第44話 ギルド結成
クロはヒメを連れて、宿に向かった。夜の帳が下りた中央貿易都市の喧騒は、昼間よりは幾分か落ち着いていた。宿の店主に一人分の追加料金を払った。
「別に女連れ込んでいいけど、静かに頼むよ」店主が疑わしげな目で注意した。
「そういうんじゃねえよ」クロは店主の注意に聞く耳を持たずに、ヒメを部屋に連れて行った。
「本当に疲れたな」クロはベッドに横になると、すぐにヒメが子猫のようにくっついてきた。
「なんだよ。ベッドは他にもあるだろ」
「いいじゃん。一緒に寝ても。据え膳食わぬは男の恥って聞いたことがあるけど、どういうこと?」ヒメは純粋な好奇心で尋ねた。
「わからない。お子様は一人で寝なさい」
「なんで私のこと嫌い?」ヒメは拗ねたような表情を浮かべた。
「いや、嫌いじゃないけど、こんな所見られたらまずいだろ」
「別に私は気にしないけど、クロは恥ずかしい?」
「わかったよ。いびきかくなよ」
「クロはもう少し女心を覚えた方がいいよ」
ヒメはクロにくっついて寝た。最近は眠れていなかったのか、すぐにすやすやと眠ってしまった。人が隣にいると気が散って眠れない。結局クロは寝ることが出来なかった。天井の木目をぼんやりと見つめながら、夜を過ごした。
日が暮れるとロウ達が帰って来た。部屋の扉をノックする音に、クロはすぐに起き上がった。
「おう、やっと帰って来たか。ちょっと起きろ。ヒメ」クロはヒメをゆすりながら起こした。
「ん~。まだ眠いよ」ヒメは寝ぼけて、クロにしがみついた。
「小僧なんてことしてるんだ」ロウは案の定怒り出した。
「クロ。私というものがありがなら、幼女に手を出すと最低なのだ」ウィッチは冗談を言いだした。
「主、お邪魔でしたら、時間を空けてお伺いします」カゲは真面目な顔で勘違いしているようだ。
「昨日言ったろ。こいつが俺らのギルドマスターだ」
「私ギルドマスターになるの?」ヒメは状況を理解できていない。
「そうだ。ヒメだ。みんなよろしくな」
三人はあっけにとられた。ヒメと呼んでいるが、昨日の話では武術国家の王女を連れてくると言っていた。本当に、この男は誘拐して来たのかと、ロウは疑念の目を向ける。
「小僧。誘拐してどうする?」
「待ってほしい。ロウ。私は自分の意志でここに来た」ヒメは、数年ぶりに会うロウを懐かしそうに見ながら、誘拐を否定した。
「まあ、クロがギルドマスターになってほしいなら、なってもいいよ。けど、ちゃんと私を支えてね」ヒメはクロをじっと見つめた。
「はいはい。これでわかったろ。誘拐してないし、女を部屋に連れ込んで遊んでたわけじゃない。これから飯でも食いに行くか?」
「わ~い。お腹減った。どこで食べるの?」
「ギルド支部の酒場でいいだろ。ヒメのギルド証作らないといけないし、ギルドも申請する」
クロ達はギルド支部に向かって歩いて行った。扉を開けると冒険者たちが大勢いて熱気に満ちた満席状態だった。
「見て。冒険者全員がクロを見ているよ。なんか怖い目してるけど大丈夫?」ヒメは不安そうにクロの服の裾を引いた。
「大丈夫だ。全員友達だからな。すぐに仲良くなれるぞ」クロは自信満々に答える。
「本当?すごい!クロは人気者なんだね」
冒険者たちは武器を取り、地を這うような足音を立ててクロに歩み寄って来た。
「ああ、いつからお前の友達になったんだ?死にてえのか?」冒険者たちは殺気立ち、クロ達を囲んで来た。
「本当に仲がいいのか?みんな怖い顔しているぞ」ヒメは顔を引きつらせた。
「みんな照れてるだけだ。すぐに席を譲ってくれるから」クロは涼しい顔だ。
「舐めたこと言ってんじゃねえぞ。おいやっちまえ」怒号が上がり、冒険者が今にも襲い掛かろうとした。
「まったく、カゲ。殺すなよ」クロは静かに命じた。
カゲは冒険者たちの前に出ると、ぞっとするような冷たい殺気を放ち、全員の動きがピタリと止まった。
「カゲお前、俺らにも殺気を向けてどうするんだ。特定の相手だけにやるんだよ」クロは呆れたように言う。
「主、申し訳ございません」カゲはクロに頭を下げた。
