第十五話 夜の宴
「な、なな、なんだこれは!?」
アーノルドさんが興奮気味に尋ねてくる。
「皮にはパリパリとふんわりな部分があって、中の具はめちゃくちゃジューシーなのに野菜の旨味もある……もっと食べたいぞ、兄弟! もっと食べさせてくれっ!」
「ああ、いいぞ! たくさんあるからな!」
なんだか嬉しくなってしまった。
皿に山盛りの餃子をのせ、アーノルドさんに渡す。
「さぁ、どんどん食べてくれ!」
「あ、あの……私も食べてもいいですか?」
そっと尋ねてきたのは、シズさんだ。
俺は深々と頷く。
「もちろんだ! というか、シズさんってモンスター飯に興味があるんだよな!?」
「……うぇっ!?」
「だってほら、スカーレットボアのホットサンドを作ったときから食べたそうにしてたし!」
「あ……あの……えと」
シズさんはしばしオロオロとした後、そっと耳打ちしてくる。
「じっ、実は昔から興味があって……でも、モンスター肉が苦手なジュディさんの手前、あまり口に出せず……」
「やはりそうだったか! シズさんはモンスター飯が好きだったんだな!」
「ッ!? ちょ、ユウマさん! こ、声が大きいですってば!」
まさか、俺と同じ夢を抱いていた同胞がいたとは!
最高に嬉しい!
こうなったら特別サービスをしてやるしかない。
シズさんの皿にも大量の餃子をのせる。
彼女は感慨深そうな顔をして餃子を見た後、少し控えめにパクリと食べた。
「……あっ」
「どうだ?」
「こ、これは……お、美味しい! ジューシーなミノタウロス肉も美味しいですけれど、この肉汁がたまらないです!」
目尻を下げ、なんとも幸せそうな顔になるシズさん。
ぱくっ。もく、もくもくもく。
彼女は頬をぷっくりと膨らませ、
「……おいひい」
と笑顔で一言。
思わず俺もニッコリである。
「ほら、ジュディさんもどうぞ」
「……っ!?」
餃子をのせた皿を差し出したのだが、彼女は光の速さで身構えた。
「い、いや、あたしは」
「食あたりになんてならないし、めちゃくちゃ美味しいから」
「そうだ、めちゃ美味いぞ」
「おいひいですよ、ジュディはん」
サムズアップするアーノルドさんと、にこにこ顔のシズさん。
ジュディさんはそんなふたりを交互に見て、しばし考え込む。
かなり悩んでいるのか、彼女のしっぽがくねくねと忙しなく動いている。
そして、意を決したようにジュディさんはフォークを伸ばし、グサリと餃子に突き刺した。
「ええい、どうにでもなれっ!」
ぎゅっと目をつむり、パクリと頬張るジュディさん。
すぐに苦々しい表情から、驚いたような表情に変わる。
「……おっ」
「どう?」
「お、美味しい。す、すごく……。それに、お腹が痛くならない」
「よかった。いっぱいあるからたくさん食べてよ」
「う、うん」
ひと口食べてすっかり安心したのか、ジュディさんは次々と餃子に口をつけていく。
彼女に続いて俺たちも。
「あむ……」
「もぐもぐ」
「はふはふっ……」
言葉を発することなく、一心不乱に餃子に食らいつく俺たち。
かなり多めに焼いたのに、あっという間に焼いた餃子がなくなってしまった。
「……飼い主殿」
コーちゃんが悲しそうな視線を俺に向けてくる。
「我、もっと食べたい」
「安心しろ。まだ第二弾があるから」
シズさんと手分けして作ったギョーザはまだたくさんある。
それに、ミノタウロスひき肉はボウルふたつ分残っているからな。
てなわけで、追加で餃子を焼いてコーちゃんの前にドサッと差し出す。
すぐに目を輝かせ、あぐあぐと美味しそうに食べ始めた。
「うむ、うむうむ! 何個食べても美味だぞ飼い主殿! こうやって食べるミノタウロス肉は最高だな!」
「え? 他の方法で食べたことがあるの?」
「うむ。魔力の補充のために生で何度か」
「生」
「あまり思い出したくない部類の味だった」
くうんと悲しそうな声で鳴くコーちゃん。
そりゃあ生で食べたらね……。
なんだか可哀想になったので、追加で餃子を焼いてあげた。
それから、餃子のお供に現代から持ってきた酒を出すことにした。
高級な酒じゃなく、庶民的なもの……缶チューハイのストロ◯グゼロもとい、イチ◯ューロクだけど。
お口に合うかなと少し心配だったが、アーノルドさんたちは「濃厚な酒だ!」と大喜びだった。
なんでも、異世界の酒はだいぶ薄いのだとか。中世ヨーロッパでも、水で薄めたワインが主流だったって話も聞くし、同じようなものなのかな?
コーちゃんが「我も飲みたい」というので少し飲ませたが、コップ半分でダウンしてしまった。
魔法の王たる聖獣フェンリルは酒にはめっぽう弱かったらしい。
ミノタウロス餃子とイ◯キューロクを腹いっぱい堪能したところで、餃子パーティはお開きになった。
「そっちのデカいテントは自由に使ってくれ、アーノルドさん。中に寝袋もあるから」
「助かるぜ、兄弟」
俺は酔いつぶれてしまったコーちゃんを抱え、アーノルドさんたちとは別のテントに向かう。
ふと空を見上げると、美しい星空が。
真っ暗な空に大小さまざまの宝石のような星々が輝いている。
現代でもこんな綺麗な星空は見たことがない。
はっきりと輝いて見えるのは、周りに明かりがないからだろうか。
美味しいモンスター飯と、旨い酒。
そして──最高の星空。
うん。今日はよく眠れそうだ。
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