第53話 職人の形
貿易都市にて
クロとヒメは中央ギルド国家から戻って来ていた。そのままバールの店に行って転移で帰ってもよかったのだが、せっかくなので貿易都市を回っていた。
舞台劇を見たり、本屋に寄ってどんな本があるか見たり、各国の名物料理を食べて回ったり、服屋で色んな服を試着し楽しんだり、裏路地に入り、犯罪者を殴り倒して、防衛隊に突き出したりと、新婚旅行を満喫していた。そんな旅行気分を三日間楽しんだ。
「マスター。次はどこに行く?」ヒメはクロの腕に抱きつきながら尋ねた。
「どうするかな。南側は結構回ったしな。そろそろ帰った方がいいか」
「そうなんだよね。ウィッチとロウがどこまで回ったかわからないし、カゲが心配だね。マスターに会いたくてきっと寂しがっているよ」
「カゲは一人で留守番だもんな。そろそろ帰ってやるか」
二人はバールの店に向かうことにした。そういえばバールの店に入った。ネイルはうまくやっていけているだろうか。意外と気が弱そうだったし、辞めてなければいいけど。
店に行くと「本日休業」になっていた。なんでだ、いつもならやっているのに、中で何かあったか。クロとヒメはバールの店に侵入することにした。クロの氷の鍵で扉を開けると、商品は問題なくある。作業場から怒鳴り声が聞こえた。二人は向かってみることにした。
「馬鹿野郎!ったく違うっつってんだろうが!」バールが激しく怒鳴っていた。
「なんだどてめえ、もう一回言ってみろ!」相手はネイルだ。人が変わったように態度が違う。
「っだとゴラァ。てめえ誰に口答えしてんだ」
「うっせえ!関係ねえ!黙ってみてろ!」
ネイルが一週間程度しかたっていないはずが、いつの間にか、ドワーフの男どものように口が悪くなっている。一体何があったんだ。あんなに気弱な性格だったのに。ヒメは見ていられなくなって、話しに割って入った。
「ちょっと、二人ともどうしたの?ケンカなんかして、落ち着きなさい」
ヒメが来たことに気づき、バールとネイルは動きを止めた。
「なんで入って来れたんだ?店閉めたはずだろ」バールが不審そうに尋ねた。
「開けたんだよ。店なんか閉めてどうした?」クロは冷静に尋ねた。
「こいつがな。全然覚えねえもんでよぅ」バールはネイルの覚えの悪さに苛立っていた。
「ちげえだろ。うちがやりたいことに口出してきたんだろ」ネイルは自分のやりたいことに口を出されて怒っていた。
「埒が明かない。バール、今日は店閉めてるんだよな。なら俺と酒場に来い。話はそこで聞く。ヒメはネイルの話を聞いてやれ」
クロとバールは酒場に向かった。席に着くなり、バールは機嫌が悪そうだ。
「おーい。強い酒を大量にくれ!あとつまみもな」バールは大きい声で遠くの店員に声をかけた。
木のバケツに入った酒と木のコップが二つとつまみが運ばれてきた。「飲まないとやってられない」のだろう。しょうがないが付き合うしかない。
二人はコップでバケツの酒をすくい上げると豪快に一気に飲み干した。やっぱりドワーフの酒は度数がきつい。
「クロ。おめえさんはやっぱりいける口だな」バールは再び一気に飲み干した。
「それで、何があってああなったんだ?」クロも一気に飲み干した。
「それがよ。実は……」
バールの話によれば、ネイルの腕は認めているからこそ、自分の腕を引き継いでほしいと考えていた。そのせいでケンカになり、店を閉めて、武器を作らせていたそうだ。だが、ネイルは自分の考え方があるらしく、そこでさらにケンカになり、お互い引けなくなったそうだ。
「ってわけだよ。わかるだろ。クロ~。あいつは才能があるんだ。店員さんおかわり」バールは結構酔ってきたようだ。
「まあ、引き継いでほしい気持ちは分かった。だが、ネイルの気持ちはどうなる?バールの考え方は伝えたのか?」
「それは……。そうだな。話したことがなかったかもな」バールはハッとした顔をした。
「ネイルはネイルのやり方があっていいんじゃないか。同じになる必要はないさ。お互いのやり方でやっていけないのか?」
「そうしてやりてえが、作業場は一つだし、同じやり方でやらねーと店が回らないんでぇ」
「そんなことなら俺に言えよ。作業場なら作ってやる。少し時間は掛かるが金は取らねえよ。武器作ってもらうのに色々頼んでるからな」
「いいのか。そんなことしてもらって……」バールは驚いた。
「お前と俺の中だろ」クロは笑って言った。
二人はおかわりで来た酒を乾杯して飲んだ。
一方ヒメはネイルと作業場の掃除をしながら、話をしていた。
「ねえ、ネイルはバールのことどう思っているの?」
「なんでしょう。私は作業に没頭すると口が悪くなってしまうの。本来はそっちの方が本当の私なんです。エルフに借金していた時は自分を殺して演じてました。ついあの人と一緒だと本来の私が出てしまうんです」
「じゃあ、ネイルはバールのこと好きなんだ」ヒメは確信したように言った。
「はい。職人として、でも一人の男として、でもダメですよね。雇われている身分でこんな考えをしては……」
「そんなことない。好きに立場なんて関係ないよ。話してみないと変わらないよ」ヒメは優しく諭した。
「そうなのかな……。そうだね。ありがとう。バールと話してみます」ネイルは決意の表情になった。
その後は黙々と片付けをしていた。
酔っぱらったバールを肩に担いで、クロが帰って来た。
バールとネイルは顔を合わせると、何から話していいか、わからなかった。
無言がしばらく続いて、バールが先に口を開いた。
「あのな、俺はお前さんの腕を認めてるんでえ。それでな……。よければ。あの……。お前さんの自由にやってみないか?」バールは照れくさそうだ。
「!。でもここはバールの店ですし、そんなことは……。ありがとうございますけど……」
「俺と一緒に店をやってくれねえか?」バールは思い切って言った。
「え?今私ここで雇われてますけど?」ネイルは戸惑った。
「そうじゃねえ。夫婦でやらねえか?お互いやりたいことをやる。俺と同じことをしなくていい。だめかぁ?」バールは期待と不安の目でネイルを見た。
「だめじゃないです。私も一緒にやります。やり方は違いますけど、あなたを満足させる武器を作ります」ネイルは力強く答えた。
「あはは。なんでえ。なんかこっぱずかしいな」バールは照れて頭を掻いた。
「しっかりしてください。あなた」ネイルはバールの手を取り優しく見つめた。
二人は微笑み、クロとヒメは黙って見守った。この微笑ましい光景をただ見つめていた。




