第46話 買い物をしよう
クロ達はギルド支部で昼食を取っていた。クロが入ると中にいた冒険者は蜘蛛の子を散らすように逃げてしまい、席がガラガラになっていた。そんなに嫌われることしたかな、とクロは考える。話は本店の話になった。
「小僧。本店はどこにする予定じゃ?」ロウが真面目な顔で尋ねた。
「ん?ダンジョンに決まってるだろ」クロはいきなり意味がわからないことを言い出した。
「ダンジョンなんかに作っても人が来ないじゃろ。何か考えがあってのことなんじゃろうな」ロウは半分諦めながらも尋ねる。
「この前、ダンジョンの情報を見た。そしたら、Aランクでも大勢で挑まないと危険な場所があった。赤と青の国の奥にある山の下に出来た地下ダンジョンだ。飯取り放題だな」クロは楽観的だった。
「まさか、ついでに魔獣と戦い放題とかいうんじゃないだろうな」
「そうだ。食材確保に訓練までできる一石二鳥の場所だ」
「小僧がいいならもう何も言わん」ロウは深くため息をつき、諦めた。
「このあとは、遠征になるからロウとカゲとヒメの三人で遠征用の道具を買って来てくれ。テント一つじゃ狭いだろ。調理器具もほしい。俺はウィッチとドワーフの店に行って素材の転移場所を作る。狩り取って保存じゃ面倒だからな」
「わかった。集合場所は宿でいいんじゃな」
「ああ、宿に集合だ。ついでに晩飯買ってきてくれよ。こっちは時間がわかんないし、朝早く出る予定だ」
「私はクロと一緒が良かった」ヒメは不満そうにクロを見つめた。
「まあ、好きなもの買っていいから」
「わ~い。じゃあ、ロウと行く」ヒメはすぐに機嫌を直した。
それぞれ二手に別れた。クロとウィッチは二人でドワーフの店に向かう。陽の光の下、ウィッチは楽しそうに話しかけた。
「クロはさ。ヒメちゃんのことどう思っているのだ?」ウィッチはからかうような目でクロを見た。
「何が別になんとも……思ってない」クロは言葉が詰まる。
「この天才魔法使いに任せなさいのだ」ウィッチは得意げに胸を張った。
「バカなお前に何ができるんだよ」
「まずはヒメちゃんの目の前でクロを爆発して男らしさをアピールするのだ」ウィッチは意味不明なことを言い出した。
「はあ~。ほんとバカ丸出しだな。まずは手加減を覚えろ。魔獣を毎回消滅されると食材がなくなる」
「う~。頑張って練習するのだ」ウィッチはしょんぼりした。
なんだかんだ話していると、バールの店に着いた。店は前より品数が増えていた。
「バールいるか?」
「なんでえ、クロか。どうした今日は。金なら払ったぞ」バールは大きな声で答える。
「違うよ。前に言ったろ。ここに転移魔術で素材送るって、場所は空けたか」
「ああ、そのことか。場所なら空けてある。ほれこっちじゃ」
案内されるとかなり広い空間が空けられていた。
「ここに転移させていいんだな」
「おうよ。素材を見て、振り込んどくからな」
「じゃあウィッチ頼む」
「これは少し時間がかかるのだ。大丈夫か」ウィッチは額の汗を拭いながら言った。
「どのくらいだ?」
「一時間ぐらいなのだ」
「いいよ。それまでバールに頼みたいものあるし、こっちに来てくれ」
「おう、なんじゃ、作ってほしいものとは?」
クロはバールに作ってほしい物を頼んだ。金は今後の素材代から引いてほしいとお願いした。バールは豪快に笑っていた。
「そうだな。それならいい素材があったからすぐに作れるぞ」
「じゃあ、作ってくれ。あとナイフ数本と頼んでた銃は?」
「ばかやろう!銃なんざすぐに作れるかってんだ。ナイフは出来てるよ。あとで持ってくる」
「やっぱり銃は間に合わないか。まあ、そのうち取りに来るわ。明日出ていくからさ」
