第51話 結婚の挨拶
クロとヒメは貿易都市で宿を取って一泊していた。
「それでマスター、明日は中央ギルド国家に行くんでしょ?」ヒメは確認するように尋ねた。
「いや、武術国家に行こうと思う」クロの返答は意外だった。
「え?でも……」ヒメは言葉に詰まった。
「ヒメの父親と話してないからな。さすがにしていかないとな。ケジメだ」クロはまっすぐヒメを見た。
ヒメは気まずそうに目を伏せた。それもそうだ。父を操り、国をめちゃくちゃにした義母をこの手で殺した。父はそのことをおそらく知らない。その上で会ってどう思うか。不安が胸をよぎるのだろう。
クロはヒメの頭を優しく撫でた。
「大丈夫。俺が一緒だ」
「子ども扱いするな。私はちゃんと大人の女なんだ」ヒメは腕を振りほどき、意地を張るように抱きついてキスをしながらベッドに押し倒した。少しは大人扱いしないとな。
こうして夜から朝になっていった。
朝になり、二人は武術国家に向かうための魔獣車を借り、馬型の魔獣に乗って進む。
走っていくと時間がかかるからな。乗り物は楽でいい。
昼には着いた。魔獣車を止めるとヒメの案内で場内に入った。
相変わらず人がいない。それもそうか、すぐに人は戻らない。
執事のテインがヒメに気がついて、一目散にこちらに駆け寄る。
「ヒュメルドーナ様、今までどこにおられたのですか?旦那様はヒュメルドーナ様のことで気を病んでおられます」テインは安堵と焦りが入り混じった表情だ。
「ごめんなさい。テイン。無断で出て行ってしまって、でも父上と話があります。連れて行って」ヒメは毅然とした態度で話した。
執事のテインについていくと、王の部屋に案内された。
「テイン。下がって。私は父上とこれから話をします」
「かしこまりました。」テインは頭を下げると、心配を滲ませながら去っていった。
「いい?マスター行くわよ」ヒメは強がってはいたが、その表情には緊張が張り付いていた。
クロはヒメの頭をそっと撫でた。
「もう子ども扱いするな」ヒメはいつもの調子に戻った。
「安心しろ。一緒にいるから」クロは力強く言った。
ヒメは扉をノックした。返事が聞こえると扉を開けた。中にはヒメの父親、ゴルダールがこちらを向いてただ立って待っていた。二人は部屋に入った。
「お久しぶりです。父上。お話したいことがあります」
「いや、こちらから話す。ヒュメルドーナ、本当にすまなかった」ゴルダールは一国の王でありながら、二人の目の前で地面に頭をつけた。
「父上、何を!」ヒメは驚愕した。
「本当にすまない。お前には、辛い思いをさせた」ゴルダールは微動だにしない。
「父上、全部知っているのですか?」
「ああ、意識はあったが、身体が動かなった。全て理解している」
「ですが、私はこの手で義母を殺しました」ヒメは苦渋に満ちた声で告白した。
「わかっている。本来なら私自身が責任を取ってやるべきことだった。娘に手を汚させるなんて……ダメな親だ」ゴルダールは頭を下げたまま、滂沱の涙を流した。
「そんなことはありません。父上は私が尊敬する唯一の肉親です。どうか頭を上げて下さい」
ゴルダールはゆっくりと起き上がり、涙を拭った。
「ヒュメルドーナ。本当にすまないことをした。どうか戻ってきてほしい」ゴルダールは懇願した。
「申し訳ございません。父上、私はこの人と一生を共にすると誓いました」ヒメはクロと手を取り合った。
「そうか。この男が……」
ゴルダールはクロに近寄り、右拳を握った。一瞬にしてクロの顔面目掛けて拳を振りかざした。クロは一切動かず、その場に立っている。
ゴルダールの拳はクロの目の前でぴたりと止まった。
「逃げんか。いい男だ。」ゴルダールは満足そうに頷いた。
ゴルダールは拳を下げて、クロに頭を下げた。
「娘をよろしく頼む」
クロはゴルダールの右肩を押して、頭を上げさせた。
