第35話 カゲの正体
クロの目の前には黒い霧のように大きく立ちこめる、横幅10mほどの影の化け物がいた。これがドワーフたちの噂の正体だろう。
「なあ、お前がドワーフを驚かせてるやつなのか?」
クロは目を赤くし、相手を見た。これは物質系の能力者か。殺気もないし、何が目的なんだ。
「ユルさない・・・」森に響く、深く、空虚な声で影は呟いた。
クロはゆっくりと歩みを進めて、近づいて行った。
「ちかヨルな・・・。コロすぞ・・・」
影の触手がクロを狙って飛んできた。だが、クロは避けずに進んでいった。
「!」影が動揺した。
触手はクロを全てギリギリでかすめて行った。
「なんデよけナイ・・・」
「当てる気なんてないんだろ」クロは真っ直ぐな瞳で見つめた。
再び触手が飛んできた。だが、クロを避けて通っていく。
「なんデ・・・。なんデ・・・。」影は動揺し、揺らいでいる。
「まあ、お前良い奴だろ」クロは笑った。
大きな影は小さくなり、一人の男が出てきた。黒い髪は長くボサボサで、見た目は自信がなさそうなのを除けばイケメンだ。服は汚れてボロボロだった。
「俺の事なんかわかるわけないんだ」今にも死にそうな絶望の顔で男は言った。
「ああ、わかるわけないだろ。だが、お前はいい奴だ」きっぱりと言い放った。
「変わったやつだな。名前はなんていうんだ」少し声色が変わった。
「クロだ。お前は?」
「俺は名前ない。集落では異形扱いだったんだ」
「ふ~ん。そっか。じゃあお前はカゲだな」
「俺がカゲ。俺の名前か」カゲは嬉しいが戸惑った。
カゲは過去を語った。カゲの生まれた小さい集落は、強化系能力者が伝統として崇められ、強化系のみで集落が形成されてきた。そこでカゲは物質系で生まれ、異形の物として親からも集落からも差別を受けてきた。何をしたわけでもなく、ただ生まれてきただけなのに、そこには大きな格差があった。誰も助けてくれず、声をかけても無視をされ、意味もなく殴られ続ける日々。そうした不満から15歳を過ぎた頃に集落を飛び出し、人間に恨みを持っていた。人を脅かし、物を奪い、食べ物を確保する日々、目標なんてものなど無縁な生活が何年も続き、とにかくその日を生きることに必死だった。世界に絶望した。最近はドワーフを脅かして、鉱石や道具を奪って売ろうとしていた。結果として、ドワーフから化け物の噂が流れ始めたというのが事の真相だ。
「そっか。じゃあお前、俺の影として支えろ」クロは過去の話を聞いていきなり発言した。
クロの目は真剣そのものだ。今まで見てきた人間と違って、怯えも何もない。
「なんで俺なんか」
「俺はさ。悪を裁きたいんだよ。お前なら出来るだろ」
「でも……。俺は……」
「俺は強化系でもねえ。獣化系と放出系だ。能力の系統なんて興味ねえ。差別なんてなくしてやるよ。なんならカラーズの国境すら無くしてやる。俺が色なんて関係ない世界を作ってやる」クロは堂々と言い放った。
カゲは笑ってしまった。嘘でもそんなことを言えるなんて、自分より小さいこんな子が、世界を作るなんて、変わっている。だが、面白い。俺はこいつについていけば、変われる。そう思ったら、今まで感じたことのない高揚感に包まれた。
「その世界を作るために何をするんだ。ただ殺すのか?」カゲは真面目に聞いた。
「そうだな。悪党は殺しもするが、まずは酒場だな」クロは突拍子もないことを言った。
「酒場?酒場って酒飲む場所だろ」
「そうだ酒場だ。俺は酒場を作りたい。カゲ協力しろ」
「意味がわからない。だが、見てみたい。主の作る新しい世界を」
「主?俺か。そんなたいそうなもんじゃねえよ」
「いえ。我が主。あなたの影として支えさせていただきます」カゲは深々とお辞儀をした。