「なんでえ、急に。何かあったのか?」
「いや、酒場作るのに少し場所遠くてな」
「じゃあ、依頼も減っちまうか」バールは残念そうだ。
「減らさねえよ。こんな腕利きなかなか見つけられねえからな」
「うれしいこといってくれんじゃねえか。よし待ってろ。最高の一品作ってやる」
「頼んだ。俺はちょっとふらふらしてくる」
クロは一人、向かいの鍛冶屋を覗いた。相変わらずの人気店だ。キラキラとした装飾が施された武器が並ぶ。エルフだけでやってるのか。それとも裏ではドワーフがいるのか。表から見ただけでは何とも言えない。店から店員のエルフがこっちに来た。
「うちに何の用ですか?」いきなりケンカ腰で怒っていた。
「いやあ、明日出かけるから掘り出し物ないかなって」さすがに敵情視察とは言えなかった。
「当店はお客様を選ぶのです。あなたのような身なりの汚い人間に、当店は向いてないでしょう」エルフの店員は冷たい視線で、きっぱり断って来た。
「ああ、すまんね。確かに貧乏人の俺には程遠い装備だ。もう帰るよ」クロは肩をすくめた。
エルフの店員は、クロの謝罪を聞くと鼻を鳴らし怒って帰ってしまった。なんだあいつ、金なら持ってるのに、武器屋でドレスコードを考えてこいってのか。クロはイラついた。
クロは出店で食べ物でも買うかと歩いていると、若い女性が屈強な見た目の男二人に裏路地に連れていかれるのを目撃した。
「いいじゃん。俺たちと一緒に遊ぼう」
「かわいいね。この辺じゃあんまり見ない子だ」
「いやです。帰してください」若い女性は泣きだしそうになっていた。
「おい!嫌がってるだろ」クロは止めに入った。
若い女性は隙を見て、クロの方に駆け寄った。クロが防衛隊に助けを呼ぶように指示すると、若い女性は一目散に走って防衛隊を呼びに行った。
「てめえ、俺らが誰だかわかってんのか?」
「知らん。自己紹介でもするのか?」
「てめえ、みたいなガキに名乗る名はねえよ」男はクロに向かって拳を振り上げて殴り掛かって来た。
「魔撃」クロは呟くと、正拳突きを男の腹部に一撃深く入れた。
一人吹き飛ぶのを見ると、もう一人が唸り声を上げて突っ込んで来た。
クロのローブがひとりでに動き、拳の代わりに男の腹部に重い一撃を入れた。
「う~ん。こんなんじゃだめなんだよな。悪いな。手を抜いて」クロは二人が倒れているのを後目に立ち去った。
「いい時間潰しにはなったかな。バールの店に戻ってみるか」
クロは武器屋に戻るとウィッチが暇そうにしていた。
「クロ。どこ行ってたのだ?まさか甘いもの食べてたのではないか?」ウィッチは不機嫌だった。
「悪い。散歩してた。帰りに好きなの食べていいから。機嫌直せよ」クロはウィッチを宥めた。
「本当か。じゃあ許すのだ」ウィッチはすぐに笑顔を取り戻したようだ。
クロはウィッチを待たすと、バールの所に行った。ナイフは完成していたようで、クロは受け取り重さやバランスを確認した。
「さすが腕利き職人。仕事が早い。じゃあまたな」
「おう、楽しみにしてるぞ。頑張れよ。クロ」バールは力強く言った。
バールに見送られながら、出店でウィッチのデザート選びが始まり、夕方に宿に着いた。ロウ達はすでに宿に戻っていた。
「じじい、買い物できたか?」
「誰に聞いとるんじゃ。いいもの買って来たわい」ロウは袋詰めされたたくさんの荷物を自慢げに見せた。
クロはロウ達が買ってきた荷物をローブのポケットにしまうと、みんなで買って来てもらった夕食を食べた。明日から貿易都市とは、しばらくお別れだ。
いつも読んでいただきありがとうございます。
ウィッチの転移の魔術は便利ですよね。
便利過ぎてどういう展開にするか考えるのがつらいです。




