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キャンバス~色なき世界のアービトレーター≪仲裁人≫~  作者: ぶーたん
第1章 研究施設編

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第1話 実技授業

翌日、訓練場にて。


窓のない、灰色のコンクリートで固められただけの殺風景な部屋。天井だけが吹き抜け、外の青空が見えていた。この無彩色の空間が、これから繰り広げられる力の応酬の舞台となる。


壁際で、漆黒のバトルスーツに身を包んだクロは、一人仰向けに寝ていた。


そこへ、青色や黄色のアクセントが入った同じバトルスーツを纏った四人が、扉を開けて入ってくる。


「来週でSTFに来て7年目になるから、お祝いのパーティーをしようよ!」


赤色の髪を揺らしながら、ダミアが楽しそうに提案する。


「ああ、みんなに会えたのも何かの縁だ。ぜひやろう」


アレスが快く応じると、テツオとダンガンも頷いて賛同した。


「クロももちろん誘うんだろ?」


アレスがダミアに尋ねると、ダミアは少しだけ表情を曇らせた。


「まあ、一緒の時期に入ったわけじゃないけど、パーティーは多い方がいいしね。誘ってみる。昨日のこともあったし……」


ダミアは薄い反省の色を浮かべ、足早にクロのもとへ近づいていく。


「ねえ、クロ。昨日は少し言いすぎたわ。ごめんなさい。それでね、みんなでパーティーやろうと思うんだけど、一緒にどう?あなたの方が施設にいるのは長いけど、せっかくだから楽しくやろうよ」


優しく声をかけるダミアに、クロは顔に乗せていた教科書をずらし、冷たい漆黒の瞳を向ける。


「行かない。お前らだけでやってろ」


ダミアの顔から笑顔が消える。怒りを堪えた彼女の髪と同じ濃い赤みを帯びた表情で、三人のもとへ戻っていった。


「やあ、みんな。一週間ぶりの実技授業だ」


ブラッド先生が真っ黒なスーツで訓練場に立ち、優しげな笑みを浮かべる。


「今日は実戦形式だ。四人同時にかかってこい。能力の使用は自由だ」


ブラッドは、全身に巻かれた輸血パックが揺れるのも気にせず、両手を広げて構えた。その漆黒のスーツの左胸には、深い赤色の血液が満たされたパックがちらりと覗く。


「行くぞ!」


アレスの覇気のある金色の瞳が輝き、両手に光が凝縮される。一瞬で二振りの光の剣が生成され、そのまばゆい光の刃がブラッドの血の深紅へ向かって閃いた。


テツオが全身を一瞬で鈍色の鉄へと変貌させ、黒に近い銀色の巨大な盾となってアレスの隣に立つ。燃えるような赤色の髪を持つダミアの足元からは生命力に満ちた緑色の魔力が地面に広がり、淡い若草色の蔓が地面を這う。そして、濃緑色の髪のダンガンは、銃から無色透明に近い魔力の弾を連射する。


四人の能力が光、鈍色、緑、そして無色と、様々な色の光を放ち、無彩色の空間を鮮やかに切り裂いた。


ブラッドは笑みを崩さず、左手から鮮やかな赤い血を噴出させた。それは一瞬で深い紅の盾へと硬化し、アレスの光の剣とダンガンの無色の弾を受け止める。キィンという金属音と共に、盾の紅がさらに濃くなった。


「いい動きだ!」


ブラッドは紅の盾を爆散させ、血の塊でアレスを地面に叩きつけ、同時に血の触手でダンガンを壁に叩きつける。二人の能力は一瞬で霧散した。


ダミアがテツオに向かって駆け寄ろうとした瞬間、ブラッドが目の前に現れた。


「逃がさないよ」


ブラッドは紅色の触手でダミアを掴み、テツオの銀色の体へ向かって投げつけた。テツオは動きの鈍い鉄の体で回避できず、ダミアと激突し、二人とも灰色の地面に倒れ込む。テツオが鈍色の体を解除しようと焦る中、ブラッドは容赦なく紅の触手で全身を拘束し、強く締め上げた。テツオは能力をコントロールできなくなり、意識を失って鉄の体が解け、普通の肌色に戻った。


ブラッドはテツオを地面に置くと、壁際のクロに向かって歩いていく。


「クロ。お前はかかってこないのか?」


寝たふりをしているクロに話しかける。クロはゆっくりと立ち上がり、靴を脱いで後ろに投げた。彼の漆黒の瞳の奥で、氷のような光が揺らめき始めた。


「いいけど、ブラッド。その前に、そこの倒れてる連中を端に寄せてくれる?間違って巻き込むと危ないでしょ?」


クロがそう言うと、ブラッドの紅の触手が倒れている四人を訓練場の隅へと運んだ。訓練場の中央で、漆黒と深紅が、静かに、しかし激しく対峙した。


ブラッドは黒いスーツを正す。


訓練場の中央で、二人は無言で、互いの距離が20メートルほど離れた場所に立つ。先生は深紅の血を螺旋状にして、まるで炎のオーラのように体に纏わせた。


クロは肉食動物が獲物を狙うような姿勢を取り、「完全獣化(エンジンギア・フルスロットル)」と呟く。爪と牙が獣のように変化し、瞳孔は黒く鋭い縦長になり、目は燃えるような赤色に変わった。体全身に漆黒の毛が生え、遠目から見れば闇を凝縮した獣そのものだ。


「さあ来い。クロ」


先生の顔から笑顔は消え、獲物を仕留めるハンターのように息をひそめ、チャンスを伺う。いつもの彼とは違う、真剣な表情だ。


クロは獣の体勢から、両足の裏に青白い光を放つ氷の厚い板を地面から出現させる。体を少し後ろに引くと、太ももから足先にかけて鮮烈な黄色の稲妻を纏わせ、構える。二人の能力が発する深紅の熱気と青白く光る冷気が、訓練場の中央で激しくぶつかり合っていた。


その瞬間、クロは20メートルの距離を一瞬で詰める。ブラッドは、ダンガンと戦った時よりも濃い紅に染まった分厚い血の盾を出して守ろうとした。クロの右ストレートが、稲妻の残光と共に盾を何事もなかったかのように破壊し、ブラッドの顔面目掛けて飛んでいく。ブラッドは顔を左に傾けて避ける。


しかし、クロが進む先にクリスタルのように透明な氷の壁が出現し、クロは空中で体勢を変え、氷の壁に両手両足をつけ、次の行動に移る。ブラッドは血の盾をクロに向けて構える。


クロがブラッド目掛けて飛んでいくように見えたが、ブラッドの2メートル上に氷の板が現れ、クロはそれを足場に真下へ急降下していく。クロの右足がブラッドに直撃するかと思われたが、ブラッドの右から血を凝縮した真紅の触手が伸び、クロの右足を捕捉した。クロと戦う前にスーツに触った際、右手を傷つけていたのだ。


クロは真下に向かった勢いもあって、ものすごい速さで地面に叩きつけられ、灰色のコンクリートが大きくえぐれる。そのまま持ち上げられ、空中で振り回された後、壁に向かって叩きつけられた。壁は壊れ、訓練場の外にクロは吹き飛ばされた。


「さあ、訓練は終了だ。制服に着替えて昼ごはんと反省会をするぞ」


先生が笑顔でそう言うと、クロは人の姿に戻り、悲しんでいるような、少し怯えているような表情をしていた。


外の青空には、大きな雲と小さな雲が五つ流れていたが、クロは大きな雲には目もくれず、小さな雲を見つめていた。

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