「まあいいよ」クロは動きを止めた冒険者たちに近づいて行った。
「少し席を空けてほしいんだけど、いいかな。友達だろ」クロは満面の笑みで話しかける。
冒険者たちは恐怖から悲鳴も上げずにギルド支部から飛び出して行ってしまった。ギルド支部は一瞬にして、シンと静かになってしまった。
「お~。カゲすごい。殺気だな。私も今度やってみようかな」ヒメは一人興奮していた。
カゲはクロの妃に褒められたのがうれしく、この二人に忠誠を勝手に誓った。
「主の妃。ありがたき幸せ」
「カゲ。俺は結婚してねえ。普通にヒメって呼べ」
「いいじゃん、別に結婚してても。クロは女心をわかってないな」ヒメは頬を膨らませて拗ねた。
「そうなのだ。クロは女心とは何なのかわかってないのだ」ウィッチが便乗して、ヒメと一緒になって責めてきた。
二人を無視してクロは受付を呼んだ。そして、ギルド証とギルドの申請をお願いした。ついでにダンジョンの情報が載っている書類を借りた。
「では、こちらがギルド証の申請書です。でも、子供は少し……」受付嬢はヒメを見て困っていた。どう見ても八歳くらいにしか見えないからだ。
「私は十五歳です。成人しています」ヒメは胸を張って答えた。
「……わかりました。それではこちらがギルドの申請書です」戸惑いながら受付嬢は渡してくれた。
「じじい。書いてくれ」クロは面倒くさがった。
「小僧が生意気じゃな。まったく少しはヒメを見習ったらどうじゃ」ロウはため息をつきながら申請書を受け取った。
「俺は面倒なのはいやなの」
クロ達は空いた席に座り、食事の注文をし、その間に申請書を書いていた。
「小僧。ギルド名はどうするのじゃ」
「ギルド名か。『ブラディー・プリンセス』だ」
「血の王女?小僧本当にいいのか?」ロウは心配そうに尋ねる。
「ブラディー・プリンセスかっこいいな。プリンセスは私の事か?」ヒメは目を輝かせて喜んだ。
「そうだ。プリンセスはヒメのこと。血は俺の恩師の一部から取った」
「わかった。それじゃ、その名で申請するかの」ロウはクロとヒメの反応を見て諦めた。
「酒場の名前はどうするんじゃ」
「それも書かないといけないのか」
「小僧、酒場をやるといっておったじゃろ。先に申請するんじゃよ」
「そういうもんなのか。完成してからつけたかったのに……。」
「どうしたのだ?クロは何も考えてなかったのか?」ウィッチがからかう。
「いや、決めてるよ。酒場の名は『ディスカラー』」
「小僧にしてはいい名じゃないか」ロウは少し感心した。
「なんかクロっぽいのだ」
「私もそれがいい」
「主、私も賛成です」
酒場の名前は満場一致で賛成のようだ。「色を変える」。クロの考え方に合っている。こうしてギルド名は『ブラディー・プリンセス』、酒場の名前は『ディスカラー』になった。申請書を受付に出して登録が済んだ。
料理が運ばれてくると、みんなで乾杯をする。
「ブラディー・プリンセスの今後の活躍とディスカラーの繫盛を願って……乾杯!!!」
「「「「乾杯!!!」」」」
みんな楽しそうに食事をした。クロは相変わらず山盛りの量の食事を食べていた。クロからみんなに伝えた。
「今日から俺は酒場のマスターだ。これからはマスターと呼べ」クロは笑いながら話した。
「マスター。なんかかっこいい」ヒメは浮かれて喜んだ。
「クロでもマスターでもどっちでもいいのだ」ウィッチは気にしていなかった。
「主は主です。そんなマスターだなんて……」カゲは主と呼びたいようだ。
「小僧は小僧じゃ」ロウはアホを見るような目で呆れていた。
「いいだろ。マスターかっこいいだろ。見てるかな。ブラッド」クロは誰にも聞こえないほどの小さな声で呟いた。
ギルド結成の宴会は大いに盛り上がり、夜遅くまで続いた。
いつも読んでいただきありがとうございます。
ここまで読んでくださっている方ならわかる通り、
酒場はブラッドの夢でクロはそれを叶え、ブラッドの名前を入れました。
物騒なギルド名になりましたが、当初はプリンセスの予定でした。




