負けてこっちの世界に追放されたんだよな? 追放されたのに、なんで異世界を行き来できるの?」

「……?」



 コーちゃんがしばしきょとんとした顔をする。


 もしかすると予想外の質問だったのかもしれない。


 だけど、普通に考えてちょっと変だからな。


 コーちゃんは「ふうむ」と唸って、続ける。



「追放されたのは千年前の話だからな。流石にイグアニオスは死んでおる。つまり、我は無罪放免だ」

「ほんとに?」

「ほんとに」



 こくりと頷くコーちゃん。


 なんだか嘘くさいな。



「それに、追放されたと言っても断罪されたというわけではない。聖獣フェンリルは人々に敬われている存在だからな」

「え? そうなの?」

「そうだ。我は人々に敬われ、慕われていた。イグアニオスとの戦いは、いわば宗教戦争のようなものだ」



 信仰の違いから生まれた争い……みたいなものか。


 だからそのイグなんちゃらを「蛮神」って呼んでたんだな。


 政治と宗教と野球の話はするなって言うし、あまり踏み込むべきじゃないのかもしれない。


 本人が問題がないと言ってるのなら、心配は不要か。



「……よし。それじゃあ、行こうかコーちゃん」

「うむ、では我の体に触れるがよい」

「こう?」



 コーちゃんのモフモフ背中に手をのせる。



「では、いくぞ」



 コーちゃんが「テレポレート」と呪文を唱えた瞬間、俺たちの足元が青白く輝きはじめ、巨大な魔法陣が現れた。


 俺の部屋が凄まじい光に照らされる。


 おお、本当に魔法だ。


 コーちゃんって、本当に異世界の住人だったんだな──なんて思っていると、足元の魔法陣がさらに輝きを増し、俺の視界が光に包まれ──。



***



「着いたぞ、飼い主殿」



 気がついたとき、俺は見知らぬ森の中に立っていた。


 天高くそびえ立つ樹木の隙間からこぼれ落ちる太陽の光。鼻腔を(くすぐ)るのは、土と新緑の爽やかな香り。響きわたる小鳥のさえずりや、穏やかな風が草花や葉を揺らす声がなんとも心地よい。



「……完全に森の中だな」



 さっきまで部屋にいたはずなのに、一瞬で大自然のど真ん中に来ていた。


 これがコーちゃんの「転移魔法」というやつか。


 この魔法があれば通勤時間を短縮できるな……なんて考えて、ちょっと悲しくなってしまった。異世界に来てまで仕事のことを考えるなんて。


 これはもはや「社畜病」だな。



「というか、現実世界の森と変わらないんだな」



 異世界というのだから、奇妙な形をした樹木とか珍しい木の実があったりするのかと思っていたんだが。


 間違って近所の林の中に来ました……とかないよな?



「ここって本当に異世界なのか?」

「そうだ。我が転生する前に住んでいた世界に間違いない。場所は……」



 スン、と鼻を天に向けニオイを嗅ぐコーちゃん。



「……ふむ、ノクタニア王国の南方にあるタイニーオークという森だな」

「オーク? もしかしてモンスターのオークが住んでいるのか?」

「む? オークを知ってるのか?」



 コーちゃんが驚いたような声を出した。


 オークと言えば豚の顔をした亜人モンスターだ。


 実際に見たことはないが、ファンタジー世界の定番モンスターだからな。


 ファンタジーラノベを読み漁っていた俺にとっては馴染深い名前だ。



「だが、ちょっと待てよ、コーちゃん。オークって亜人モンスターだよな? 人の姿に似てるし食べるのはちょっと遠慮したいんだが……」

「初手で食そうとするな」



 く~ん、と悲しそうな声を出すコーちゃん。


 そんなコーちゃんにこの世界のオークのことを色々と聞いたのだが、非常に知能が高く、好戦的な性格も相まって傭兵として徴用している国もあるらしい。



「そうなのか。というか、そんな危険なモンスターが徘徊しているんだな」

「いや、この森の名前の由来はオークの木がたくさんあるからだ。オークは住んでいない」

「今のオークのくだりはなんだったんだよ?」



 この数分間、無駄しかない。


 まぁ、安全というのがわかったのはありがたいが。



「この森にはどういうモンスターがいるんだ? できれば食べられるものを教えてほしいんだが」

「そうだな……色々なモンスターがいるが、手軽に食すことができるものと言ったらレントだな」

「レント?」

「肉食植物のモンスターだ」

「に、肉食……」



 なんとも物騒な響きに、思わずごくりと息を飲んでしまった。


 レントは甘い果実を実らせるらしいのだが、その果を食べようと近づいてくる生き物を触手で絡め取り、養分を吸うのだという。



「めちゃくちゃ危険なやつだな……」

「危険だが警戒しておけば問題はない。レントの実はとても目立つからな」



 生き物を引き寄せるため、わざと目立つ美味しそうな色をしているという。


 それだったらうっかり近づいて触手にやられるなんてことはなさそうだ。


 というわけで、まずはそのレントというモンスターを探すことにした。

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