第52話 中央ギルド国家の王
朝、ベッドの上で目覚めた裸のクロは、昨日の風呂に入れられたことを後悔していた。少し入るつもりが、小さい風呂でも入ると言い出し、結局付き合わされたからだ。
呑気に裸で掛け布団に包まって寝ているヒメを起こした。
「ヒメ起きろ」
「ちょっとこっち見ないで」ヒメは赤面した。
「何で?」
「それは……恥ずかしいから」
「昨日散々見せてきただろ」クロは呆れる。
「見せてないもん。ちょっと別の方を向いてて」
「わかったよ。早く着替えろ」
ヒメは掛け布団で身体を隠しながら、服を取りに行った。なんで今更恥ずかしがるんだ。誘って来たのは向こうだろ。女心はわからない。
「クロ~。着替えた。いいよ来て」風呂場から声が聞こえた。
クロは風呂場まで服を取りに裸で歩いていった。
「ちょっと前隠してよ」ヒメは恥ずかしがって背中を向けた。
「昨日見ただろ。気にすんな」
「昨日は昨日なの。早く着替えて」
クロは着替えるとヒメと宿を後にした。
「飯より先に王に会いに行くか?」
「うん。会えるかわからないけど、聞いてみないと……」ヒメは少し不安そうだ。
クロはヒメを肩に乗せ、国の真ん中にある高い塔を目指して歩いていく。塔の上まで歩くのは大変そうだ。
「そういえば、王様に会ったことあるのか?」
「ないよ。結婚の時に会う予定だったから」
「そういうもんか」
「私、名前も年齢も知らないんだよね」
「なるほど、どういう奴かわからないのか。最悪死刑になるかもな」クロは冗談めかして言った。
「まあ、その時はマスターが助けてくれるでしょ?」ヒメはクロの肩で笑った。
「お守りしますよ。お姫様」
二人は話をしていると塔まで着いた。防衛隊はいるが、それ以外はいない。それもそうか。ギルドの支部を作るために来る場所だから、そんなに人はわざわざ来ないよな。
クロとヒメは歩いて、中に入ると受付嬢が立っていた。
「あの~ギルド支部の申請をしたいのと王様と面会したいんですけど」
「王と面会ですか?ご予約は?」受付嬢は怪訝な顔をした。
「私、ヒュメルドーナ・メラクレスと申します。結婚のお話をお断りしてしまい、謝罪をしたく、参りました。」ヒメは受付嬢に挨拶をすると深々と頭を下げた。
「すみませんが、少々お待ちください。ただいま確認いたします」受付嬢は慌ててその場を去ると急ぎ足で別室に向かった。
「どうだろう?うまくいくかな」ヒメは不安そうだ。
「一緒にいてやるから大丈夫だ」クロはヒメの頭をポンポンと撫でた。
「もう子供扱いして!私は大人なの」ヒメはいつもの調子に戻った。
二人は十分程待つと、受付嬢が防衛隊の偉そうな人物を一人連れて戻って来た。結構いい装備を付けている、地位が高いのだろう。
「ヒュメルドーナ様はあなたですか?」防衛隊は厳しい表情で尋ねた。
「はい。私がヒュメルドーナです」
「王が面会を希望しました。ついて来てください」
防衛隊の人は二人を案内した。扉があり、ボタンを押すと開いた。中に入るとボタンを操作し、部屋が上昇した。魔術で作ったのか。わざわざ歩いて上まで行かないか。あっという間に上に着いた。扉が開き、出ると廊下と目の前には立派な扉がある。
「では、扉の先に王が来ますので、入って待っていて下さい」防衛隊は扉を開けた。
二人は中に入ると、広い部屋の左右に五人ずつ強そうな防衛隊が、並んでいた。奥に大き目の椅子があり、あそこが王の椅子だと思った。視線に圧がある。敵意を向けたら今にも殺されそうだ。それもそうか。王に面識もないのに会いたいと言い出す奴がいたら警戒もするだろう。
無言の時間が続く。王はまだ来ないのか。それとも罠か。ヒメの表情に緊張が見え始めた。
突然、後ろの扉が開き、八歳ぐらいのウサギ柄のパジャマを着た子供が鼻歌を歌いスキップをしながら入って来た。挙句の果て、椅子の前で踊り出した。
防衛隊の表情が引き締まった。王の子供が、遊びに来たのか。子供が二人を見ると踊りを止め、話しかけてきた。
「その黒いローブを着た男の名はなんと申す?」子供は偉そうな口調だ。
