第61話 裏社会からの手招き
ダンジョン10層にて
鉱石が明かりを照らし、薄暗い中、鈍い音が響き渡る。何度も、何度も、ダンジョン内に不穏な音が聞こえていた。
クロは黒いローブを身に付けず、ダンジョン10層で赤いグローブを付けた2体の茶色カンガルー型の大型魔獣、パンチングカンガルーに相手をさせてサンドバッグになっていた。
負けたことが悔しい。もっと強くなりたい。そのためには数的不利にも対応できないといけない。今までの戦い方ではだめだ。不意打ちで負けては、また仲間に被害が出る。
クロはここまで来るのに、毒を持った魔獣の毒を取り込んで、耐性を付けていた。何度も死にそうになったが、結局死ななかった。いや、心臓は止まっているから死んでいるのか。
今は、攻撃を反射で防げるようになるために、わざと魔獣のサンドバッグになっている。魔力で身体を殴られる部分だけを、もっと硬化するんだ。攻撃を予測し、瞬間的に硬化すれば、ダメージはない。頭ではわかっているが、身体が反応出来ない。
「くそ。このままじゃ。前と変わらない。もう負けれねぇんだ」
クロは殴られながら、この一週間の訓練を続けていた。
謎の場所にて
暗い円卓テーブルを囲うように、6人の顔が黒いマントで覆われた人たちが踊るピエロを見ながら話をしていた。
「エレメントコアは回収出来ました。しかし、思ったよりも状態が悪く、修復には時間がかかりそうです」
「・・・。」白い仮面を付けた者は黙ったままだ。口元には不気味な笑みが浮かんでいる。
「拙者もどうかお役に立ちたく存じます」
「ヒヒヒ。お前じゃ何もできない。ここは私が修復を手伝いましょう」
「それではこれからどう動く?」
「キャハハ。あのクロというガキはまだ生きている」仮面を付けた者が地図を見ながら話しだした。
「「「「「!!!」」」」」全員が驚きで息を飲む。
「あのクロというガキ、やはり只者ではないな」
「私たちで直接手を下すか?」
「それでは面白くないだろ。いつものやり方だ。掌の上で転がす」
「クロの仲間もやっかいなようだが?」
「一人ずつ消していけばいいだろ。クロもさすがに精神的に弱くなる」
5人は冷酷に話をしていたが、仮面の男は不気味な笑いを上げて、話を続けた。
「プププ。ハハハ~。クロは死んでいない。この地図に写っているからな。お仲間と共にあいつを殺しておかないとな。キャハハ。エレメントコアを奪っても奴の目はこちらの脅威になる。いいな!必ず殺して目を奪うんだ。そうしたらついに完成するんだ。最強の人形がプハハ~、誕生するんだ。ハッハハ~」
仮面で表情は分からないが、何やら異常に興奮しているようだ。部屋は仮面の人の高笑いが響き渡っていた。
ディスカラーの店内では
ロウが料理を作り、ヒメとデータに食事を取らせていた。ヒメはクロが生き返って以降、一度も顔をちゃんと合わせていない。
「ヒメちゃん。いい加減仲直りしたら?」データは心配そうに一枚の紙を持ちながら、話しかけた。
「そうじゃな。いつまでも二人ギスギスされてはこちらも困るわい」ロウも優しくヒメを諭す。
「・・・。」ヒメは黙って食事をしていた。
最近はこんな調子だ。ヒメと誰かが一緒に食事を取り、ヒメを元気づけようとするが、クロと話をしないし、周りとも話をしない。クロも黙ってどこかへ行ってしまって、店も開けずに重い雰囲気が続いていた。
店内の扉が突然開き、店内に入って来たのは、ボロボロで汚れたクロだった。
「小僧!一体どこに行ってたんじゃ。嫁に心配かけおって。このバカ者が!」ロウはクロを見るなり怒った。
「はいはい。それより腹減ったんだよ」カウンターに近づいて行く。
「ちょっとクロ。すごい臭いんだけど、獣臭みたいな。ちょっとこっち来ないで。いつ風呂に入った?」データが鼻をつまみながら、話していた。
「いや、入ってないけど」
クロは風呂に先に入ることになった。匂いなんか気にならなくなっていたのか。慣れは怖いものだ。
風呂から出ると、カウンターに座った。ヒメは居なくなっていた。ロウは料理を出してくれた。
「それでどこにいたんじゃ?」
「ダンジョンで魔獣を相手にしてた」
「まったく呆れたもんじゃ。小僧。お前さんがいない間、ヒメは落ち込んだままじゃ。とても店を開けられる状態じゃなかったわ」
「まだあの調子なのかよ。なんとかしろよ」
「お前さんが旦那じゃろうが。今のうちにどうにかせんと、あとで後悔しても遅いんじゃぞ」
ロウの言葉は重く、説得力があった。そう言われてもどうしたらいいんだよ。女心なんてわかるわけないだろ。
「ねえ、クロこれ見て。たまたま見つけたんだけど」データは手配書の紙を見せてきた。
内容は手配書だ。顔写真、名前、年齢、出身地、現在酒場をやっていること。個人情報が詳細に書かれていた。驚くべきは、能力の詳細も詳しく書かれていた。能力は獣化。全身をすぐに獣化出来ずに、部分的に獣化していくので、短期決戦の方が向いている。魔力を飛ばして、中距離攻撃をしてくるため、警戒が必要。
生け捕りなら金貨1000枚、首だけなら500枚。一生働かなくて暮らせる額だ。
「んで、これどこから漏れた?情報が新しすぎる。近くにいないとわからないことばかりだな」
「私もよくわからない。でも裏社会ではこれが出回っている。かなりの儲けになるから、色んな裏組織が動いているの。カゲとウィッチが情報を漏らした犯人を捜しに行ったけど、戻って来てないから、まだ特定できてないみたい」
クロは食事を一気に食べると、立ち上がった。
「この手配書の金を出す所はどこなんだ?」
「まさか、行く気?誰に狙われているかわからないんだよ」
「このままだとここにいつか来る奴が来るだろ。そうなるとヒメに被害が出るかもしれないだろ。どこだ?」部屋にいたヒメは漏れてきた話声を聞いて、胸が苦しくなった。
「いいけど、詳しい場所はわからないの。貿易都市の北側のどこかにあるって」
「それだけわかれば、誰か知ってるやつが途中でいるだろ」
クロは黒いローブを羽織るとディスカラーを後にした。




