第82話 英雄の逆鱗
第82話 英雄の逆鱗
クロとアレスはボロボロになり、立ち上がっていた。
エニグマは右腕がボロボロの状態で地上に一瞬で瞬間移動した。
壊れた腕は一瞬で元に戻った。
それと同時に上半身の筋肉が肥大化した。
「ワレ最強なりグハハハ」
魔力が空気を振るわせて、地面を揺らす。
「まだだ。僕たちは負けない。そうだろ。クロ」アレスはクロの方を見た。
「当たり前だ。あんなチキンレッグピエロに負けるかよ。お前は一撃でいい。時間は稼ぐ」
エニグマはクロの前に瞬間移動すると、残像を残し上空に打ち上げた。
空中で何度も全力で殴られていた。
エニグマは腕が破壊と再生を繰り返していた。
「この感覚は癖になるな」
エニグマは拳を上空に突き上げると、クロを完全に捕らえた。
凄まじい衝撃で上空の雲が真っ二つに割れていった。
ヤバイ。意識が飛びそうだ。
エニグマが地上でクロの落下を待って、クロを遥か遠くの国の外まで吹き飛ばした。
感覚が完全に無くなったな。どうにかしねえと...。
吹き飛ばされたクロは力なく転がっていた。
...早く立たねえと。
「クロ!」
見るとダミアとテツオがいた。
「よう。ちょうどよかった。今から全力出すからよ。俺と王以外の奴らを、国の外に避難させてくれ」
「どこにいるかわからないのにどうすればいいの」ダミアは涙目で不安そうに見つめた。
「話術野郎が持ってた地図があるだろ。あれなら全員の位置を探れる筈だ」
「でも、私なんかじゃ...」
クロは黙って、首元からネックレスを出して見せた。
ダミアは表情が変わった。自分のネックレスを握ると、テツオと話術師の死体を漁り地図を探し始めた。
クロは屈伸を2回すると、気合を入れた。
(助走距離は十分ある。全力で突っ込んでぶん殴ってやる。)
獣の体勢から両足の裏に氷の厚い板が、地面から出る。クロが体勢を少し後ろにすると太ももから足先にかけて雷を纏わせ、構える。
「ちょっと行ってくるわ」
雷が落ちたような音がしたと思った頃には、エニグマの前に飛び込んでいた。
「ガイア・ストレート!」
エニグマは凄まじい勢いで一瞬で吹き飛ばされた。
「オニの分だ。いいの決まったな」
「マスター。大丈夫」
ヒメがクロを見かけて、駆け寄った。
「問題ねえ。それよりあっちの方を頼む」
クロはアレスの方を指さした。
「わかった」
ヒメはアレスの方へ向かって行った。
瓦礫からエニグマが出てきた。
首は不自然に捻じれて、両手で戻していた。
「ワレを殴るとは生意気な」
「そうか。良い殴り心地だったな。王なんか辞めてサンドバッグでもやってろよ」
「お前は生かしておけないな。危ない存在だ」
「これで終わりにする『神化・限界突破!』」クロの魔力が爆発したような風圧を出した。
周囲は熱気に包まれ、だが地面からは氷の結晶が突き出し、雷雲が上空を漂う。
そこに立つクロは、黒い魔力を纏っており、その後ろには揺らめく黒い炎の光背があった。
「ワレに引かぬか」
「当たり前だろ。再生能力は無敵じゃねえ。魔力尽きたら終わりだ。ここからは我慢比べだ」
2人は拳と拳をぶつけ合う。そのたび、衝撃が国を揺らす。
だが、エニグマは瞬間移動をして、執拗に死角から殴って来た。
「逃げやがって。真っ向勝負も出来ねえのか」
「ワレはこの世を統べる存在。卑怯も何もないわ。勝ったものが正義だ」
クロは負けじと、速度でエニグマの懐に潜り込もうとしていたが、瞬間移動でヒット&アウェーで圧倒していた。
余りのダメージにクロの足が止まった。
...打たれ過ぎたか。まだ...立ってないと。
「いい加減倒れろ」
エニグマは頭上に瞬間移動すると、拳が振り下ろされた。
クロは頭から血を噴き出して、膝をついた。
「...まだだ」
「フィナーレだ」
エニグマの拳が触れると同時に、
2人は4畳ほどの大きさの氷で覆われた部屋で、足に氷の枷を付けて、閉じ込めた。
「捕まえたぞ。王様。グリッドマッチだ」
「こざかしい真似を」
「こうでもしねえと、瞬間移動で逃げちまうだろ。弱点はわかってたんだ。呼吸を止めてる間移動できる能力。面倒な能力持ちやがって。だけど、物体はすり抜けられない。それが弱点だ。」
「では、魔力が尽きた方が負けのデスマッチショーの始まりだ」
お互い容赦のない全力の攻撃がぶつけ合う。
ガードなんて生ぬるい。魔力が無くならないと死なない存在同士。
細胞全てを破壊する。
エニグマの凄まじいパンチのラッシュが襲う。
負けじと打ち合いに応じる。
無限にも感じる時間の中、拳と血しぶきが宙を舞う。
クロの氷の部屋が解除された。
「ついに力尽きたか」
