第29話 旧友
一同は赤の国へ向かって歩いていた。
山道は荷車がすれ違っても問題ないほどに広く、道はわかりやすい。
赤の国は山の上に位置し、所々から火山が見えた。
四人は暑さに体力を奪われ、山の斜面を歩くのがきつそうだ。
クロは暑さなど感じておらず、どんどん進んでいく。
「待ってよ、クロ。早いよ」
「お前らが遅すぎるんだろ。魔力で体を包んで歩けばいい。ブラッドを見てみろ」
四人はブラッドを見た。全身が薄い魔力に覆われている。四人も真似てみた。すると暑さが和らいだ。しかし、疲労で魔力が少ないせいか、安定して持続はできない。それでもやらないよりはましかと、全身を魔力で覆った。
山の中腹あたりに差し掛かったところで、一旦休憩にした。
山からの景色は良く見えた。
テツオは気になった場所を見つけ、ブラッドに質問した。
「先生、あの森の一部が黒くなって木がなくなっていますが、何ですか」指をさして尋ねた。
「どれ?なんだあれは……?焼けた跡みたいだな。あれは魔力を使って焼いたようだ。燃え方が不自然だ」ブラッドも見たが、どういう理由で焼けたかまではわからなかった。
山火事とは違い、燃え広がっておらず、あちこちが円のように焼けていることから、人為的なものであるのは確かだった。
休憩も終わり、再び歩き出した。
頂上が少し見えてくると足取りも軽くなる。不思議なものだ。もう少しで着くと考えると、気持ちまで軽くなった。
関所が見えた。大きな木の門の前に防衛隊が二人立っていた。ギルド証を見せて関所の通過免除を受けると、赤の国の町に足を踏み入れた。
町は簡素なものだった。暑さで草木はなく、家は石材で作られたものばかりだ。人もほとんどおらず、これがカラーズの国の一つなのかと疑うほどだった。
「先生、武術国家とは全然違いますね」アレスが言った。
「ほとんどの住民は山で採掘をしているから町にはいないんだ。だが、こんなに人が少ないのは不思議だ」ブラッドも違和感を覚えた。
町は静けさに包まれ、人の活気がない。ブラッドは気持ちを切り替えた。
「ギルドに行って、討伐の報告と情報を集めよう」
ギルドに入ると、受付以外誰もいない。普通はギルドに冒険者がいるものだが、ここにも違和感がある。
討伐の報告を終え、受付に話を聞くが、何も答えてくれなかった。何かあるのだろうが、口が堅い。とりあえず、宿の場所を聞いて、宿に向かうことにした。
宿での手続きを済ませ、全員で食堂に向かおうとした。
その時、一人のみすぼらしい格好をした男が、必死な顔をしてこちらに走ってきた。
ブラッドは驚いた顔をした。決して変な男がいることに驚いたわけではなく、その男が自分の良く知る人物だったからだ。
「あれは、エルンか?」
ブラッドは血相を変えて男に向かっていき、話しかけた。
「お前エルンだよな。俺だ。ブラッドだ。どうしたんだ?」
「え?ブラッド?ブラッドなのか!頼む、助けてくれ!」
「いったい何があった。取り敢えずどこかに入ろう」ブラッドはジャケットを脱ぎ、エルンに着せた。
みんなで食堂に行くことになった。食堂も従業員以外誰もいなかった。
注文した食べ物と飲み物が来た。クロは無心で食べ始めた。
クロ以外はエルンの話を聞かないことには食事が始められないと思った。
エルンは震えながら、水を一口飲んで話し始めた。
「俺は、このままだと殺されちまう。何とかして逃げないと。頼む、ブラッド。助けてくれ」
「落ち着け。どういう状態なんだ」
「俺は捕まっちまったんだ。なんでこんなことにどうしたらいい」
「わかったから、どうして捕まったんだ」
「レンジとソンと一緒にいたんだ」
「あいつらもいるのか?どこに?」
「……殺されたんだ」
「なんだって……レンジとソンが……」
「昔ブルークレーブが解散した時に俺たち三人でギルドを作り直したんだ。うまくいかなくてな。結構な期間苦労したよ」エルンは水を一口飲んだ。
「それでな、いつ頃だったかな。たまたま赤の国に荷物を運ぶ業者がいてな。その護衛でここに来たんだ。そしたら宿で寝ていたはずが、いつの間にか別の場所に運ばれていて、気が付くと胸に奴隷魔術が刻まれていたんだ」エルンは服をまくり、刻印を見せた。
「ちょっと待て。どういうことだ。奴隷魔術は人に使ってはいけないはずだろ。国は何も言わないのか?」ブラッドは恐怖で手が震えた。
「その国がやっているんだ。泊りに来た人間を誘拐して、兵器を開発させる」
