第56話 ディスカラー初開店
クロはオニとディスカラーに向かっていた。ダンジョンの前の転移陣をオニは通れないため、徒歩でダンジョンの中を歩いて向かう。クロは、オニに魔力の訓練もしながら、店も手伝ってもらいたいと考えていた。しかし、このいかつい強面だと客が怖がるだろう。呼び込みも期待できないし、どうしたもんか、と思案した。
「オニ、お前、何か得意なことあるか?」
「ない。ケンカが得意」オニは簡潔に答えた。
「なるほど。まあ、期待してなかったけど」クロは苦笑いした。
二人の前にはゴブリンの群れが待ち構えていた。クロはオニに問う。
「能力抑えて戦えるか?」
「無理。意識無くなる」
「じゃあ、見てろ」クロはため息をつき、一人で対処することにした。
クロはゴブリンの群れに一直線に突っ込むと、手に持ったナイフで次々と首を切り落としていく。彼は後ろからの攻撃も肌で感じるように察知し、流れるように避けて、次から次へと魔獣を討伐した。クロはまるで優雅に踊っているかのように見事にゴブリンの群れを殲滅した。
ディスカラーまで無事に着くと、扉を開けた。ロウとウィッチが他国から戻って来ていた。
「マスター。久しぶりなのだ。隣にいるのはなんなのだ?」ウィッチは目を丸くしてオニを見た。
皆がオニに注目する。クロは紹介をした。
「オニだ。このギルドで働いてもらう。ロウとヒメはオニの稽古をつけてほしい」
「稽古はいいんじゃが、店では何をやらすんじゃ?」ロウはオニの威圧的な容姿を見て頭を抱えた。
「冷凍庫での魔獣の解体だな。カゲ。解体のやり方を教えてやってくれ」
「主の仰せのままに」カゲは即座に返事をした。
オニは店の一員になった。まずは汚れた体を洗うため、風呂に入れた。その後、ウィッチから渡したいものがあるらしい。それは、以前受け取ったものと同様に、魔術の刻印が描かれたカードだった。
「旅の途中にロウに言われて作ったのだ。魔獣を討伐しても、持っていくのが大変だと言われ、誰でも冷凍庫に運べるように転移のカードを作ったのだ」
今回ウィッチから受け取ったカードは、倒した魔獣にかざすだけで冷凍庫まで転移させることができる魔術だそうだ。これで遠くの魔獣を倒しても、労せずして肉を運べるようになり、利便性が向上した。
こうして一週間が経った。
クロはダンジョンに潜り、魔獣を狩り、食料調達をした。オニはカゲから厳しい指導を受けて、正確な解体が出来るようになった。空いた時間にはロウとヒメの特訓を受けていたが、獣化をコントロールするまでには至らず、魔力をわずかばかりコントロールできるようになっただけだった。「そう簡単にはうまくいかないもんだ」とクロは内心納得していた。
そして、いよいよ初開店を迎えた。酒も各国から豊富に揃えられ、各扉には大きな張り紙が貼られた。
「魔獣肉専門酒場 本日から一週間 酒代無料!」
「これで来てくれればいいが、あとは運だな」クロは静かに言った。ウェイトレスには華やかなヒメとウィッチが担当することになった。ウェイターは落ち着いたカゲだ。魔法使いの格好に、王女様の格好、執事の格好と、まるでコスプレ酒場のようだが、「面白そうだからいいか」とクロは思っていた。キッチンは腕の立つロウが担当し、オニは問題を起こす客を追い返すために裏で待機。クロはやることがないので、キッチンの隅で昼寝していた。
夜になり、全ての転移陣を稼働させた。最初はどのくらい客が来るか、クロ以外はワクワクしていたが、誰一人として来ない。それもそうだろう。店内の様子も見えないし、ゲテモノ扱いされている魔獣肉を大々的にアピールしていれば、普通は来ない。
開店から三時間。クロ以外はガッカリしていた。誰も来なければ、立っているだけで疲れてしまう。クロは「こんなもんだろ」と冷静に考えていた。しかし、「だけどそろそろ…酔った客が店を通る」とも思っていた。
とある国にて
二人の防衛隊員は酔っぱらって歩きながら、次の飲み屋を探していた。
「まだまだ飲みたりないな」
「そうだな。早く次の店行こうぜ」
二人は陽気に歩いていた。その時、見たこともない店が新しく開店しているのを知った。
「おい見ろ。魔獣肉専門だってよ」一人が馬鹿にしたように言った。
「あんなもん食いたいから防衛隊やってんだよ」もう一人も強気な言葉で話に乗っかった。
「おい見ろ。酒代無料だってよ」張り紙に指をさす。
「本当か。でも無料なら行ってみるか」
二人は興味本位で扉を開けた。中を開けると、外からはわからないぐらい明るく広い店内、そして食欲をそそる良い匂いが店内に漂う。
「「いらっしゃいませ!」」華やかなコスチュームの二人の女性が明るく挨拶した。
二人は席まで案内されると、**「変わった店だ」**と思った。魔獣肉にコスプレ、色々ありすぎる。そこに、落ち着いた執事の格好をしたウェイター(カゲ)が、メニュー表を二人に渡し、丁寧な口調でおすすめを告げた。
「本日は魔獣の刺身肉がおすすめになっております。お決まりになりましたら、お呼びください」ウェイターは静かに去っていった。
二人はどうするかメニューを見た。酒は各国のお酒が並んでおり、選びきれず悩んでしまう。
「おい、結構酒があるな」
「そうだな。この店はあたりかもな。つまみも飯も銅貨一枚って安すぎるだろ」
二人はまず青の国のエールを頼むことにした。
「かしこまりました。エールを二つですね。せっかくですのでおつまみはどうしますか?」
二人は「せっかくただで酒が飲めるなら」と、おすすめを頼んだ。
すぐに二人の前に冷えたエールと、鮮やかな魔獣の刺身肉が置かれた。
「「乾杯!!」」豪快にエールを飲み干す。
「うまい。これは本物の青の国のエールだ」
「ああ、薄める店もあるが、ここのは本物だ」
二人は酒のうまさに喜び、次に刺身肉を食べるかためらった。
「酒はうまいが、これはな……」
「ああ、俺もだ。冒険者時代を思い出す」
二人は恐る恐る、タレをたくさんつけて、口に運んでみる。
「「!!うまい!!」」
これは本当に魔獣の肉なのか。臭みは一切なく、噛むほどに豊かなうまみが広がる。酒が止まらない。
「酒があっという間になくなっちまった」
「そうだな。すいません。エールおかわり!」
二人は食べて、飲んでを繰り返し、あっという間に幸せな時間が過ぎて行った。
「ご馳走様。うまかった」
「ああ、また来るよ」
「それは良かったです。出来れば、他の方にも宣伝して頂ければうれしいのですが」カゲが控えめに言った。
「ああ、せっかくだから、他の防衛隊の連中にも言ってみるわ」
「こんなうまい店、本当は教えたくないが、今度連れてくるよ」
二人は扉を開けて、楽しそうに帰っていった。
店が広く認知されるのは、まだ先のことである。




