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キャンバス~色なき世界のアービトレーター≪仲裁人≫~  作者: ぶーたん
第4章 暗き太陽編

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第75話 老兵の戦い

森の中、ロウと天道クロックは動かず、見つめ合っていた。クロックは一寸の乱れもない居合の構えを取り、獲物が来るのを待っている。


ロウはわかってはいたが、この侍は底知れず強い。真っ向から突っ込んでいくクロとは相性が悪いと考えて、代わりに名乗り出たが、微塵の隙がまったくない。これほどまで研ぎ澄まされた冷たいオーラは見たことがなかった。


「見合うだけとは、つまらん」

先に動いたのはクロックだ。居合の姿勢から視界から消える一瞬の加速で距離を詰めて切りこんで来た。


ロウは間一髪で体勢を変えて、避けたが、反撃の隙がない。避けたが、すぐに次の居合切りが飛んでくる。先ほどよりさらに素早く切りつけてくる。

(これが奴の能力か。居合するたびに速度が指数関数的に上がる。さすがに速すぎる。触れることが出来ん)


「せっかく苦しみを少なく、あの世に送ってやろうというのに、なぜ拒む。若者よ」クロックからは若者と意外な言葉が出た。


見た目はクロックの方が若い。見た目は20代だ。


「どういう意味じゃ。お前さんの方が若く見えるが...。まさか不老なのか?」ロウは時間稼ぎで話をした。


「その通り。拙者は不老の身。300年程は生きている。そう長い時間生きてきた。」


クロックは語る。蒼龍という国に生まれ、魔獣騒動の裏で攫われ、不老の術を掛けられた。だが、表の空気を吸う頃には魔獣騒動は終わり、時代が変わっていた。そのため魔獣を討伐し、各地で腕試しをしていた。それでも死への実感がわかず、人切りになった。そこに黄の国の王が現れ、勧誘された。


「拙者を殺せるのは王と仕留め損ねたミラードラゴンのみ。その老体では拙者は倒せぬ。」


「待て。ミラードラゴンは50年に出たミラードラゴンのことか?」


「確か40~50年前だったが、それがどうした。強いと聞いて挑んだが、殺すまではいかず、逃げていった。その後は死んだのであろう」


「そうか。お前が、ばあさんを傷つけた本人か。道理で体が疼くわけじゃ。」


「なるほど。お主、魔獣を取り込める能力だったな。これもまた運命、ここで決着をつけようぞ。」


クロックは刀を抜くとロウに向けた。


「我が名は六道、天上のクロック。愛刀はザ・クロック。お主を時の流れから切り捨てる刀の名だ。」


ロウは手を前に構えた。


「わしの名はロウ。今は酒場でキッチンをしている。この拳でその人生を断ち切る。」


クロックは刀を鞘に納めると、爆発的な速さで間合いを詰めて、抜刀した。

ロウは手で刀に触れようとしたが、刀は風の刃となり頬を掠めた。


クロックはすぐさま刀を納めると、再び居合切りをする。先ほどより音速を超えたかのような素早さで居合をしてきた。

ロウは切られる覚悟で身体を強引に前へ押し出し、拳を振るった。


「魔弾」

ロウはクロの技を使うが、クロックはギリギリで避けた。


「やはり、小僧の真似事じゃ、うまくいかんか」


「こちらも苦しまずに殺生しよう。ザ・クロック。力を発揮しろ」


クロックはその場で居合切りをすると、ロウの腹から一瞬遅れて鮮血が噴き出た。


「なんじゃ...。何が起こった?」


ロウはわけがわからず、その場で倒れこむ。大量の血だまりが地面に広がっていく。


「やはり拙者を満足させられるのは王のみ。さらばだ、弱き者よ」


クロックは寂し気に去っていく。


「待つんじゃな」


ロウは腹部を押さえつけながら立ち上がっていた。


「なぜ立ち上がる。もうじき楽になるというのに...」


「小僧と約束したからのう。そう簡単には死ねんのじゃ。店の仕込みも残っておるしのぅ」


「くだらん。楽に死ねるというのに、苦しんで地獄に行くがいい」


クロックは居合の構えを取り、全身から殺気の津波をむき出しにしていた。


「わしに力を貸してくれ。『神化(しんか)』」


ロウの体を眩い銀色の光が包み込みこんだ。その光の中で、一際輝いているミラードラゴンを背にロウは立っていた。


「なんだ、その姿。ミラードラゴンと1つになったのか。だが、拙者の刀は過去を切る。姿が変わる前を切れば、問題がない」


クロックはロウがいた過去の場所に向かって居合切りをした。

刀は硬質な音を立てて跳ね返り、刃は無残に砕けた。


「なぜ過去が切れない」


「これがわしとミラードラゴンの本当の姿じゃ。過去も全てを跳ね返す反射の力じゃ」


ロウは銀色の光を纏った拳をクロックの腹部に当てる。


「魔撃!」


ロウの放った魔撃はクロックの体を貫通し、その場に力尽きて倒れた。


「拙者が負けるなんて...」


「お前さんは十分強かったわい。じゃがな、わしらは1人で戦っておらん。そこの違いじゃ」


ロウは城に向かおうと歩くが、数歩で途中で倒れこむ。


「腹の傷塞がるまで少しばかり動けんか。まあ、小僧ならなんとかするじゃろ」


ロウはそのまま目を閉じた。そのそばには、銀色の鱗を輝かせるミラードラゴンがロウを守るように寄り添っていた。

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