第48話 ダンジョンへ行こう
朝になり、ヒメはテントの中で目を覚ました。昨日のことは夢か。なんか想像したら顔が熱くなり、ヒメは赤面して両手で顔を隠した。
ふと左手を見ると、銀の指輪が付いていた。昨日のことは夢じゃなかった。なおさら恥ずかしくなり、布団の上で喜びと羞恥でゴロゴロし出した。
「若いっていいのだ~」ウィッチがニヤニヤしながらヒメを見ていた。
「えっ?え……。もしかして全部聞いていたの……?」ヒメは慌てて尋ねた。
「あんなに面白い所見ないわけには行かないのだ」ウィッチは得意げな顔だ。
見られていた。あんなことしたのに声だけじゃなくて、全部見られていたなんて、どうしよう。クロに合わせる顔がない。どう会えばいいだろう。
「ウィッチのバカ。私お風呂入って来る」ヒメは混乱と羞恥でテントを飛び出すように出た。
外に出ると、朝日に照らされたクロが目に入った。何しているんだろう。木の前で真剣な面持ちで正拳突きの練習をしているのかな。ヒメはおそるおそる近づき、声をかけた。
「あ……あの……。マスター。おはよう」ヒメは変に緊張して言葉が出ない。
「あ、ヒメか。おはよう」クロは振り向かずに木に向かって拳を打ち込む。
「あの……。昨日の……こと……だけど……」ダメだ。昨日のことを考えると全身が熱くなる。
「昨日?寝ちまったからテントに運んだけど、いやだったか」クロは全く頓着していない様子だ。
「べ、べ、別に……そんなことはないけど……」
「今日なんか変だぞ。どうした。風邪ひいたか」
クロはヒメの方を見て、躊躇なくおでこをくっ付けた。ヒメは一瞬で真っ赤になり、熱に浮かされたようにふらふらし出した。
「風邪なら今日は休むぞ」
「女心がわからんやつじゃな。男になったのに情けないのぅ」ロウ達が出てきた。三人は一斉にこちらを見てにやけている。
さては昨日覗き見てやがったな。だからヒメがこんなに混乱しているのか。
「見てたんならわかるだろ。結婚したんだ。ヒメしっかりしろ」クロはヒメをゆすった。
「そ、そ、そう……私は、け、け、結婚し、したんですぅ」ヒメはもう恥ずかしさで限界だった。
「あんまりからかうな。ヒメがおかしくなったらどうするんだ」クロは少し眉をひそめた。
「え~面白いのはいいことなのだ」ウィッチはまだ楽しそうだ。
「主、ご結婚おめでとうございます。主の勇姿見させて頂きました」カゲは変わらぬ真面目さで言った。
「はいはい。この話はここまでだ。朝飯だ。腹減った。じじい暇なんだから早くしろ」クロは強引に話を打ち切った。
こうして結婚話は、これ以上クロが言わせなかった。ヒメも少しずつ慣れて行って、いつもの調子に戻った。
朝食を済ますと、一同はダンジョンへ向かって歩いた。ダンジョンに近づくにつれて、魔獣が多くなってきた。緊張感が高まる。
出発から一週間、濃密な魔力が異常に漏れ出している洞窟に辿り着いた。
「どうやらここのようじゃな。魔力が凄まじく漏れ出ておるわ」ロウは警戒心を高めた。
「いい場所だな。どんな魔獣がいるか楽しみだ」クロは武者震いしていた。
クロはカゲを引き連れ、迷うことなく二人で洞窟に一番乗りで突っ込んで行った。
「あ~あ。行っちゃったのだ。どうするのだ?」ウィッチは慌てた声を出す。
「まあ、カゲもいることだし、大丈夫です。多分……」ヒメはため息混じりに答える。
「あのバカもんが、これだけの魔力があるんじゃ、魔力のせいで能力が暴走する可能性を少しはわかんのか」ロウは不安の色を隠せない。
三人はヒメを先頭に進んでいった。ヒメの能力は「魔力」。この世界を司る力の源そのものだ。吸い取りも排出も両方こなせる万能能力。そのためヒメは周囲の過剰な魔力を吸い取りながら進んでいく。
クロはテンション高く、洞窟内で希少種ばかりのゴブリンの群れと戦っていた。
クロは攻撃を避けながら、一瞬のチャンスを狙っている。しかし、希少種のゴブリンは一体一体予測不能な動きで、群れで訓練されたような連携が取れている。最初でこれなら下の階層はもっと強い魔獣がいると思うと興奮が抑えられない。
「マスター。手伝う?」ヒメは一応聞いた。
「いや、一週間練習してた魔弾を試す」クロはヒメの手伝いを断った。
クロは一週間早朝に木を的に魔弾の練習をしていた。ここで動く実戦相手に試したくてうずうずしていた。
