第64話 蛇姫
クロは酒場から出て、黒の国を後にしようとしていた。
中央貿易都市から来て、ここで情報も無くなった。いまだ明確な情報もない。無駄足だったかな。
クロは歩いていると後ろから一人の男が声をかけてきた。
「あんさん。ちょっと寄ってってや」
クロは振り返ると腹巻をした男が立っていた。何だこの変なやつは・・・。無視していくか。
クロは再び歩き出した。
腹巻をした男はクロの前に急いで回り込むと、道を塞ぐ。
「わいはハラマキや。万屋やっとるんやけど。あんさん。今回はお得に依頼受けたるわ」
「腹巻屋?あいにく腹巻いらないんで」クロはそのまま通り抜けていく。
「待てや!!!」
ハラマキの腹巻が伸びて、クロを掴んで、耳元で話し出す。「腹巻屋やない!!!ハラマキや!!!なあ、情報も売っとるで~。今なら金貨1枚で何でも教えたる」
なんなんだ。この強引な勧誘は。金貨1枚は高いだろ。まあ、一応聞いてみるか。
「ジョンドゥって俺の手配書作った奴を探しているんだけど、何か情報あるか?」
「アホちゃうか。ワイがそんなもん知るわけないやろ。はい。話聞いたから金貨1枚や」ハラマキは笑顔で金を出せと言わんばかりに右手を差し出した。
このぼったくりはなんだ。情報ないのに金取るのかよ。さっさと逃げよう。
クロは腹巻から素早く抜けると、走って逃げた。
「逃がさへんぞ!!!」
腹巻が素早く伸びてクロを再び拘束した。「離せよ。大した情報ねえなら、金は出さねえよ」
「ったく。しゃあないの~。ワイのとっておきの情報を教えたる。ここから近くに森があるんやが。それが緑の国なんや。普段は迷って着くこともできないんやが、ここ最近入れるって話になったんや。それできれいなエルフ姉ちゃんを一目見んと、色んな連中が集まってるって話や。そん中でも緑の国の王キチョウ・ミストはエライべっぴんさんらしいんや。緑の王は別名蛇姫。ごっつええ蛇使いちゅう話や。どうや、ええ情報やろ」
クロは黙って金貨2枚をハラマキに渡した。「少しは暇つぶしになりそうな話だ。行ってみるよ」クロは緑の国に向かって行くことにした。
「ほな。また寄ってってな~」ハラマキは手を振り、クロを見送る。
クロは黒の国を出ると、緑の国を見た。大きな木が生い茂る多分あそこが緑の国なんだろう。
そんなに大きくは無さそうではあるんだけど、迷うってことは、能力を使っているってことだろう。蛇姫か。どんな能力使うんだ。楽しみだな。
クロは森の中を歩いて進む。大人しい動物たちが、あちこちにいる。魔獣とは縁遠い場所なのがわかる。
景色も同じのせいか、どのくらい歩いたかわからない。これは迷ったか?
