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第十二話 仲間

「──いやぁ、最高に美味かったぜ! ありがとう、兄弟!」



 アーノルドさんが、眩しい(暑苦しいとも言う)笑顔でサムズアップした。



「生まれて初めてホットサンドというものを食べたが、今年俺が食べた激ウマ料理ベストファイブの三位にランクインするくらいだったぜ!」

「それはよかった」



 苦笑いを浮かべてしまう俺。


 多分、本人としては最大級の賛辞なんだろうけど、三位って微妙な順位だよな。


 そんな俺を見て、シズさんがアワアワしはじめる。



「き、気にしないでください、ユウマさん。アーノルドさんの三位ってかなりすごい順位なんです。そもそもランクインすること自体がすごくて……」

「そうだよ。前に食べた宮廷料理は十位にすらランクインしなかったからね」



 ジュディさんが呆れ顔で続ける。


 そ、そうなんだ。


 宮廷料理って王様が食べるような料理だよな?


 俺のホットサンド、宮廷料理に勝っちゃった感じですか。


 原材料費、数百円だが。



「しかし、兄弟のおかげで元気が出たぜ! 道を間違えたくらいでへこたれていられるか! 気を取り直して、薄闇洞穴に向かおうじゃねぇか!」

「……ですね!」

「道を間違ったあんたが言うなって感じだけど、概ね賛同だわ」



 シズさんとジュディさんが笑う。


 腹が膨れれば元気が出る。


 それはこの世界でも同じらしい。



「そういや兄弟はどこに行くつもりなんだ?」

「俺たちか? とりあえずコマルに行くつもりだが、そこから先はまだ決めてないな」

「確か世界を旅していると言ってたよな?」

「そうなんだ」



 俺はアーノルドさんたちに、休暇を利用して世界を旅していることを軽く説明した。


 違う世界からやってきたことは伏せた上で、モンスター飯を作って食べまくろうと考えていることを話す。



「……モ、モンスター飯を食べまくる?」



 アーノルドさんが顔を青くした。



「それはマジな話なのか?」

「ああ、大マジだ。すでに三種類ほどのモンスター飯を作ったからな。キラーフィッシュの塩焼きと、ウィッスルのホイル焼き……あとはスカーレットボアのステーキにクリームチーズ巻き。どれも最高の味だったよ」

「いきなり早口になってウケるんだけど」



 ジュディさんに苦笑いで突っ込まれ、ハッと我に返る俺。


 マズい。モンスター飯の話題になって、つい熱が入ってしまった。


 これはドン引きされてしまったか──と思ったのだが。



「そ、それは素敵ですね!」



 シズさんが笑顔でぱちぱちと手を叩いてくれた。


 やはりこの子、わかってるな。



「シズさん。モンスター飯の美味さ、知りたいか?」

「……えっ? 私?」



 拍手していたシズさんの手がピタリと止まる。



「良ければ調理の仕方とか教えるが?」

「あ~……えと、そ、それはまた次の機会でいいかな……あはは」



 それは残念だ。だが、次会うときは最高のレシピを教えてやろう。


 そのときはもっとモンスター飯の知識を得ているはずだからな。


 なぜかコーちゃんが冷めた目でこちらを見ていたが、どうしたんだろう?



