第43話 王女の決意
クロとヒュメルドーナは今にもケンカしそうな雰囲気だ。
「貴様、これ以上私を怒らせるなら、この世界一の拳をお見舞いする」ヒュメルドーナは拳を構えた。その表情には強い怒りが滲んでいた。
クロはいつもなら喜んで戦うが、今回はそんな気分ではなかった。
「何でこんなところでやるんだ。相手にしてられるか。ガキが」
「ガキって、ほとんど年なんて変わらないだろ。貴様こそ前に見た時より弱くなったな」王女は口が悪くなっていた。
クロは笑い出した。アハハハと大きな笑い声が静かな部屋に響く。ヒュメルドーナはあっけにとられた。なんで突然笑いだすの。何がおかしいの。
「あははは。少しは素が出せるじゃねえかよ」
「別に関係ないでしょ」ヒュメルドーナは顔を赤くした。
「自分に素直になれよ。自分の人生ぐらい親に決められてどうする」
「でも、父上が言うなら私は……」
「それが父の言葉じゃないならお前はどうする?」
「どういうことだ」
クロは王女の部屋のカーテンを開けて、義母の部屋を見せた。義母は男を五人連れ込んで、裸で遊んでいる。
「それがどうした。いつものことだ。カーテンを閉めろ。もうあんなの見たくない」ヒュメルドーナは視線をそらした。
「あいつの能力は魅了だよ。あの様子じゃ一人が限界だろうがな。結婚してから父親には触れたか?」
「父上とは近づかなくなった。いつも隣に義母がいて、『そろそろ大人になりなさい』って」
「聞いた話だとお前の父親は武闘大会で負けて、日々特訓していたんだよな」
「そうだ。毎日止めても特訓を止めなかった。次こそは勝つって」
「そこで魔力が減ったところにあいつが来て、魅了をかけた」
「!」ヒュメルドーナは全てわかった。顔が蒼白になる。
「そうだ。お前が近寄れば、魔力が回復して、魅了が解ける可能性がある」
「じゃあ、父上がおかしくなったのも」
「そうだ。全部あいつが裏で操ってるだけだ。お前はそれをはいはい聞いて結婚までするって言いだしたんだ」クロは真実を話した。
「私はどうしたらいい。私が早く気が付いていれば、民は苦しまなかった。私の責任だ」とヒュメルドーナは下を向いて、泣きだした。
クロは椅子から立ち上がり、ヒュメルドーナの前で跪き手を取り、目を見つめた。
「お前を自由にしてやる。これからは悪を見て見ぬふりをしない、その拳で世界を塗り替えろ」
「私が世界を塗り替える?」ヒュメルドーナは突然すぎて意味がわからなかった。
「俺と一緒に色に縛られない、色なんて関係ない世界を作るんだ。お前は何色にも染まらなくていい」
「本当にそんなことが出来るのか?」ヒュメルドーナの目に光が戻る。
「これから一緒にやるんだよ。そのためにお前に会いに来た。俺は武闘大会で一目見た時から決めたんだ。こいつなら世界を変えられるって」
「私は本当に変われるか?」
「大丈夫。俺はお前と一生一緒にいてやる。俺の傍にいてくれ」クロは真剣な目で見つめた。
「いっ、いっしょういっしょに……。本当だな」ヒュメルドーナは赤面しながら、クロの手を強く握った。
「もちろん。絶対に誓う。俺は傍にいてやる」クロは手を握り返した。
ヒュメルドーナは目を閉じ、クロに近づいた。
「さあ、まずは最初の仕事だ。どうした赤くなって」クロは立ち上がった。
「別になんでもない」ヒュメルドーナはさらに赤面し、頬を膨らませた。
クロとヒュメルドーナは義母の部屋の扉の前に来た。
「さあ、悪を裁く時間だ」クロはヒュメルドーナに言うと扉を蹴り、破壊した。
部屋の中にいた義母と男たちは、驚いて、こちらを見る。義母はタオルを巻くと、怒り出した。
「ヒュメルドーナ何をしているの!あなたは部屋で大人しくしていなさい。その隣の男は誰よ」
「お母さま。お聞きしたいことがございます。父上に魅了をかけているのは本当ですか?」ヒュメルドーナは怒りの表情で義母を睨みつけた。
「そ、そんなバカなことあるわけないじゃない。どうしたのこの子は?」義母は白を切った。
「では、私は今から父上の部屋に行って、父上に触れても問題ないですか?」ヒュメルドーナはさらに追い詰める。
「そんなことしてどうなるのかしら、おかしな子。結婚の緊張でおかしくなったのかしら」
義母はヒュメルドーナに近づいていく。後ろの手には瓶が握られていた。
「本当に寝た方がいいわ。ヒュメルドーナ。今日は疲れているのよ」義母は瓶をヒュメルドーナの頭に目掛けて振りかざした。
義母は一瞬にして吹き飛んだ。何が起きたかわからない男たちは混乱していた。
ヒュメルドーナは義母に近づく、手をかざすと苦しそうにしていた。魔力を吸い取っていた。義母は呼吸困難のようになり、肌の色が悪くなっていった。そうしてピクリとも動かなくなる。
「あなた方は今夜見たことは忘れなさい」ヒュメルドーナは裸の男たちに警告した。その声は冷たい威厳に満ちていた。
「「「「「はい!」」」」」男たちは服も着ないまま、部屋から全力で駆け出して行った。
「これで父上は元に戻る。でも私はここには居られない」ヒュメルドーナは安堵と悲しみから泣きだした。
「バ~カ。一緒にいて罪を背負ってやるよ」
クロはヒュメルドーナをお姫様抱っこするとガラスを割り、城から飛び出した。
クロは地面に思いっきり両足で着地をした。その衝撃で足が折れた。ボキッという音が響く。
「何をしているんだ。このバカは」
ヒュメルドーナはクロの前で初めて笑った。こんな考えなしで飛び降りるなんて本当にバカだ。でも、この人ならついて行ってもいいと思えた。
「いい顔するな。その顔の方がかわいいぞ」
ヒュメルドーナはかわいいと言われ赤面した。
「は、は、はずかしいから、そ、そのかわいいとかいうな」
「別にいいだろ。事実は事実。さて足も治ったし、行くか」クロは治った足で立ち上がった。
「行くってどこに?」
「貿易都市だ。仲間がいるからな」クロは走り出した。
「貿易都市?もしかしてこのまま走っていくのか?」ヒュメルドーナは呆れていた。
「帰りのこと考えてなくてな。乗り物持ってくるの忘れてた」
「あははは。貴様は本当に面白いな。名前を聞いてなかったな。なんて言うんだ」
「ああ、言ってなかったか。クロだ」
「クロか。そうかクロ。よろしく」
「ああ、頼むぞ。ヒメ」
「ヒメ?なんだそれ」
「ヒュメルドーナ・メラクレスなんて長くてしょうがねえだろ。頭文字取ってヒメだ」
「そうか。ヒメか。気に入った。じゃあクロは王子か?」
「俺はそういうガラじゃない」
ヒメは唐突にクロにキスをした。クロは走るのを止めた。
「あの~。つれだしてくれた。お、お礼だ」ヒメはさらに赤面した。
「別にもう一回してもいいんだぞ」クロはヒメをからかった。
「別にそんな何回もするもんじゃないぞ」ヒメは赤面した顔を手で隠した。
こうしてクロはヒメを連れて、月明かりの中、楽しそうに貿易都市に向かうのであった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
ヒメちゃんはかわいい子供っぽいキャラです。
お嬢様で世間知らずでクロに惚れてしまった。