そんなに大きくなさそうではあったが、迷いながら、数時間歩き続けた。
あてもなく、歩いていると、とたんに空気が変わった。肌に触れる空気が少し冷たい。でも、嫌な感覚ではない。風に乗って花の甘い香りがする。この先に花畑でもあるのか。クロは匂いを頼りに歩みを進めた。
その先にはエルフの集落があった。肌は白く透きとおり、長い髪はサラサラでつやがあり、エルフならではの耳が長い。黒の王もエルフだが、全然印象が違う。
というかどこを見ても女ばかり。花の匂いはエルフからしていた。
クロは一人のエルフに声をかけた。「なあ、蛇姫ってどこにいるんだ?」
エルフはこっちを見るなり、恐怖で匂いが甘い香りから刺激のある匂いに変わった。「え!!!人なんで!!!誰か助けてー」
エルフはパニックになった。周囲も声を聞いて、逃げ出す者や、その場で力が抜けて座り込んでしまう者もいた。
「騒ぐな。何もしねえよ」
一人のエルフがクロの前に現れた。「何者だ」エルフはクロを見つめた。
凛々しく立つ姿、黒髪ロングの美しいエルフ、首には金色の蛇のネックレスがこちらを睨みつける。
「俺は酒場のマスター、クロだ。別に何もする気はねえよ」
黒髪のエルフはクロをじろじろ見ていた。
「お前の狼の牙のネックレス、それをどこで?」
「ああこれか。もらったやつだ」クロはネックレスを持ちながら話した。
「それ、私が昔作ったネックレスなんです」嬉しそうに話してきた。
「ああそうなのか。まあ、なんかずっとつけてるんだよな」
黒髪のエルフは力なく座りだして、泣きだした。「え~ん。話せる人で良かった。怖かったよ」
クロは何が起きたかわからず、立ち尽くした。
その後、泣き止んだエルフに大きな木の前まで案内され、椅子に座って話をしていた。
「突然泣いてしまい、申し訳ございません。人が訪ねるのは初めてのことでしたので、危ない方かと用心してしまいました。遅れましたが、私緑の国のキチョウ・ミストと申します。実は私気が弱くて、強がって見せていますが、戦いなどは嫌いな性分でして。そのため、ここには人が訪ねて来れぬように結界を施しております」
「俺普通に入って来れたけど、何でだ?」
「それは緑の国は心が奇麗な人が通れるようになっているからです。しかし、最近は結界を破って、エルフを誘拐しようとする輩がいるという噂があり・・・今回の件も国民全員で警戒している中での出来事でしたので、勘違いしてしまい申し訳ございません」
「心が奇麗?俺はそんな人間じゃねえぞ」
「そんなことないですよ。こうして、悪さをされていないですし。あ、あの・・・初対面の方に、厚かましいこと承知のうえで、お願いがございます。この国の用心棒になっていただけませんか?緑の国は女性のエルフしかおりませんので・・・」
なんか最近同じような頼みを言われた気がするが・・・。カラーズの王は苦労なんかしていないもんだと思ったんだが、結構人に困っているんだな。
「用心棒になる気はねえよ。でも、相談に乗ってくれそうな人なら知っているが、どうだ相談してみるか?」
「ええ、クロ様の紹介ならきっといい方なのでしょう。お願いいたします」
「じゃあ、早速行って・・・」
遠くで木が連続して折れる音がした。
「まさか侵入者?どうしましょう」キチョウは焦った表情をした。
クロは急いで音のする方に向かって行った。
キチョウは足が震えて動けないでいた。王なのに気持ちが弱く、周囲と関わらないように、結界を張って、数百年森に引きこもって、情けない。クロの背中を見ているしかなかった。
緑の国の森では一人の大男が暴れていた。周囲には緑の国を探しに来ていた男達が倒れていた。
「ハハハ。邪魔な木などなぎ倒していけばいいだけだろう」
大男はどんどん木をなぎ倒して、進んでいく。ついにはエルフがいるところまで来てしまった。
「ハハハ。どのエルフを嫁に貰おうか?」
エルフ達は一目散に叫び逃げだした。
大男は一人のエルフを左手で掴み取る。「ハハハ。捕まえた。こいつを貰っていくか」
エルフは逃げようともがくが逃げられない。
「おい!離せよ」クロは大男の前に立った。
「なんだ?お前男か?なんでここに。緑の国は女のエルフしかいないはずだろ」
「いいから離せよ。痛め見る前に」クロはゆっくり両手を地面につけて、威嚇する。
「お前みたいなチビに何ができる?」
「待て。その手を放せ」キチョウは声を震わせながらも凛々しく立っている。
大男はキチョウを見るなり、手に持っているエルフに興味がなくなり、地面に叩きつけた。それを見るなりキチョウは怒りの表情をした。