「兵器?何のことだ?」
「赤の国は他国を侵略しようとしているんだ」エルンから衝撃的な発言が飛び出した。
クロ以外は驚きを隠せなかった。町の人が少ないのはわかった。でも、誘拐して兵器を開発する?そんなことが本当にあるのか?だが、エルンの目は本気だった。
「俺は兵器のために働かされていた。隙を見て逃げて来たんだ。だが、奴隷魔術がある。これがどういう契約があるか俺にはわからない。どうしたらいいんだ俺は」
「兵器は王自ら指示しているのか?」
「そうだ。働けなくなったら、レンジとソンのように殺されるんだ」
「どういうことだ?」
「森が一部焼けていただろ。俺が来るときもあった。その時まで理由はわからなかった。使えなくなった奴隷はな。森から走らせて逃がすんだ」
「逃げられるのか?だったら……」
「逃げられないんだ。王が能力で奴隷を焼き払うからな。公開処刑なんだよ。処刑の日は労働が休みになって全員見せつけられるんだ。次はお前の番だって」
「俺は捕まったら殺される。その前に逃げるんだ。どうすればいいんだ」
誰も何も言えなかった。ただ、クロは厨房に勝手に入って料理を食べていた。
「くそ。どうしたいいんだ」ブラッドは机を叩いた。
「あのさ、早く逃げないと捕まるよ」クロが急に言い出した。
「なんだとクロ。どういうことだ。ふざけたこと言うな」
「この国全体がグルなんだよ。従業員はあんたの顔確認していなくなったし、そろそろ来る」
一同がクロの発言に驚いた。本当にそうならまずい状況だ。宿に逃げるか?それもだめだ。
急に扉が開く。防衛隊と、装飾が豪華な防衛隊が入って来た。
「動くな。不審なものがいると通報を受けた。大人しく同行しろ」装飾が豪華な防衛隊が大きな声で警告した。
「待ってくれ。こいつは不審者じゃない。俺はブラッド。Bランク冒険者だ。こいつは俺の元ギルドメンバーだ」
「なら、その不審者の服をまくれ。身の潔白を証明して見せろ」
まずいことになった。服の中には魔術の刻印がある。奴隷がばれる。
クロは防衛隊に近づいて行った。
「ねえ、その装備、他の防衛隊とは違う見たいだけど、あんた偉いの?」
「なんだこの小僧!」後ろの防衛隊が掴みかかろうとした。
「待て」赤い髪の装飾が豪華な防衛隊が止めに入った。
「私は防衛隊の隊長にして、この国の王子、メテス・プロウスだ。君は?」
「俺はクロだ。この国に奴隷がいるってのは本当か?」
「何を言う。奴隷はキャンバスで禁止されているだろう」メテスは少し動揺した。
「服をめくると何があるんだ?王子様」
「それはだな。その犯罪者の目印が書かれているんだ」メテスは苦しいウソをついた。
「そんな目印を見えるところになぜ付けない。隠しておく理由がわからないな」
「そうか。そうゆう文化だからな」メテスは明らかに動揺していた。
一人の防衛隊が痺れを切らして、クロに向かって剣を振るった。クロは防衛隊の一人を蹴り、まとめて外に追い出した。
「今だ」ブラッドはエルンの手を引き、店から出た。
一同はどこに行こうか周囲を見た。人は外にはいない。今なら逃げられる。そう思った時だ。
目の前に5mを超える大男が空から飛んできた。着地の衝撃で大地が揺れる。
防衛隊の隊長メテスに似ていた気がする。黒いローブを纏い、燃えるような赤い髪、殺意の目、恐怖を感じさせる筋肉、燃えるようなオーラを放つ男がそこにはいた。
「何事だ。メテス」
「父上。その……。あいつが逃げまして」
「このバカもんが」大男はメテスを殴り飛ばした。防衛隊がメテスの方へ駆け寄る。
「ばれてしまってはしょうがない。全員皆殺しだ」殺意がこちらに向いた。
クロは歩いて、近づく。笑みがこぼれていた。
「あんたが赤の国の王、ガウス・プロウスなんだろ」
「そうだが、なんだこのガキが」
「奴隷に殺人。兵器開発……。犯罪だってわかってやってたんだよな?」
「それがどうした。これから死ぬのに命乞いか」
「いや、殺す理由が出来た。『完全獣化』」クロは獣化した。
二人は目を合わせたまま、動かない。ただ、殺気と牽制し合う魔力だけが周囲に伝わって来た。
いつも読んでいただきありがとうございます。
国の情景描写は難しいです。
国の設定は決まってますが、書くのが難しいです。
頭の中を文章にする小説家は本当にすごいと感心するばかりです。
次回も楽しみに読んでいただけるとうれしいです。




