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キャンバス~色なき世界のアービトレーター≪仲裁人≫~  作者: ぶーたん
第2章 ギルド結成編

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第50話 職人のプライド

本店作りに取り掛かり、三日が経過した。本店の隣には魔獣を冷蔵保管する巨大な冷凍室を作った。ここで魔獣を解体して肉と素材に分別する。素材はバールの店に送れるように魔術を施した場所を設置し、肉も店内の冷蔵庫に自動で転移するように魔術を施した。


ウィッチは疲れ切っていた。さすがに働かせすぎたか。息抜きさせないと、意識がどこか遠くに飛んでいた。


「もうだめなのだ……。魔法書がいっぱい飛んでいるのだ……。アハハ!魔法がいっぱいなのだ」ウィッチは虚ろな目で笑う。


「さて、これからどうするものか。なあじじい。俺はここをギルド支部にしたい」クロはロウに話しかける。


「わかっとるわい。じゃがギルド支部を作るには中央ギルド国家に申請する必要があるんじゃ」


「主、私も一緒に行きます」カゲは即座に進み出た。


「待つんじゃ、カゲ。これは一種のケジメでもあろう。結婚予定の相手を奪ったのじゃからな」ロウは意味深に言った。


「ああ、話はつけるつもりだ」クロはきっぱりと答えた。


「まぁ、そうじゃのう。新婚旅行ついでに二人で中央ギルド国家に行くといい」ロウはニヤリとした。


「え?し、し、し、新婚旅行うう」ヒメは顔を赤くして動揺した。


「開店前の今ぐらいしか暇もないじゃろう。わしとウィッチは各国を回って転移先の物件を見つけて、契約しておく」


「そうか。悪いな。それじゃ新規の物件の方は任せる」


「主、私はどうすれば……」カゲは心底残念そうだ。


「カゲ。お前は店番だ。少しは俺から離れても大丈夫な所見せてくれ。あとは魔獣を討伐して強くなれ。一階層と二階層は一人で突破できないとな」


「かしこまりました。主のため精進致します」カゲは深く頭を下げた。


こうして、それぞれの目的が決まった。クロとヒメは冷凍室に向かった。バールの店に転移して、そこから中央ギルド国家に行くためだ。


転移場所に踏み込むと、バールの素材置き場に転移した。素材の上に転移され、ほとんど手付かずの状態だ。

作業場にはバールがいないようだ。かなり道具や素材があちらこちらに散らかっている。

店の方に行くと、客がたくさん来ていた。商品も増え、人気が出てきたようだ。


「おう、クロか。ほう、指輪付けたんだな。祝ってやりてえ所だが、今忙しいんだ」バールは目を丸くして言った。


「いや、こっちも急に来たからな。落ち着いた頃にまた来るよ」


クロとヒメは店を出た。向かいのエルフの店はだいぶ商品が減っているようだ。


エルフの店員と目が合ってしまった。


「なんだ貴様は、うちの店に文句でもあるのか」エルフは最初からケンカ腰だ。


「いやないけど、商品だいぶ減ったなって……」クロは平静を装う。


「文句あるのか。お前に関係ないだろ」


「ごめんよ。なんでもないから」クロは立ち去ろうとした。


エルフの店に向かって女性ドワーフが歩いてきた。なにやら前も見えないほどの荷物を持っていた。エルフはその姿を見ると、走って突き飛ばした。


「貴様何をしている!早く作れ!店が儲からなかったらお前のせいだ!」エルフは怒鳴り散らした。


エルフが殴ろうと腕を振り上げた時、クロは素早く腕を掴んで止めた。


「悪いが、女が殴られる所を見る趣味はねえもんでな」クロは鋭く睨みつけた。


「貴様、このことは覚えておけよ!借金は倍にするからな」


エルフは捨て台詞を吐いて逃げて行った。女性ドワーフは震えながらお礼を言うと去ろうとした。


「待って何があったの?」ヒメが去るのを止めた。


「いえ、大丈夫です。私なんて……」ネイルは目を伏せた。


道端で話すのもあれなので、近くの店に入って、事情を聞いた。


「助けていただき、ありがとうございました。私はネイルと言います」


ネイルは男ドワーフと違って髪があり、長い赤髪を後ろで結んでいる。腕も細めだが、背は男ドワーフと変わらないようだ。


「俺はクロ。向かいの店の店主と仲良くやらせてもらってるもんだ。こっちは嫁のヒメだ。」


ヒメは嫁という響きで顔を真っ赤にしてしまった。


「んで、なんであの店で働いてるんだ?」


「私、店を始めようとしたんですが、お金がなくて。そんな時に、お金を貸すから店で働くように言われたんです」ネイルは目に涙を浮かべた。


「かなり儲かってるように見えたんだがな。返せないのか?」


「う、う、それがいくら聞いても残りいくらか教えてもらえず、まだ足りないから働けと」


「店の中で働くドワーフはお前だけなのか」


