第74話 鉄の意志
黄の国の中は魔獣で溢れかえり、無数の爪や牙が国民を襲っていた。親からはぐれた子供はただ恐怖に泣き叫び、恋人が建物の下敷きになって、ただ見ることしかできない者、どこに逃げればいいのかわからず、ただ神に祈りをしている老人。
クロ達は急いで国に向かおうとする。
「アレス。お前を王の所まで連れていく。英雄になるんだろ」クロがアレスに問う。
「当たり前だ。僕は英雄になるんだ。」アレスに迷いはなかった。
カゲは獣の姿になるとクロ、アレス、ダンガンを乗せると城に向かって地面を蹴りながら走っていく。ウィッチもヒメを杖に乗せると上空から黄の国に向かっていく。
ロウは天道クロックに対して、森の方を指差して、歩みを進めていく。
スピードは残ったダミアとテツオを見て、全身をゾッとさせるような薄ら笑いを浮かべていた。
「こんな雑魚が私の相手をするのですか?たしか植物と鉄の能力者...。それで?何ができるのですか?」
「ダミア。挑発に乗るな。わざと苛立たせてるだけだ。」
「わかってる。でも、STFのみんながこんなになってるのに、冷静になれるわけがない。」
長年面倒を見てくれた人たちが殺されて冷静になれるわけもない。将来ある子ども達も殺されている。どうして冷静になれようか。怒りで理性を失いそうだ。
「ダミア。俺が先陣を切る。あいつの所まで飛ばしてくれ。一発、奴の顔面をぶん殴って来る。」
ダミアはテツオも内心怒りが抑えられないのを知り、少し冷静になった。地面に手を当てると、強靭なツル植物がテツオをスピードの所まで弾丸のように発射する。
空中でテツオは全身を一瞬で鋼鉄にすると、スピードは避けようともせずにいた。
「沈め!」スピードがテツオに向かって、言い放つ。
テツオは凄まじい衝撃と共にその場で地面にクレーターを作りながらめり込み、動けなくなった。
「何故こうも争うのでしょうか?憎いから殺す...その先に何があるというのでしょう?力なきものがかわいそうに...」スピードは憐れむように明らかに挑発していた。
スピードは足元の生首をテツオに向かって投げつけ、「爆ぜろと」言うと、テツオの体の上で肉片が飛び散る爆発が起こった。
「なんと滑稽な姿、弱いのに戦うから、こうなるんです」
テツオの周囲には飛び散った肉片と血痕が散らばっていた。自分をここまで育ててくれた人達、仲良くしていた子供の無残な姿を見て、心が折れかけた。
「立って!!! テツオ。あなたの心は...。」ダミアは勇気づけようとしたが、絶望的な状況に言葉が出なかった。
「ダミア。わかっている。俺の心は鉄で出来ている。こんな所で終われるか」テツオは自分に言い聞かせ、力いっぱい立ち上がった。
「簡単には折れないってことですか?悲しい。こんな争いは無意味だというのに...」スピードは心底つまらなそうに呆れた表情で語った。
「言いたければ言えばいい。この口だけ野郎。今にその口開けなくしてやる」テツオは完全に怒りの熱に頭にきていた。
無策に飛び込んでいくテツオ、待っていたとばかりに、スピードはテツオに「捻じれろ」と愉悦の笑みを浮かべながら言う。
テツオの体は腕、足、胴体、首と抵抗する間もなく至る所が捻じれていく。
「ああああああああ!」骨が砕けるような悲痛な叫びが木霊する。
「ヤめてーッ...」
ダミアは植物をスピードに向かって放つが寸前で簡単に避けられてしまった。
テツオはなんとか体を硬く保とうするが、それも長く続かなかった。体は無情にも不自然な形にあちこち捻じれてしまった。
「そ、そんな...テツオ...いや、いやあああああ!」
テツオのあまりにもショッキングな姿に、ダミアは膝から崩れ落ちた
「実に滑稽な姿。争いがなければ、こんなことにはならなかったのに...」
「...本当にそうだな」捻じれた喉からテツオがしゃべった。
「何?」
「えっ、テ...テツオ、無事なの...?」
「あぁ...なんとかね。鉄は硬いが、柔らかく、伸びもする。やっと出来るようになった。」
テツオは肉を軋ませながら体を元の形に戻す。
「クソ。能力の覚醒か?」
「これでお前を殴れる」テツオは拳を極限まで硬く握った。
テツオは遠い距離から腕を振り抜くと、腕はゴムのように伸び、スピードに向かって飛んで行く。
「曲がれ」
スピードの近くでテツオの拳は軌道を変えて、わずかに外れてしまう。
「まだだ」
追撃の腕をスピードに向かって振り抜くと、凄まじいGと共に直撃して吹き飛ばされる。
スピードは右腕を血を滲ませながら抑えながら、立ち上がる。だが、肉体が悲鳴を上げるほどかなり効いている。
「このクソガキ共が」
スピードは胸元からナイフを高速でダミアに投げる。
ダミアは植物で分厚い檻を使って、自分を守るが、スピードの「爆発しろ」でナイフが破裂し、吹き飛ばされる。
「ダミア!!!」
テツオは駆け寄ろうとするが、ダミアは痛みに耐えながら手で止まるように指示をする。
「大丈夫。テツオはそのままあいつをぶっ飛ばして、あいつの弱点わかったから」
「わかった」
「ガキが知ったような口を...。わかったところでどうする」
ダミアは地面に手を当てて、残りの魔力を全て注ぎこむ。
「テツオ、今よッ!」ダミアが合図をするとテツオは鋼の弾丸となってスピードに向かって突っ込んでいく。
「無駄なことを。無策で私に勝てると...。舐めるなよ」
「ピアンタ・コルダ」ダミアの植物はスピードの足元から電光石火で出て、体を拘束し、さらに強固なツタで口も塞ぐ。
「これで思いっきり殴れる。ビック・アイアン・フィスト」テツオの拳は巨大な鉄塊と化し、スピードを容赦なく叩き潰す。
「やった~」ダミアは力を使い果たし力なく倒れる。
テツオもダミアに駆け寄るが、激戦の成果そのまま隣に倒れこんでしまった。




