第38話 ロウの約束
クロ一同はロウのバーの中に入った。小さい小屋のため、カウンターとテーブル1席しかない。酒は種類が豊富で、簡易的なキッチンもあった。ロウは小屋の中で寝泊まりし、夜になると店を開けるようだが、見た目が小屋ということもあり、人は来ないようだ。3人は好きに注文した。
「俺はおすすめで。あとつまみもよろしく」
「主と同じものを……」
「うちは甘いのがいいのだ」
ロウは注文を受けると手際よくカクテルを用意した。惚れ惚れする動きだ。同時に料理も準備している。クロはこれだと思った。
ロウは料理と酒を持ってきた。うまそうだ。3人で乾杯した。酒もうまいし、料理もうまい。
「なあ。じじい。これ何の肉だ?」
「ああそれか。その辺にいた魔獣じゃよ」
「これおいしいのだ」ウィッチはバクバク食べていた。
「じじい。どうやって下処理したんだ」
「普通じゃよ。内臓抜き取って、血抜きもして、保存しておる」
「決めた!じじい。お前俺の仲間になれ!」
クロは急にロウを誘った。周りは驚いた。強いが年老いている。クロは本気だ。酒も作れて、魔獣肉の料理ができる理想の存在だ。
「わしはここから離れる気はない。すまんな」
「いや。じじい。お前じゃないとダメだ」
カゲとウィッチがクロを宥める。
「俺と酒場を作ろう。楽しいぞ。色んな国の奴が集まる酒場を作るんだ」
「わしはな。死ぬまでここにおらんと行かんのじゃ」
「なんでだよ」
「ばあさんと約束したからのう」
「結婚してたのか?」
「結婚か……。してあげればよかったのかのう……」ロウの表情に深い影が落ちた。
「何があったんだ?」
「聞いてもつまらんぞ」ロウは自分で酒を注いで、一杯飲んだ。
ロウは昔を語った。若い時のロウはナッシングとして生まれ、能力者に負けたくない思いから、我流で武術の特訓をした。魔力は人一倍あったのもあって、魔力を使った攻撃を練習し続け、冒険者になった。ギルドには所属せず、ノラでどこかに混ざって討伐をしていた。そんな時、一件の討伐依頼が目に入った。ミラードラゴンの討伐だった。全ての攻撃を跳ね返す、幻の龍の討伐。この依頼を1人で受けた。腕試しをしたいと考えた。ロウは1人で依頼の場所まで行った。山の先にいる強大な魔力を感じた。全身から汗が噴き出てくる。恐怖が全身を支配したが、覚悟を決めて、歩みを進めた。勢いよくミラードラゴンの前に飛び出した。
「!!!」
ミラードラゴンは老いて弱っていた。だがそんなことはどうでもよかった。
「美しい」不意にロウは呟いてしまった。
ミラードラゴンは純白で光を反射し、周囲を照らす。ロウは一目惚れしてしまった。ミラードラゴンは襲ってこない。ロウは頭を撫でた。
そこからロウは龍の看病をした。食べ物を取って来ては食べさせ、水を汲んで来ては飲ませた。龍は少しずつ元気になった。ロウは龍の横に座った。
「なんでだろうな。お前といると心が落ち着く。このままこうしていられればな」
龍はロウの頬を頬擦りした。
「なんだ。お前も一緒にいたいのか。かわいい奴め。そうだ今度おいしい酒を持って来てやるよ。お前と同じ純白の酒なんだ。お前がもっと小さければ酒場で一緒に飲めるのにな」
龍は喜んだ。こんな幸せな日々が続けばと思った。だが、そうは続かない。
依頼を受けた冒険者が100人近く来ていた。
「動くな。この人食いドラゴン今討伐してやる」冒険者たちはロウが食べられると思ったようだ。
「やめてくれ。このドラゴンはいい奴なんだ」ロウは必死に伝えた。
冒険者たちは聞く耳を持たずに、ミラードラゴン目掛けて魔法を打ち込んできた。
ロウは自分を盾にした。身体は焼け、穴だらけになって、そのまま倒れた。
ミラードラゴンは雄たけびを上げた。悲しみからか、それとも怒りか。冒険者たちはビビって逃げ出してしまった。
ロウは瀕死の状況だった。ミラードラゴンはロウに近寄り、涙を流した。
ロウは意識がもうろうとしていた。遠くに白い光が見えた。そこに吸い寄せられるように向かって行った。
「ありがとう。あなたに会えてよかった。これからはあなたと共に……」謎の女性の声が聞こえた。
ロウは目を覚まして、周りを見ると1人になっていた。ミラードラゴンはどこに行ったんだ。身体は治っていた。こうしてロウは1人になった。
武闘大会に出たのはバーを作る資金が欲しかったからだ。酒を揃えたら資金がなくなり、小屋になった。だが、不満はなかった。きっとこうしていればミラードラゴンが来てくれると信じていた。
話し終えるとウィッチは大号泣していた。クロは酒を飲み干して話した。
「わかった。じゃあ一緒に酒場を作ろう」クロは陽気に誘った。
「何も聞いとらんだろう。わしはばあさんをここで待つんじゃ」ロウは頑なに断った。
「何言ってんだ。じじい。お前の中にいるじゃねえか」
「「「!!!」」」カゲとウィッチ、そしてロウの顔に驚愕の色が広がる。
クロは最初見た時から気づいていた、ロウの中に純白の龍がいることを。ロウがナッシングと言ったが、能力を持って生まれたことを知っていた。
「じじい。お前特殊な強化系能力者だ。魔獣を取り込んで力を使える能力、『籠』みたいなもんだな。龍の方から入り込んで、治療したんだな。俺の赤い目は能力を見抜くから確かだ」
「そうか。わしの中で守ってくれていたんじゃな」ロウはしんみりした。
バーもしんみりしてしまった。
「ほら、今夜は宴だ。じじい。酒持ってこい」
クロが言うと、一気に盛り上がって宴会になった。夜遅くまで酔っぱらって飲んだ。全員が酔って寝静まるとクロは目を覚ます。そこには外に出ていくロウの姿だ。
ロウはグラスを2つと純白のお酒を持って、月を眺めて、酒を注いだ。
「なんじゃよ。ずっとこうして一緒に飲めるようにこの酒は開けずに置いておいたのに、こんなに近くにいたんじゃな……。なあ、ばあさんや。一緒にあいつらと行ってもいいかの?久しぶりなんじゃ。お前さんに会った時以来かの。年甲斐もなく、ワクワクしとる。どうか一緒についてきてくれるかの……」ロウは泣きながら1人で話した。
クロは聞かない振りをしてテーブルで眠りについた。
いつも読んでいただきありがとうございます。
ロウが1人で酒を飲むシーンなんか男らしくてかっこいいと思います。
何か背中で語る一面って萌えますよね。
ロウの能力は現在反射になっています。
武術国家でのクロが吹き飛ばされたのが、それにあたります。