「はい。私だけで。でも私作るの遅くて……」


「完全にただ働きさせてるな。あれだけ行列が出来て繁盛していたのに、返せないわけがないだろう」クロは怒りを抑えきれない。


「でも、私が悪いんです。ちゃんと仕事しないから」ネイルは自分を責めた。


「こんな話聞いて黙ってられるかよ。お前はどうしたい?」


「もう……あんな所で働きたくないです」


「じゃあ決まりだな。ヒメ、バールの店に連れて行ってくれ」


「わかった。任せて」ヒメはネイルの手を引いた。


クロはどうしてやろうか考えていた。なんなら儲けた分取り戻せるか。いやネイルを引き取ることだけ考えよう。


エルフの店にクロは単身入っていった。


「貴様何の用だ。うちのドワーフをどこにやった!」エルフは声を荒げる。


「ネイルは俺が引き取った。借金はいくらだ」


「借金だ?お前のような貧乏人に払える額ではないわ」エルフは鼻で笑った。


「店はかなり儲かっていたな。ネイルにいくら払ってる?」


「ふん。ちゃんと衣食住で支払いをしている」


「こんなに儲けて、満足できないと」クロは冷静に話している、だが怒りで今にも殴りそうだ。


「そうだな。あと金貨百枚は必要だな」エルフは足元を見て吹っ掛けきた。金貨百枚は貿易都市の立地の良い物件一件買える額だ。


「なら、ここに金貨五百枚ある。それでいいな」


クロは目の前にずっしりとした金貨の入った袋を置いた。ここに来る前にギルドで換金して来た金だ。


「こ、こ、こんな額ど、ど、どこから」エルフは完全に動揺した。


「金貨百枚。それとドワーフに今後一切関わらない分でどうだ?」


「こんなことであいつを渡せるか!」エルフは強がった。


「そうか。じゃあ金貨はなし。殺し合いで解決するか?」クロは金貨をポケットに戻した。


エルフは店の剣を取ると震える手で襲い掛かって来た。


「殺してやる」


クロは剣を二本の指で掴むと、力を込めずに武器を跳ねのけた。武器が転がる音が店内に乾いた音で響く。


「終わりか?実力差はわかったと思うが、俺が冷静なうちに貿易都市から消えろ。次に目の前に現れてみろ。一瞬にして地獄に送ってやるよ」クロは殺気を込めた目でエルフを見た。


エルフはその場で失禁し、腰が抜けた。


「すみませんでした。お金は返しますからどうか許してください」


クロはお金を受け取るとバールの店に入っていった。店はもう閉店していた。


「悪いな。バール。預かってもらって」


「いや、お祝いで早く店閉めようと思ってたところよ」バールはわかりやすいウソをついた。本当は連れてきたドワーフが心配で店を閉めたのに素直じゃない。


「それで裏にいるのか」


クロとバールは作業場に行った。


ヒメとネイルは作業場の掃除をしていた。


「マスターおかえり。ちゃんと話できた?」ヒメは心配そうだ。


「ああ、出来たよ。ネイルは自由だ」


ネイルはクロとヒメに深く頭を下げてきた。だが、問題はこれからだ。


「ネイル行く当てはあるのか」


「それは……ない……です」ネイルは不安げに答える。


「それなら俺ん所で働かねえか」バールが話に混ざって来た。


「いいん……ですか」ネイルは驚いた顔をした。


「今店も繁盛してきてな。手伝いを雇おうと思ってたところよ。クロ別にいいんだろ?」


「そうだな。こちらからお願いする予定だったしな」


「おうよ。そんじゃ、腕前を見せてもらおうか」


「そ、そそんな急に言われても……」


「バッキャロー。職人ならいつでもやるんだよ。プライドはねえのか」バールは厳しく言った。


ネイルは覚悟を決めて、素材を選び、作り出す。一つ一つの動きが丁寧だ。


「ほう、温度は少し下げるのか?」バールは興味深そうに質問した。


「はい。こちらの方が加工するのに自由度が出ます」ネイルは自信を持って答えた。


「面白い。俺とは作り方や考え方が全然違えな」バールは感心していた。


ネイルは集中しながら、工具を使って加工していく。見入ってしまう、これが職人技か。


完成したナイフをバールに渡した。バールはじっくりとナイフを見つめた。


「きれいな出来だ。この腕ならうちで雇っていいだろう」


「っ……あ、ありがとうございます」ネイルは何度も頭を下げた。


「だが、作るのが遅すぎる。きっちり仕込んでやるからな」バールは師匠の顔になった。


「はい。頑張ります」


こうしてバールの店にネイルが働くことになった。これで少しは店がうまく回るだろう。

いつも読んでいただきありがとうございます。

クロの久しぶりに男らしいシーンが書けました。

最近はおチャラけていたので、こういうシーンが増えるようにしていきたいです。

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