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キャンバス~色なき世界のアービトレーター≪仲裁人≫~  作者: ぶーたん
第5章 産業革命編

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第93話 三強の家臣たち

本日も平和な『ディスカラー』。昼下がりの店内には、気だるい空気が流れていた。カウンター席では、店主であるクロがジョッキを片手に、のんびりと琥珀色の液体を喉に流し込んでいる。

シンが心配そうに話しかけた。


「アニキ、いいんですか。昼間から飲んで。ロウじいに怒られますよ」

「いいんだよ客がいない時ぐらい飲んだっていいだろ」

「客がいても、飲んでますよね。……あっ、受信機から依頼書来ました」


カウンターの端にある魔導受信機がガタガタと震え、一枚の紙を吐き出す。シンは内容に目を通すと、驚いてクロに伝える。


「アニキ。黒の国からメッセージが来ました」

「なんだ? ロックからか」


クロは紙を受け取ると内容を見る。そこには乱暴な字が並んでいた。


『ロックだ。お前が試験官になったと聞いた。俺の家臣をAランクに上げろ。今日中に来い。これは命令だ』


「どうするんですか、アニキ。黒の王って言ったら恐怖の王ですよね。カラーズ最強の、しかも三強の一人ですよ!」

シンは興奮して話している内容が意味わからなくなっていた。


「落ち着け。黒の王って言っても、店になんかするわけじゃねえし、ほっとけばいいだろ」

「いやいや。まずいすよ。今日中にって書いてますよ」

「どうするかな。めんどくせえな。店番どうするかな。……カゲ、いるか?」


クロの影から、唐突にカゲが現れる。

「主。お呼びでしょうか?」

「店番、頼めるか?」

「はい。問題ありません」


「じゃあ、シンいくか」

「俺も行くんすか!?」

「見るのも勉強だろ。Aランクになる奴が見れるかもしれねえんだ」


クロはシンを連れて『黒の国』に向かった。黒い漆喰壁と重厚な石垣に囲まれたその国を見て、シンは驚いた。

「なんか他の国とは雰囲気が違いますね。変な格好の人もいますし」


シンの視線の先には、スキンヘッドに革ジャン、肩パットという異様な集団が歩いていた。

「あのスキンヘッドは受刑者だ。着物着ているのが国民と防衛隊だな。ここは他の国とは格好が違うんだ。実力主義だからな。この国は独特の文化が残っているんだよ」


クロが解説していると、突然、背後から腹巻が伸びてきてクロの腹部を捕らえた。

「アニキ!!!」

シンは剣を構えるが、クロは呆れていた。


「なんだよ、ハラマキかよ」

「久しぶりやないかい。ワイの情報が聞きたいんやろ?」

「いや別にねえけど」

「ええねん。ええねん。そんなに遠慮すな。Aランク昇級試験に関して聞きたいんやろ」


「もう話せよ」

「今回は家臣モンキー様、槍の使いワンコ様、弓の名手ササ様、司令塔ミッツ様の4人が参加されるんや。能力もおまけしとくか。まずはモンキー様や。獣化能力者や。サルってあだ名だが、見た目はゴリラや。一発貰ったらあんさんでも肉塊やで。次はワンコ様や。槍の扱いに長けて、槍先を強化系で威力を上げて攻撃するのが特徴や。3人目がササ様や。小柄な美男子なんやけど、弓の精度が抜群。能力は矢と矢を結んだ空間内の魔力を無くす。珍しい空間能力者や。最後は紅一点のチヨ様や。この人がおると厄介やで。味方の能力を向上させる念視系能力者や。この4人が黒の国を支える最強の家臣なんや。どうや、すごいやろ」


シンが質問する。

「その最強の家臣は、なぜ今までAランクにならなかったんですか?」

「ええ質問や兄ちゃん。実力はわかりきっていたからロック様も無理にやらんでいたんよ。でも、クロのあんちゃんが試験官になったって聞いたもんやから、『見る目があるか試したる』ちゅうわけや。じゃあ、今回は金貨3枚でええわ」