「一国の王がそう簡単に頭を下げるもんじゃねえよ」
クロとヒメはゴルダールの部屋から出て行った。部屋の前にテインが待っていた。
「ヒュメルドーナ様……。いってらっしゃいませ。またいつでもお戻り下さい」テインは深々と頭を下げた。
「うん。いってきます。また今度、顔を出します」ヒメは晴れやかな笑顔を見せた。
クロとヒメは武術国家を後にした。これから中央ギルド国家に向かう。魔獣車に乗るとヒメは緊張の糸が切れたようで、脱力した表情をしていた。
「ふあ~。ますた~。つ・か・れ・た」ヒメは完全に力を抜いてクロにもたれかかった。
「はいはい。よくできましたね。立派だったよ」クロはヒメの髪をくしゃくしゃと撫でた。
「も~。また子供扱いしてる。私は大人です」
「知ってるよ。よく頑張った」
「うん……」ヒメの表情は達成感に満ちて晴れ晴れしていた。
夕方になり、中央ギルド国家に着いた。さすがに本部は明日にしないと王様には会えないだろうな。今日は宿を取って明日の朝に行くとするか。魔獣車を止めると国の中に入る。
中央ギルド国家はギルドの本部があり、名のあるギルドもいくつか滞在しているようだ。防衛隊も貿易都市より貫禄がある。国民はギルドに入るため日々訓練しているようだ。すれ違う子供たちが、木の剣を持ち歩いて服を汚している、子供の頃から訓練しているようだ。国に入ってすぐは一軒家が多く、冒険者の家族が住んでおり、帰りを待っているようだ。
クロとヒメは家を見ながら、宿を探している。とりあえず中央に行けば何かあるだろう。
徐々に家が減って、店が見え始めた。武器屋もかなり豊富なようだ。飲み屋の数もかなりある。冒険者のための町って感じがする。
また、宿は結構大きい建物を構えているのが大半だった。ギルドで泊まる客が複数人になるからか、小さい宿がこの国では少ないようだ。お金には困っていないから二人で一番大きい部屋に泊まることにした。
部屋はかなり大きい。ダブルベッドがある部屋が四部屋もある。
風呂も大きい風呂と小さい風呂、さらにシャワー室もある。
何も置いてない部屋もあったが、これは荷物を置く部屋かな。
でかいテーブルが置いてある部屋がある、多分ここで話し合いをするのか。
明らかに二人で泊まるには大きすぎた。だがヒメははしゃいでいる。
「すごいよ。マスター。色んなものがあるよ。食事も持って来てくれるみたいだし、良かったね」
「はいはい。良かったね」クロは広すぎて落ち着かなかった。狭い方が好きだ。
しばらく待っているとノックが聞こえ、開けると食事をテーブルのある部屋まで運んでくれた。食器は外に出しておけば回収してくれるそうだ。
二人はゆっくりと食事をとった。朝まではだいぶ時間はある。今日はヒメも疲れただろうし、休ませよう。
食事が終わったら、他愛のない話をした。久しぶりにゆっくり過ごせている気がした。最近は店づくりで忙しく、その前までは一週間寝ないで旅をしていたんだ。疲れもするか。
時間も遅くなり、ヒメも眠そうだ。
「ヒメ寝るか?」
「ううん。お風呂に入る。大きいのに入るの。マスターも一緒に入ろ」クロは呆れた。まだ子供なのか。
「いや、俺は風呂入らなくていいから」風呂嫌いなんだよな。
「新婚旅行でしょ。いいじゃん一緒で。私の裸見るの恥ずかしいの?」何を言い出すんだこの子供は。
「お子様の身体は興味ないって言ったろ」
「ム~。ウィッチの裸は見るのに」
「ウィッチは見せてきただけだ」クロは顔を引きつらせた。
「わかった。私に裸見られるの恥ずかしいんだ」ヒメは勝利を確信した顔で言った。
「いや、恥ずかしくないけど」
「じゃあ、一緒に入ろ」
ヒメはクロの腕を両手で引っ張ると、クロは引きずられながら、風呂に連れていかれた。クロは十年ぶりの風呂に入った。やっぱり風呂は面倒で嫌いだ。