「怒った顔もまた美しい。もう決めた。お前を連れて帰る」大男はキチョウしか見えなくなった。
キチョウは両手を前に出した。狙いを定めている。
「哀れな男、死すらぬるい」
大男の身体中から木の根が生え始め、木の根を払うが、木の根は生えることを止めずに、成長していく。まるで蛇が身体にまとわりついているようだ。蛇姫の由来はここか。
大男の姿は大きな木に変わり、声を発することもなくなった。「その姿で一生を悔いるがいい」キチョウは凛々しく、傷ついたエルフに駆け寄った。
「ありがとうございます。キチョウ様」
エルフを治療するために、クロは診療所まで運んだ。
ケガも大したこともなく、今回は無事に済んだ。だが、こんな連中が大勢来たら、さすがにキチョウ一人では足りないだろう。
「クロ様、ご覧の通り緑の国は今存続の危機に瀕しています。どうか力をお貸してください」
「じゃあ、ちょっと一緒についてこい。頼りになる奴に頼んでやる」
クロはキチョウを連れて、頼れる場所まで行くことにした。
クロは自分のネックレスを見ると、植物の能力使いがいたことを思い出していた。あいつら今も仲良くやってんだろうな。
STF(超能力育成機関)にて
クロが緑の国にいる頃、STF(超能力育成機関)では、宴会が行われていた。
かつてクロと一緒に過ごした、アレス、ダンガン、ダミア、テツオの4人はAランク試験に合格し、お祝いをしていた。
「みんなのおかげでAランク冒険者になれた。僕一人の力では決して、合格出来なかった。これからも精進してSランク冒険者になる。そして僕は英雄になる」アレスは相変わらず英雄になる夢を捨てていなかった。
「俺はAランクで十分だ」ダンガンは相変わらずクールなままだ。
「私は施設のために恩返ししたいから、そっちの勉強を頑張らないと」ダミアは冒険者になるというよりは、施設の職員になりたいようだ。
「俺はブラッド先生のような指導ができるようになるんだ」テツオは恩師のような人になりたいと考えているようだ。
4人それぞれ違った目標があり、これからの将来に胸を膨らませていた。
「僕たち先生に少しは近づけたかな」アレスがネガティブな発言をした。
赤の国の事件以降4人は暗い話題は避け、明るく振舞い続けた。あの時のことを思い出すと辛くなる。自分たちが力不足だったこと、どうしても考えると気持ちが暗くなる。
「みんなそんなに暗くなったらブラッドが悲しむよ」
4人は声がした方を見た。ディーテ副所長が来ていた。
「冒険者はいつだって命がけなんだからブラッドだってわかっているって。こうして命を張って守った4人が成長したらうれしいに決まっているでしょ。悲しい顔したらダメだよ」
ディーテの励ましで元気づくと思ったが、我慢していた物が出てしまった。
「僕は英雄になるとか言って、ただ見ているしかできなかった。そして、あの時クロも消えてしまって、僕は誰も守ることが出来ない。ただの臆病者なんだ」
アレスがクロの話を出してしまって、全員静まってしまった。みんなクロの消息を知らないままいるので、死んだと思っている。いつも煽ってくるクロではあったが、いざという時は目の前で戦いに出る。赤の国でのクロの背中を目標に4人でAランク冒険者を目標に頑張って来た。
どんな相手でも勇敢に立ち向かう姿、何度倒れても、立ち上がって、強敵に挑む姿が、目に焼き付いている。あの時クロを引き留めていたら、一緒にいれたかもしれない。もう取り返しがつかないのに考えてしまう。今の自分ならどうにかできていたのか、まだ足りないのか。
「僕はちょっと席を外させてもらう」アレスは席を立ち、一人出て行ってしまう。
「たまにはみんなで一緒にいられると思ったのに。アレスはクロの背中追いかけ過ぎだよ」ダミアはアレスに呆れていた。
赤の国から戻ってからというもの旅に出て、戻ってきてもいつも一人で特訓して、顔をめったに見せないでいた。実力は確かなものになったが、周りと話をしない。まるで昔のクロのようになってしまった。
ディーテはアレスが出て行ったあと、ゼース所長と話をし、明日国から表彰式があることを伝えに来たようだ。
このあと4人は大きな事件に巻き込まれるとはまだ知らなかった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
ハラマキのような関西弁キャラ出してみたかったのですが、本場の関西弁がわからないので、
雰囲気でお願いします。
楽しんでいただければ幸いです。




