第31話 別れ
第31話 別れ
クロが敗北し、ブラッドたちは絶望した。あのクロが負けた。王とはそれほどまでに強いのか。エルンと子供たちを連れてなど、到底逃げられない。どうしたらいいんだ。
一人の細身で小柄な魔術師がガウスに近づく。
「ガウス王。遅くなりました」魔術師は頭を下げた。
「うぬ。いや、ちょうどいい。これから奴隷を処刑する。こちらへ寄こせ」
「はは!仰せのままに。さあこちらに跪け!」魔術師は杖をエルンの方へ向けた。
エルンは意識が無くなり、急に立ち上がった。そしてゆっくり王の元へ歩き出す。
ブラッドは力尽くで止めようと必死に引っ張る。こうなったら、ブラッドは輸血パックをすべて使い、血を操ってエルンを拘束した。
「エルン、正気を取り戻すんだ。おい、聞こえているだろ」ブラッドは必死に声をかけた。
エルンに電撃が走り、痺れ出した。奴隷魔術の命令を無視したからだ。
ブラッドはどうしたらいいかわからなくなった。混乱し、友を救いたい。魔術が止まれば、何とかなるのか。そう思った瞬間、ブラッドは先のことを考えず、行動に動いた。
「お前さえ、殺せば!」ブラッドは魔術師目掛けて、血で鋭い槍のようなものを作り、向けた。
周りが見えなくなったブラッドは、魔術師目掛けて、両手を切り、血をさらに追加して走った。
「これでどうだ!」魔術師目掛けて、攻撃をした。
しかし、ガウスのローブはブラッドの血を簡単に防いだ。
ブラッドは頭が真っ白になった。全力の一撃を放った。それを簡単に防がれてしまっては、どうしようもない。この王は到底どうにかできる相手ではない。ただの化物だ。
ガウスはブラッドに一撃を加えた。ブラッドは吹き飛んでいった。エルンは痺れて動けず、四人は恐怖で身体が動かない。王子メテスも怯えた表情で動かないでいた。
「もうよい。我自ら、処刑を下す」ガウスはゆっくりとエルンに近づいていく。
一歩一歩が地響きを鳴らして歩いていく。ガウスの怒りを表すように火山が大きく噴火した。凄まじい熱気のはずだが、恐怖しか感じない。そんな恐怖が歩み寄って来るんだ。
全員が絶望した。
一方。
クロはどれくらいかわからないが、獣化が解けて、気絶から目が覚めた。ガウスから一撃貰う瞬間に水のボトルを潰して、身体の間に氷のクッションを作って、衝撃を和らげたのだ。
「ったく。ほとんどの骨が折れてる。だが、まだだ。次こそ」クロは獣化して上にある赤の国を眺めた。
残った水のボトルはあと一本。急いで登るならここで使うしかない。最後のボトルを潰した。
「待ってろ。勝つのは俺だ」クロはにやりと笑って言った。
そうして赤の国では、ガウスがエルンに近づきつつあった。ブラッドは急いで起き上がり、エルンに近づいて、背に乗せると四人の方へ連れていく。
「俺が引き付ける。その間にエルンを連れて行ってくれ」ブラッドは必死の懇願をした。
「でも、それじゃ先生が……」
「先生も一緒に逃げましょう!」
「クロだって、殺されたのに先生までいなくなるのはいやだよ!」
「一緒に来てください!」
四人はブラッドが一緒に来ないと嫌だとごねた。それもそうだ。四人にとっては見ず知らずの人のために死ぬと言っているのだから。だが、四人もこのままでは死んでしまう。
「頼む。これ以上誰も死なせたくないんだ。わかってくれ。俺はお前たちが無事ならそれでいい」
「ダメだ。先生そんなことしても……。一緒にいてほしい!」
四人は泣きながら先生の服を掴んだ。こうなったら全員で生きなければならない。ブラッドも覚悟を決めた。
後ろに巨大な気配を感じた。
ブラッドが振り向くと、そこにはガウスが立って見下ろす。
「別れの挨拶は済んだか?」ガウスは睨んでこちらを見る。
「死ぬわけにはいかなくなった」ブラッドは睨み返した。
「我に勝つというのか?愚か者よ」熱気が一気に噴き出た。
「やってみないとわからない。そうじゃないか。王様」
ガウスは右手に炎を纏わせ、ブラッド目掛けて振り下ろす。
ブラッドはありったけの出せる血を使い、極厚な血の盾を作った。
ガウスの炎は血の盾を蒸発させ、拳がブラッドの腹部を抉った。
「「「「先生!」」」」
四人がブラッドに近寄り、無事を確かめるが、やけどがひどい。そしてまだ燃えていた。
ガウスが近づき、とどめを刺そうとすると、顔が吹き飛んだ。いや、殺気によるイメージだ。誰がこんなことをした。周囲を見渡すと、殺したと思ったクロがいた。
四人は先生に声をかける。炎を消そうにも消える気配がない。四人は泣くことしかできない。
「ありがとう。みんな……俺は……幸せだ。……ご、ん、な、に、ゴフッしあわせな人生だった」燃えていくブラッドは最後に感謝の言葉を口にした。
ブラッドは燃え尽き、骨も残らず、消えていった。
四人とエルンは泣きながら、ブラッドの亡くなった跡に手をやり、大声で泣いた。
クロは真剣な顔でガウスに向かって、歩いていく。
「よもや生きておったとはな」
ガウスが言葉を放った瞬間に、顔面を殴り飛ばした。王子メテスの横を通過して、建物の中に吹き飛んだ。
「もうしゃべるな」クロは怒りで我を忘れそうになっていた。だが、怒りで力が湧いてくる。
「小僧が。先ほどより殺気がましたか?あいつを殺したからか」ガウスは建物から出ると、クロに向かって挑発をした。
「しゃべるなって言ったろ」
ガウスとの間を一瞬に詰めて、目視できない速さで連続して殴った。だが、手を掴まれて、地面に何度も叩きつけられる。そのたびにすさまじい振動が国に響いた。
「どうだ。小僧、死んだか?」クロの死亡を確認した。
「なめんな」
クロは掴まれた腕をナイフで自ら切り落とすと、ガウスの顔面に蹴りを入れた。クロは間合いを取った。クロの腕はみるみるうちに再生していった。
「面白い小僧だ。超速再生まで持っているのか」
「お前をここで確実に裁く」
「貴様何様だ」
「俺は仲裁人だ」
ガウスとクロは再び死闘を繰り広げようとしていた。この先に別れがあるとは知らずに。
いつも読んでいただきありがとうございます。
ブラッドが死んでしまいました。
初期からの構想でそこからの子供たちの考え方や人生の選択、成長を描いていきたいと思ったからです。
次回もよろしくお願いします。