「エンジンギア・アクセル」クロは手と足を部分獣化した。
クロは少し後ろに下がり、右拳を後ろに下げた。体内の魔力が右拳に集中していく。ゴブリンたちが一斉に襲ってくると同時に右拳を振り抜いた。
「魔弾」
クロはゴブリンに直接触れずに魔力を放った。
衝撃波が走り、ものすごい勢いでゴブリンの群れを一瞬で一掃した。
「なんとかできたな」クロは満足そうに安堵した。
「小僧……。今のはなんじゃ。触れずに魔力を打ったというのか?」ロウは驚愕に目を見開いた。
「そうだ。俺の考えた一つ目の魔弾だ。触れずに魔力の強大な弾を打ち込むイメージだ」
「魔撃は触れてから魔力を流す技じゃ。それを触れないとは……小僧どこまで成長するんじゃ」
ロウは信じられないとばかりにクロを見ていた。ロウ自身やろうとしたことはあるが、どうしても出来なかった。触れずに魔力を飛ばすとは、こいつは将来まだまだ大物になる。
「さあ、次行こうぜ。次はどんなのに会うかな」
「待って、マスター私も一緒に行きたい」ヒメはクロの隣に並んだ。
「そうか、じゃあヒメも一緒に行くぞ」
クロはヒメを引き連れ、ダンジョンに進んでいく。ロウとウィッチも置いていかれないよう急いで進んでいく。
クロとヒメは二人であっという間に三階層まで着いた。ここには巨大なドラゴンがいた。青色かと思ったら、よく見ると水色。これも希少種だな。
クロは完全獣化し、一気に腹部に潜り込む。ヒメは飛んで頭部を狙う。
クロは腹部を殴るが、硬すぎて拳が通らない。ヒメはドラゴンの凄まじい咆哮で吹き飛ばされてしまう。
「ヒメ。大丈夫か?」
「問題ない。マスターは隙を作って、一撃をお見舞いするから」ヒメは周囲の魔力を拳に込めた。
「そうかい。でも、とどめは俺が決める」クロは両手を地面に付けて魔力を流した。
巨大な氷の柱『アイス・タワー』がドラゴンの腹部を突き上げ、巨体を持ち上げた。
ヒメは一気に踏み込むと、頭部目掛けて飛んで行った。
『マナ・ブレイク』強烈な魔力の一撃が顔面を破壊した。
クロはドラゴンの下から氷で上に押し上げると、魔力の一撃『ガイア・シュート』を胴体に打ち込み体内に魔力の攻撃を流し込んだ。
ドラゴンは力なく倒れ、討伐した。二人は完璧なコンビネーションだ。
「どうだ。俺の一撃で終わらせた」クロは自信満々に言った。
「違う。私の方が早かった」ヒメは断固として食い下がった。
二人はどっちが先に倒したか激しい口喧嘩が始まり、先ほどの連携が嘘のようだった。
呆れて周りが止めに入るが、お互い譲らない。負けず嫌いな所はそっくりだ。
「どっちが先でもいいのだ。倒せたのだからいいのではないのか」ウィッチが二人に冷静に言った。
「「良くない!!!」」二人は息を合わせて反論した。
こうして二人の口論はしばらく続いた。仲がいいのか、悪いのか。ただ言えるのはどちらも似た者夫婦ということだ。
ヒメは顔色が悪くなり、突然倒れた。周囲の過剰な魔力を吸い過ぎたのだ。クロはヒメを抱きしめ、話しかける。
「おい、しっかりしろ。全部吐き出せ」
「そんなことしたら、はあ……はあ……みんなが大変なことになる……」ヒメは苦痛に顔を歪める。
「わかった。俺に全部流し込め」クロは決断した。
「でもそんな……こと……したら……」
クロはヒメを強く抱きしめた。耳元でささやく。
「信じろ。俺は死なない」
ヒメはクロに過剰な魔力を流し込んだ。クロは魔力を流されている間、耐えるようにヒメを抱きしめ続けた。
ヒメの顔色が良くなった。
「良かった。大丈夫そうだな」クロは額の汗を拭う。
「うん。マスターありがとう」
二人は安心からキスをしたが、やってしまった。あいつらが見てやがる。
「ほっほほ、若いもんは熱いの~。こっちまで火傷しそうじゃ」ロウは目を細めて笑った。
「主、さすがです」カゲは微動だにしない。
「マスター。さすがに人前でラブラブすぎなのだ」ウィッチは大げさに言う。
クロとヒメはさすがに周りが見えてなかったと、反省と共に恥ずかしさで顔を赤くした。
それをさらにからかいだし、賑やかな雰囲気になった。
騒ぎが落ち着き、ここを本店にすると話し合いで決まった。
一旦ダンジョン探索は終了し、これから本店を作る。