エニグマは勝ち誇った。
だが、違和感があった。
感じていたはずの人間の気配が国内からなくなっていた。
アレスが1人だけ立って、太陽のように巨大な光の剣を持っていた。
「黄の国の王、あなたは罪を犯した。その罪を断罪する。ビックバン!」
アレスが巨大な剣を振り下ろすと、黄の国全体を巻き込んで、光が包み込み。
光に無数の斬撃がクロとエニグマを引き裂く。
クロはエニグマを凍らせて、逃げられなくした。
「これを待ってた。最後の魔力勝負と行こうぜ。エニグマ」
「...ちくしょう。こんな所でワレは死ねぬ」
「もう終わりだよ。魔力を無理に使いすぎたな」
「...こんな所で、ワレは王...。なぜだこんなガキに...」
アレスの一撃が終わると黄の国は後からもなく、完全に更地になっていた。
とても国があったとは思えない。景色に変わっていた。
エニグマが消えゆくのを見届けると、クロは力が抜けて、空を見上げてそのまま倒れた。
「クロ、大丈夫か」 アレスが心配そうに駆け寄ってきた。
クロは無言で拳を突き出す。アレスもそれに自分の拳を合わせ、二人の拳が軽く触れ合った。
クロはアレスの肩を借りて、ダミアによって国外へ避難していたみんなの元へ歩いて行った。みんなは、ボロボロになった二人を喜びながら迎える。
しかし、まだやるべきことが山積していた。転移させた国民の治療と、今後のことだ。国は完全に失われた。新しい移住先を確保しなければならない。
「ウィッチ、早く戻るぞ」
「任せるのだ。今、準備するのだ」
ウィッチは転移魔術の刻印を描き出した。クロたちは紋章の上に乗り、アレスたちは悲しそうに二人を見ていた。
「何見てんだよ。早く来いよ。家ねえだろ。避難させた国民の手伝いも手伝えよ」
アレスたちもクロの酒場へと転移した。数年ぶりに、かつての仲間たちが揃った。
それから一年後……。
クロはのんびりと、オニとブラッドの墓の前で酒を飲んでいた。
「今日は久しぶりに暇な日になったよ。ったく、あれから一年か……。意外と早いもんだな」
アレスたちと、避難させた国民の治療や食事の提供に追われた日々だった。
混乱する国民もいたが、アレスが黄の国のAランク冒険者であることを知っていたため、この事態を受け入れてくれたようだ。
事件の翌日、カラーズの王たちが集まる場所に、クロとアレスが呼ばれた。
事件の詳細を説明させられ、この時、アレスはカラーズの王たちからSランク冒険者として認められ、正式に英雄となった。念願の夢を叶えたアレスだったが、まず黄の国の国民の受け入れ先を各国は快く受け入れを約束してくれた。
STFもなくなったため、白の国に子供たちの能力向上を目的とした施設が設立され、所長はダミアが務めることになった。彼女はテツオとダンガンと張り切って頑張っているらしい。アレスは時折顔を出すが、世直しのために旅に出て、ほとんど帰ってこない。
一ヶ月も経つと、黄の国の国民は避難所から新しい住居へと移っていった。
グレーゾーンも魔獣の被害を受け、黄の国以上の被害が出たという。この件に焦った魔法都市が、転移魔術で勇者を召喚したと聞いた。その勇者によって、世界のインフラは大きく変わったという噂を酒場で耳にした。
考えてみれば、最初のひと月は忙しかったが、そこからは酒場の本格的な再開で皆張り切っていたな。俺はというと、食料確保でずっと外にいたけど……。
黄の国の跡地は、アレスが建築魔術の刻印を壊した影響で、更地から魔力の影響を受けたダンジョンが誕生した。グレーゾーンが管理し、冒険者見習いが挑戦するのにちょうどいい難易度らしく、今では人気スポットになっているとか。
話せることは、こんなところか。ああ、まだあった。この事件は『英雄の逆鱗』と呼ばれ、アレスが一人で解決したことになった。俺たちもその方が都合がいい。酒場を再開できればそれで十分だし、面倒事にはしばらく巻き込まれたくない。
「じゃあ、そろそろ店に戻るか。また、なんかあったら聞いてくれよ」
クロは店の中に戻った。
「主、戻られましたか」
「なんじゃ。小僧。昼間から酒を飲みおって」
「ずるいのだ。私も飲みたいのだ」
「マスター。今日も新しいメニュー考えたの。一緒に食べよ」
「はい、はい。今日のは期待していいんだな」
ディスカラーでは色褪せない日常が始まっていった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
本作品一旦ここで終了したいと思います。
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