第73話 漆黒の太陽
アレスのクロへの攻撃は止まることなく、ますます鋭利に、洗練されたものになっていった。
ダミア・ダンガン・テツオは複雑な表情でただ見ることしかできないでいた。
「私、アレスのあんな本気の殺気で戦っている所見るのは初めて。一緒にいたのに、こんなに差が開いているなんて...」ダミアは自分の実力に落胆していた。
「わかる。これだけの実力を見せられたら、体が金縛りになったみたいで、止めに入れない」ダンガンもダミアに同調し、止めに入れない自分を責めた。
「アレスが心配になるよ。あんな速い攻撃ずっと続けていたら、体が先に音を上げるよ」テツオはアレスの無理な動きに心配していた。
一緒にいたはずなのに、差が大きく開き、止めに入ることも出来ずに、ただ見つめるだけ。3人には昔の思い出したくない過去をどうしても連想してしまう。そう、恩師ブラッドが赤の王と戦った時だ。あの時と同じで見るだけしかできない。もどかしい。情けない。変われない。ネガティブな感情がさらに体を拘束する。
クロも避けるのに限界が来ていた。防ごうにも速く、一度動きを止められたら、そのまま深々と切り込まれてしまう。完全獣化をしたいが、アレスの連撃が一瞬の隙すら与えてくれない。
(アレスの奴、いつの間にこんなにスタミナを付けたんだ...。もう昔のあいつではないんだな)
クロとアレスは昔の特訓をしていた頃を思い出していた。アレスは負けてばかり、クロにダメ出しされ、それでも負けじと食らいつく。もうあの頃とはもう違っていた。
クロは足が雨で滑り、体勢が完全に崩れ、後ろに倒れてしまう。アレスはこの隙を獲物を捕らえるように見逃さずに間合いを詰め、鋭く交差する2本の剣がクロの首目掛けて、風を切り裂きながら迫った。
大雨が急に止み、漆黒の雲の隙間から、太陽の光線が2人を照らす。
クロを切ったと誰もが思ったが、アレスの剣はクロの首元で紙一重のところで止まっていた。
「少しは英雄に近づいたんじゃねえか」クロはアレスに優しく声をかける。
「悪役やらせておいてよく言うよ」アレスは剣をしまい、クロに手を差し出した。
クロは起き上がると、黄の国の門の方を見た。
「真の悪役の登場か。」クロが言うと、皆が一斉に門の方を見た。
2人が歩いてくるのが見えた。
1人は地図を見ながらニヤニヤしながら歩いてくる六道のスピードだ。右手には地図を持ち、左手には引きずられた血塗られた大きな袋を引きずりながら、歩いて来る。
もう1人は見たことがないが、腰に刀を差した侍だ。
「やはり失敗でしたか。クロック」スピードは呆れながら隣の侍に声をかけた。
「拙者はもとよりあんな幼い者ども信用しておらん。今日ぐらいは拙者に任せてくれればいいものの」クロックは不満そうだ。
アレスは向かってくる2人に一歩前に出て声を張り上げた。
「僕はアレス。Aランク冒険者。あなたたちは何者ですか?」
「私は、六道の修羅道担当『話術師』のスピードです。隣にいるのは天道担当のクロックです。これでよろしいでしょうか?」スピードは落ち着いて返した。
「僕とクロを戦わせようとしたのもあなたたちですか?」アレスは怒りを滲ませ、興奮気味だ。
「いえいえ、そちらが勝手に争っただけの話。なぜ戦っていたのですか?」スピードはニヤニヤしながら挑発するように話してくる。
「こういう奴だ。相手にするな」クロが間に入る。
一触即発の空気が壊れてしまい、スピードはがっかりとしていた。だが、黄の国を差しながら、狂気を孕んだ声で語りだす。
「刮目せよ。これより太陽が闇に覆われ、真の王エニグマ・ドーン様がこの世を支配する。これより選別の時だ」
スピードが語り終えると、黄の国からおぞましいほど大量の飛行型の魔獣が太陽に向かい、黄の国周辺は漆黒の闇に包まれた。
「どうですか?これが王の力。黄の国の国民を全員殺した暁には、魔術で異界の魔獣を呼び出し、世界を血の海に染めるのです。このままお前たちを始末すれば、邪魔なのはカラーズの王のみ。」
全員がスピードを射殺さんばかりに睨みつける。太陽を覆っていた魔獣は、猛烈な勢いでグレーゾーンに落ちていく。
「みなさん。そんなに見つめられても何もないですよ。ああ、でも、これアレス君達にプレゼントです。」
スピードは左手の袋から勢いよく物を落とした。
それを見て全員が絶句し、硬直した。
STFにいる全員の、変わり果てた生首が地面に転がっていた。
「集めるのは大変でしたが、この地図があれば居場所はすぐにわかります。子供は面倒でした。最後まで抵抗するので、少し雑になってしまいました。どうですか?いいプレゼントでしょう?」
「この外道が!!!」アレスが理性を吹き飛ばされ、怒りに任せて突っ込んでいこうとしたが、ダミアが必死に止めに入る。
「待って。あなたはここで立ち止まってはダメ。王を止めて。ここは私たちで何とかする」
「俺が道を作る。あとは任せた」ダンガンがアレスの前に出る。
クロは黙って一歩、また一歩と前に進んでいた。
「待て小僧。お前さん。目の前の相手を片っ端から倒していくつもりか?こうゆうのは年寄りに任せて、先にいかんか。大将じゃろ」ロウがクロを止めに入った。
「わかった。死ぬなよ。じじい。あの侍かなり強い。カゲ、ダンガンと一緒になって、黄の国の魔獣を減らしてくれ。ウィッチはヒメと一緒に黄の国の住民を避難させてくれ。やれるか?」クロは仲間に問うた。
「まだまだ死ねんわ。胸を張って行って来い小僧」
「主もご無事で」
「時間は掛かるが、全員安全な場所に転移するのだ」
「私もウィッチのサポートならするから」
全員の表情が死を恐れない、鋼の決意に変わった。
城の中ではピエロが巨大な大玉に乗りながら狂ったように踊っていた。
「キャハハ。ここまで来ても無駄。無意味。アハハハ」ピエロの笑い声が城内に不気味に木霊する。