「え? 金取るんですか!?」

驚愕するシンを、クロが黙らせる。

「シン、もう余計なこと喋るな。金が余計にかかる。ほら金貨3枚な。渡したから離せ」

「ほな、気いつけてな!」


ハラマキから解放され、急いでその場を後にする。

「黒の国にはあいつがいるから気を付けろ。何か話せばその分喋って金取るからな」

「アニキも色々大変なんすね。でもいい情報が聞けたじゃないですか」

「バカ。俺は見れば相手の能力がわかるんだよ。ただの無駄金だ」

「アニキってそんな能力持ってたんすね。俺アニキの能力ローブを操ることだと思ってました」

「ローブは能力じゃねえよ。俺は獣化。お前に見せてもしょうがねえだろ。相手になんねえのに」


城の前の広場では、男達が竹を使って巨大な檻のような会場を作っていた。そこにはただならぬ気配を放つ黒の王、ロックがいた。

「よう。殿様、来てやったぞ」

「アニキ、そんな態度取ったら……」


ロックは振り向くとクロに殺気を向けて睨みつける。その視線だけで空気が凍りつく。

「遅いぞ」

「すぐ来たろ。文句言うな」


クロはロックの隣に行き、ルールを説明する。

「まともなルールなんだろうな。もし不合格ならお前を殺す」

「うるせえ。4対1の対決でチームとしての実力を見せてもらう。俺が合格といえば合格だ」


会場の準備が終わり、クロと4人は檻の中に入る。

「アニキ大丈夫なんですか、4人相手なんて」

「まあ、大丈夫だろ。向こうの本気見ないとさすがに合格は出せねえしな」


ロックが始まりの合図を出す。「はじめ!」


クロは姿勢を低くする。「部分獣化エンジンギア・アクセル

手足が黒色の獣になっていく。


「エンチャント・スピード」

チヨが扇子を振ると、4人の頭上に青色の足のアイコンが点灯した。

ワンコの槍が、異常な速さでクロを突く。クロも最小限の動きでさばくが、槍の先端が手をかすめた衝撃で体が浮かされる。

「アニキ! 直撃してないのにあんな簡単に浮き上がるなんて!」


浮いた隙にモンキーが飛び越えてくる。「ヴォルク!」

全身が毛に覆われ、腕がゴリラのように膨れ上がったモンキーが、赤色の拳アイコンを灯して地面に拳を叩きつけた。砂埃が檻を包む。


砂埃が晴れると、クロは楽しそうにしていた。

「いいね。ローブで守ってなけりゃ。両腕折れてたな。完全獣化エンジンギア・フルスロットル

全身が黒い獣に変わる。シンが息を呑む。「あれがアニキの本気の姿。すごい圧だ」


電撃を纏ったクロが、一気にチヨに詰め寄る。

「司令塔が終わったら終わりだろ」

だがチヨはそれを紙一重でかわし、受け流す。

「私は狙われやすい立場だからこそ近距離戦闘は訓練している!」


「ならこれならどうだ。ガイヤ・シュート」

魔力の衝撃がチヨを打ち抜くが、硬化した彼女は表情をわずかに変えただけだった。

その隙をついてササの矢が襲う。いつの間にか戻っていたモンキーに掴まれ、クロは元の位置まで戻された。


「せっかく追い詰めたと思ったのに元に戻っちまった」

シンの悔しそうな声が響く。クロは満足げに笑った。「もっとやれるだろ」


チヨが指示を飛ばす。「速度で勝負。ササ、空間を作れ」

ササが上空に放った弓矢が雨のように降り注ぐ。クロはローブで防ぐが、足元には矢が刺さっている。


「今だ。ササ!」

チヨの合図でさらに矢が放たれた瞬間、空中の矢と地面の矢が繋がり、空間内の魔力が消失した。クロの獣化が解け、人間の姿に戻る。

この「無魔空間」は、矢が空から地面へ落ちるまでのわずかな間しか維持できない。だが、魔力を失ったクロにとって、その数秒は永遠にも感じられた。


「連携が完璧すぎる……。何もできないじゃないか……!」

シンが驚愕する中、無魔空間にワンコが踏み込む。槍の突きをさばくクロだったが、空間の端からモンキーが魔力を乗せた一撃を叩き込んだ。


衝撃でクロの腕が鈍い音を立てて折れる。逃げ場のない檻の中、ササが至近距離でトドメの弓を引き絞った。

「(……流石にこれは死ぬか?)」

クロの脳裏に一瞬の死線がよぎる。しかし、矢が放たれる直前、クロが片手を上げた。


「合格だ」


その声が響くと同時に、放たれる寸前だった矢が止まり、4人は戦闘を解いた。

「アニキ!!」

シンが檻に駆け寄る。「腕が……その腕、折れてるじゃないっすか!」

「うるせえ。動かすな、響くだろ。……それより、あいつらの評価が先だ」


クロは上がらない腕を吊りながら、ロックの元へ歩み寄る家臣たちへ言葉を投げた。

「個人としての能力、チームとしての動き、問題ねえ。ただ、攻撃がワンパターンになりがちだ。今回みたいに仕留めきれなかった時のことを考えろ。まあ、そんなもんか」


ロックは跪く四人を一瞥し、重々しく、しかし確かな信頼を込めて口を開いた。

「見事であった。貴様らの忠義、そして積み上げてきた武勲に偽りなし。今日この時より、貴様らを正式にAランク冒険者と認めよう。……よくやった。今宵は英気を養え。明日からは我が矛、我が盾として、さらなる高みでこの国を支えよ」


「「「「はッ。ありがたきお言葉!!」」」」


家臣たちが去る中、クロは不敵な笑みを浮かべてロックに近づく。

「いや~。黒の国の冒険者は強い。全然勝てる気がしなかったぜ。……じゃあ、この国で一番強い王はもっと強いんだろうな。ロック。俺と勝負しろ」


瞬間、ロックから立ち昇った黒いオーラが広場を飲み込んだ。

「アニキ、何言ってんすか! 相手は三強ですよ!」

シンの肺が押し潰されるような重圧に襲われる。周囲の人間は逃げることすら忘れ、生物的な本能が「死」を確信して震えていた。


「関係ねえだろ。三強なんて実際戦って付いた称号でもねえ。ただのお飾りよ」


「今日はお前、死にたいようだな。まさか今日とはな」


二人の強者が放つ殺気がぶつかり合い、広場は絶望的な沈黙に包まれた。

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