「俺はクロだ。お前は誰だ?」クロは対等に返した。
防衛隊が一斉に武器を構えた。
「止めよ。堅苦しい話し方は嫌いなんだ。ぼくはね、イリア・ロドス。この国の王だ」イリアは一言で防衛隊の動きを止めた。
クロはイリアをよく見ると凄まじい魔力が見えた。こいつただの子供じゃない。防衛隊より強い。面白そうな奴だと思った。
クロは一瞬でイリアに殴られた。反応できなかった。
「マスター大丈夫?」ヒメは心配そうだ。
「ああ、手は出すなよ」クロは体勢を低くして構えた。
イリアは姿が見えなくなった。というより速くて見えない。クロは一息入れると、拳を突き出した。
イリアと拳がぶつかる。クロの腕が弾かれ、力負けした。イリアは猛攻を仕掛けてくる。
クロはなんとか防御ながら、一撃を伺うしかなかった。それだけ隙がない。
イリアはいつの間にか、椅子の前にいた。なんだこいつ、殺意がない。
イリアはジャンプして椅子に乗った。サイズが合っていない椅子だな。
「クロ。お前は面白い。気に入った。さて、その小さい女の子が武術国家の王女か?」
「はい。私はヒュメルドーナ・メラクレスと申します。この度は……」ヒメは丁寧に話し始めた。
イリアは話を遮った。
「いい。いい。そうゆう固いの嫌いなんだ。別に結婚も興味ないし、許す。これでいいな」
「ありがとうございます」ヒメは安堵して頭を下げた。
「そういうのが嫌いなの。クロは王とか関係ないんだね」イリアはクロに興味津々だった。
「王とかどうでもいい。俺は平等だ」
防衛隊の表情が怒りに変わった。
「そうだよね。いいね。クロ。お友達になってよ。みんなお友達になってくれないんだよ」イリアは寂しそうに言った。
「別にいいぞ。お前の側近どもが許すならな」クロは挑戦的に言った。
防衛隊は我慢が出来ずにクロに襲い掛かった。
「やめろ!」イリアは大きな声で魔力の圧をかけた。
防衛隊は動きを止めて、元の位置に戻る。戻る時の目は殺気に溢れていた。
「ごめんね。クロ。なんか使命とか役割とか気にする人が多いんだよ」
「いや、気にするな。友達だろ」
「そう。友達。いい響き。今度遊ぼう。今日はこの後予定があるんだって」
「じゃあ、また今度。時間があれば遊びに来るよ」
「本当に?でもどうやってくるの?」
「今日はギルド支部の申請に来た。依頼書の中にメッセージ送ってくれたら、転移で来るよ」
「ギルド支部の申請か。許可するよ。クロは何のギルドなの」
「魔獣肉専門の酒場ギルドだ。」
「魔獣肉!今度持って来て」イリアは目を輝かせた。
「まあ、遊ぶ時に持ってくる」
「じゃあ、ぼくは予定があるらしいから。みんなクロ達を下に送ってあげて。あと申請も通して。やらないとわかるよね」イリアは防衛隊に有無を言わせぬ圧を加えた。
防衛隊が渋々返事をするとイリアはスキップしながら去っていった。
二人は下の階まで案内される。途中で襲われると思ったが、王の言うことは絶対のようだ。
受付嬢の所に戻ると申請書を書いた。王の命令もあって、すぐに受理され、ギルドの受信機を渡された。魔力が流れていれば、情報を受信し、魔獣討伐等の依頼書が印刷されるらしい。注意事項として、《依頼書はわかりやすい所に張り出す》というシンプルなルールだ。クロは受信機をローブのポケットにしまうとヒメと一緒にギルド本部を後にした。
「マスター。王はなんで殴って来たの?」
「そんなの面白そうだからだろ。あいつ強いな。強化系であれだけ能力を使いこなすなんてな」
「うん。魔力が凄かった。王様になるのもわかるよ」
「まあでも、ヒメには敵わないだろうな。ヒメに勝てる奴なんていないだろ」クロはからかうように言った。
「そんなことないもん。私はか弱い乙女だよ」ヒメは頬を膨らませて拗ねた。
「か弱い乙女はドラゴンを殴ったりしません」
「そういうこと言うともう一緒に寝てあげないよ」
「いいですよ~。一人で寝れないのは誰でしょう?」
二人はじゃれ合いながら、中央ギルド国家を後にし、貿易都市を目指す。