「じゃあ、ついてこい。見たことない世界を見に行くぞ」
「は!」
「とりあえずは酒に詳しいやつだろ。あとは料理が出来る奴もいいよな。あと店を作れる魔術師がほしい。あとはかわいい店員がほしい。ああそうそうめちゃくちゃ強い奴もほしいな」
「まだ、誰も仲間がいないんですか」カゲは呆れて聞いた。
「ああそうそう。カゲが一番最初だ。これから旅して探していくんだ。楽しいぞ」
「かしこまりました。主、次はどちらへ」
「う~ん。貿易都市にでも向かってみるか。物もあるし、人もたくさんいる。でも遠いか?ここどのへんだ?」
「すみません。主、地理には疎い物で……」
「まあいいか。適当に歩けば着くだろう」クロは楽観的に考えていた。
「そうおっしゃるのであれば、いいんですが……」
「その堅苦しい話し方やめろよ。お前のが年上だろ」
「いいえ。私を導く主なので」
「まあいいか。執事みたいでなんか面白いしな。お前は執事に任命だ」
「ありがたき幸せ。命尽きるまで主に使えさせていただきます」
「ん?でも、俺より早く死ぬのはダメだから。命も張るなよ」
「何故ですか?」
「だって、仲間がいなくなったらいやだろ」
クロは子供のような笑顔で話しかけていた。この人は真っ直ぐ何かを見ている。まだ、自分にはわからないが、この主のため、やれることをやっていこうと誓った。
「というわけで、適当に森抜けるか。俺の影に入ってろ。ああでもさ、カゲの集落ってどこにあるんだ?」
「歩いて一日ぐらいの所にありますが、それが……」
「まずそこを潰す。案内しろ」
「かしこまりました。案内いたします」
二人は暗い森の中を歩いて行った。カゲの案内もあって迷わず本当に一日で着いた。木で砦が作られ、夜も相まって、人を寄せ付けたくないのが見てわかる。
「カゲ。ここがその集落なのか」
「はい……。そう……です」
「じゃあ、入ってみるか」
クロは集落を堂々と入ろうとしたが、門番が止めに入った。
「待て、何者だ?」
「ん~。関係者だ。通してもらう」
クロは力ずくで入っていった。警告の鐘が鳴った。鐘を聞いてぞろぞろと集落の人間が集まった。
「カゲ出てこい」
カゲはクロの影から出て来て姿を現した。集落の人間はカゲを見るなり、嫌悪感を示した。
「お前みたいな異形が来ていい場所ではない」
集落全員が囲み拳を構える。クロは呆れていた。これは変わらない。ここで潰す。
「カゲお前に任せる。全員逃がすな」
「主の仰せのままに」
カゲは周囲の闇を取り込むと、集落の人間を貫いた。襲ってくるもの、怯えて動けないもの、逃げたしてしまうもの、そのすべてを影が貫いた。
クロは小屋の扉を開けた。そこには集落の大人一人が五人の子供を匿っていた。クロを見た途端、集落の大人が襲って来た。
クロは避けると、首を切った。集落の大人は倒れてしまった。
「このナイフ切れ味悪くなってきたな」クロはナイフを眺めていた。
カゲがクロに近寄り、報告をした。
「主、終わりました」
「そうか。ならこのガキだけだな」
クロは子供たちに近寄り、質問をした。
「おいガキども。強化系能力以外は悪か?」
「そうだ。昔異形がいたせいでこんなことになった」
「しきたりを守らなかったからだ」
クロは小屋から出て行った。カゲに指示をする。
「殺せ」
カゲは小屋の中の子供たちを殺した。悲鳴が聞こえてくる。
「どうだ。カゲ。復讐を果たした気分は?最高か?」
「申し訳ございません。主。何も変わりません」
「そうだろ。復讐なんかしても気分は晴れねぇよ。ただ差別の芽を摘み取った」
「それでは、何のために?」
「もう昔のお前は今日ここで死んだ。これからは俺の影だ」
二人は集落を燃やして後にした。集落は悲しげに燃え続けた。




