第33話 決別
町は氷が解け、水たまりが光を反射して、先ほどまでの天変地異のような出来事がウソのような静けさであった。あたりには茶色い土と灰色の石材が広がり、激戦の跡を物語っていた。
「おわったの?」ダミアは状況がわからず、か細い声で呟いた。
「大きな気配が消えた。多分赤の王だ」ダンガンが、広範囲に及んでいた圧倒的な魔力の消失を感じ取っていた。
「確かにあの大きな気配は消えたよ」テツオが同意する。
アレスはエルンを心配して、「エルンさん、奴隷の刻印はどうなりましたか」と尋ねた。
エルンは服をめくる。刻印は黒々としたまま残っていた。ブラッド先生が命懸けで守った人だ。これからは自分が代わりになろうと、アレスは胸中で決意していた。
「まだ残っているみたいだな。刻印はその魔術師がいなくなっても残るんだ。別の魔術師に消してもらわないと残ったままだよ」エルンは悲しい色を帯びた表情で言った。
城の方からクロがゆっくりと歩いてきた。その足取りは今にも倒れそうなほど弱っていた。あんな無防備なクロを見たことがなかった。クロはメテスに近寄り、ガウスの残した黒いローブを見せた。
「王は死んだ。これからは王子であるお前が王なんだろ?」
「お…おそ…おそらくそうなる」
「奴隷を解放し、兵器開発を止めるか?返答次第ではお前も殺す」クロは殺気を込めた黒い魔力の圧を加えた。
「あ…ああ…もちろん。ど…奴隷魔術の刻印は消すように、魔術師を手配する。兵器も分解して処分する。これからは力で国は支配しない。約束する」メテスは座り込んでいたが、恐怖を押し殺し、立ち上がり、正面を向いて宣言した。
「なら、赤の王はお前でいい。ただ、少しでも悪い噂が流れた時は容赦なく、首を取る」殺気を込めた目で睨みつけた。
「わかりました。これより国の復興に尽力します。必ず変わったと言わせてみせます」
「ならいいや。あと王は兵器の事故で死んだことにしといて」クロは殺気を出すのを止めた。
「はい。見ている者がいないので、そのようにしておきます。この国を救って頂いた以上悪いようには致しません」
「ならさっさと魔術師を呼ぶ手配をしろ」
「はい」メテスは急いで城の方へ走っていった。彼の背中は決意の白さと不安の影を帯びていた。
これから赤の国は忙しくなるだろう。奴隷だった者は黙ってない。意味も解らず連れていかれ、不要になったら見せしめに殺される。そんなものを見せられて解放されても、恨みは消えないだろう。どうするのか、新しい王の腕の見せ所だ。
クロはメテスが城の方へ行ったのを見ると、エルンと四人の方へ近づいていった。
「エルンの刻印が消えるまでは一緒にいてやれ。どうなるかわからないからな」
「任せろ。だがクロ、お前はどうする?」アレスは聞いた。
「俺はここから去る。問題を大きく起こしすぎた。いればどうなるかわからないからな」
「どこに行くんだ。行く先はあるのか」
「そもそも成人したら施設から出る気でいた。それが早まっただけの話だろ。施設のみんなにはよろしく言っておいてくれ」
「そんなわけにはいかないだろ。お前は勝手に罪を背負って生きていくのか!」アレスはブラッドの死もあり、瞳が潤み、泣きそうになった。
「この世界は法では裁けない悪もある。違うか?」
「そのために法があるんだろ!」アレスはクロの胸ぐらを掴んだ。
「その法はブラッドを守れなかった。ブラッドは法を犯していないだろ。なんで死んだ。誰が守ってくれるんだ。法は誰も守ってくれないんだよ。悪はその場で消す必要がある」
「そんなことしたら、お前が殺人の罪で追われるんだ!」
「そのぐらいで済むなら安いもんだろ」
「なんでお前は一人で背負って生きようとする!」
「俺には国がどうとか関係ないんだよ。どんな悪でも裁く。お前にその覚悟はあるか!」クロはアレスに鋭い殺気を向けた。
アレスは手を離してしまった。なぜ手を離した。ダメだ。このまま離しては、クロが遠くに行ってしまう。だが、身体が動かない。覚悟がないっていうのか。僕はクロを一人にしないって誓っただろ。所詮、僕は口だけの偽善の正義を語っているだけなんだ……。アレスの心は深い灰色に沈んだ。
クロは四人に背を向けて、ガウスの残した黒いローブを羽織った。ローブのフードを深々と被った。サイズは大きかったが、少し魔力を流すと小さくなった。これは便利だ。魔力がほとんどなくなったから、試したいことが出来ないが、今はこれでいい。
こうしてクロと四人は別々の人生の選択をした。クロはどこに行ったか分からなくなった。
赤の国で起きた事件は広まったものの、「カラーズの王が一人やられた」という話など、にわかには信じられずに色々な噂が出回った。メテスが王子から王になった時、ガウス元王は兵器の事故で死んだことを大々的に発表したことにより、そんな噂は無くなっていったが、兵器を開発していたことが判明し、赤の国の評判は地の底に落ちた。
しかし、赤の国はそこから持ち直し、鉱物資源の名産地として再び名を上げるのだが、それはまだ先の話である。
いつも読んでいただきありがとうございます。
ここまで読んでもらえてうれしいです。
次から新しい章になります。
本来ここから始める予定の話でしたが、物語の全体を掴んでほしいと思い、1章を書きました。
少しゆっくりした展開が続きますが、キャラの個性を楽しんでもらえたらうれしいです。
いつも4人ほど最新話が上がるとすぐに読んでいただけおり、大変うれしく思っております。
ぜひ次も楽しみに読んでください。