「……まぁ、モンスター飯のことはさておきだな」



 アーノルドさんがコホンと咳払いを挟んで続ける。



「コマルに行くなら、俺たちが途中まで同行しようじゃないか」

「え? アーノルドさんたちも一緒に?」

「あと少しで日が暮れるし、そうなれば街道にもモンスターが出てくる可能性がある。護衛ってわけじゃないが、ひとりで行くよりいくらか安全だろ?」



 渓谷の木々の向こうに見える空は、いくらか濃さを増してきている。


 あと一、二時間で日暮れを迎えるだろう。


 現代だと至るところに明かりがあるが、この世界にはない。


 暗闇の中でモンスターに襲われれば、コーちゃんが一緒でも危険極まりない。


 アーノルドさんたちはダンジョンに行くためにコマルの町を経由するみたいだし、二度手間というわけではなさそう。


 ここはお願いしたほうが吉かもしれないな。



「ありがとう。アーノルドさんたちが一緒なら心強いよ。なぁ、コーちゃん?」

「わふっ!」



 コーちゃん、嬉しそうに尻尾をふりふり。


 その可愛さに、アーノルドさんたちも目尻を下げる。



「よっしゃ! そうと決まれば出発しようぜ!」



 火の後始末を確認し、調理器具をバックパックに詰め込む。


 そして、パン屋の店主さんに御礼を言ってから、コマルに向けて出発した。


 渓谷を過ぎて、街道を西へと歩いていく。


 再び広大な平原が俺たちを出迎えてくれた。


 流れる風に身を任せ、音もなく揺れる草花たち。


 それが大海原に揺れる波のように思えてしまう。


 ううむ、何度見ても癒やされる景色だな。


 そんな美しい景色を堪能しながらのんびり歩いてもよかったが、アーノルドさんたちのことを詳しく聞いてみることにした。


 この世界のこと、色々知りたいからな。


 特に冒険者という職業のこと。


 どうやってモンスターと戦っているのか、すごく気になる。



「俺は剣を使って戦う剣士なんだ」



 アーノルドさんは待ってましたと言わんばかりに得意げに説明してくれた。


 彼は「浮葉無心流」という剣術をベースに近接戦闘を得意としているらしい。


 川を流れる落ち葉のように変幻自在の防御法で攻撃をいなす、専守防衛の剣術なんだとか。


 専守防衛……つまり、受け流しのカウンターってことか。



「浮葉無心流は、相手の初動の隙を突く『後の先』で戦いを制する剣術で、一対一の戦いでは無敗を誇る最強の剣術なんだぜ!」

「ま、一対一の戦いに特化しているから、複数のモンスターを相手にする冒険者には向いてないんだけどね?」



 ジュディさんが、至極残念そうに補足してくれた。


 なんでも、複数を相手にする際は浮葉無心流の技のほとんどが使えなくなってしまうらしい。


 なにそれ。本当に残念すぎる。


 というか、冒険者に一番マッチしてない剣術なんじゃ?


 これ以上突っ込むとなんだか可哀想だったので、シズさんに話を振ることに。



「ええと、シズさんは回復支援を得意としてる魔道士なんだよな?」

「は、はい。私は光のエレメント『エルフィ』と契約をしています」



 シズさんが水をすくうように手のひらを合わせると、光の粒が渦を巻くように集まってきた。


 浄化魔法を使うときに集めるエレメントだ。


 契約しておくとエレメントがない場所でも魔法が使えるようになるんだったっけ。冒険者ってダンジョンとか色々な場所に行くことになるし、契約しておいたほうが便利なんだろうな。


 シズさんは回復魔法の「ヒーリング」や、体を頑丈にする支援魔法の「プロテクション」など、光属性の魔法をたくさん使えるらしい。


 よくわからないけど、それって結構すごいのでは?



「ジュディさんは……」

「あたしはコレだね」



 ジュディさんは細身のナイフを取り出すと、華麗な指さばきでくるくると移動させはじめる。


 おお。まるで指先でナイフが踊っているみたいだ。


 人差し指から小指までくるくると動かし、そこから左手に。


 パッと両手を広げると、ナイフが消えた。


 あれ? どこに行った?


 ──と思ったら、ジュディさんの右手に戻っていて、俺はいつの間にか首元にナイフを突きつけられていた。


 す、すごい。そして……怖いです。



「あ、あの、ジュディさん?」

「あはは、ごめんね」



 くるくるとナイフを回しながら、肩をすくめるジュディさん。


 ちょっと怖かったけど、ナイフの扱いがすごいうまいのは理解できた。


 そんなジュディさんは三人の中では一番戦闘経験があって、戦闘における中心的な存在らしい。


 彼女はネコの獣人「キャスパリーグ」という種族で、ずば抜けて高い身体能力を持っているという。実力だけならゴールドクラスくらいあるのだとか。



「なんでジュディさんはゴールドクラスにならないんだ?」

「そりゃあ、勧誘されたり色々と面倒だからね」



 心底面倒くさそうな顔をするジュディさん。


 そういうの面倒なのか。


 冒険者ってシルバーとかゴールドとか階級を大切にしているんだと思ったが。



「ところで、その犬なんだけどさ?」



 と、ジュディさんが俺の横を歩くコーちゃんを見る。



「ちょっと普通じゃないニオイがするんだけど」

「……え? ニオイ?」

「そ。濃い魔素のニオイがする」

「…………」



 そっとコーちゃんを見る。


 彼はすんすんと自分の体を嗅ぎ、じっと俺を見る。


 その目は「我、臭くないが?」と主張していた。


 確かに、たまに顔面をコーちゃんのお腹に突っ込んでクンクンさせてもらうが、普通の獣臭しかしない。


 多分、ジュディさんの嗅覚が鋭いんだろうな。


 嗅覚というか魔素の探知力というか。


 しかし、コーちゃんがただの可愛いコーギーじゃないってことがバレたかもしれないな。妙な疑いを持たれても嫌だし、ここらで正直に話しておくか。



「実はこいつ、聖獣フェンリルなんだ」



 そう言うと、ジュディさんが「へぇ」と納得したような声を漏らした。


 だが、しばしして、目をぱちぱちと瞬かせる。



「……ええと、今なんて言った?」

「フェンリル。知ってるか?」

「フェ、フェエェェェッ!?」



 叫んだのは、シズさんだ。



「そ、そ、その可愛いワンちゃん、フェ、フェ、フェンリルなんですか!?」

「マジかよ!? 冗談だろ兄弟!?」



 アーノルドさんもひどく驚いている様子。


 ビビっているというより、信じられないといった雰囲気だ。


 そういや聖獣フェンリルって人々に敬慕されている存在って言ってたし、「我は神だ」と言ってるレベルなのかもしれないな。


 ここは俺が言葉で説明するより、コーちゃんに証明してもらったほうがいいか。



「コーちゃん、自分がフェンリルだって証明できる?」

「うむ。我はフェンリルである」



 フンスと鼻をならし、ドヤ顔をする。


 いや、ただ名乗っただけじゃん。


 もっとこう、あるだろ──と思ったけど、この世界でも喋る動物は珍しいらしく、アーノルドさんたちは一発で信じてくれた。


 何気にいい方法だったのかもしれない。


 やるな。コーちゃん。


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