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キャンバス~色なき世界のアービトレーター≪仲裁人≫~  作者: ぶーたん
第1章 研究施設編

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第14話 1年前のあの事件 前半

実験室にて。


クロは目を覚ますと、目の前には目を閉じてキスをしようとしてくるデータが迫っていた。とっさに顔を避けて回避する。危ない。何をしてるんだ。


「もう、クロったら、恥ずかしがっちゃって。お姉ちゃんのキスで起こしてあげようと思ったのに」


「ああ、そうですか。おかげで目が覚めたよ。どのくらい寝てたんだ?」


「10分ぐらいだよ。錠を外して横にしてあげたから、ついでにお姉ちゃんのキスで起こしてあげようと思ったのに、起きちゃったの。もう少し寝ていたら、いい思いができたのにね」


「冗談はやめてくれ。もう研究は終わったんだろ?」


「うん。もう所長は発表用の資料作りでしばらくは出てこないし、ディーテは他の研究員を休ませてるから、もう授業に戻っていいよ。学ぶがいいさ、若人よ」


「はいはい。お疲れさま。とりあえずは飯だな」


クロはデータのおでこに軽くチョップし、実験室を後にした。


「いてて。あいつも力強くなったな。あんなに小さかったのに……」


叩かれたところを嬉しそうに触り、成長を実感する。


クロが研究棟を出ると、ブラッドたちと鉢合わせた。ああ、そうか。今日は昇格試験の日なのか。実験室でぶっ続けで研究していたクロは、時間の感覚がなくなっていた。


「おう、クロか。研究はどうだ?順調か?」


「今終わったところ。そっちは試験に行くのか?」


「ああ。せっかくだから見送りに来い」


ブラッドがクロの左手を引いた。クロは4人がプレゼントしたリングを着けていることに驚いた。4人もまた、クロがお揃いのリングを着けていることに驚いていた。


「なんだ、みんなリング着けていくのか。邪魔にならないのか?」


クロは不安そうに尋ねた。


「全然。これくらいで根を上げていたら、昇格試験なんて受からないでしょ」


ダミアが自信満々に答える。


「俺たちは先に昇格試験を受けるけど、クロも必ず追いついてこいよ」


アレスはクロに「俺たちの方が先に上に行くから待っていろ」と言わんばかりの表情をした。


4人は笑い出した。そうこう話しているうちに、施設のすぐ外まで来ていた。施設から黄の国の関所は歩いて10分ほどなので、あっという間だ。


「じゃあ、お前たち、気を付けていくんだぞ」


「はい!」


4人は声を揃えて返事をする。


「クロ、お前から何か言わないのか?」


「みんな、誘拐犯には気を付けて」


4人がものすごく嫌な顔をした。ブラッドの拳骨がクロの頭に直撃する。そうして4人は黄の国の外に出ていった。


「クロ。なんでお前は余計なこと言うんだ」


「だって、事実だし」


「お前はみんなが帰ってくるまで、ここで俺といること」


「いや、飯食いたい」


再び拳骨がクロの頭に当たる。なんで殴るんだ。心配なのは分かるけど、八つ当たりはやめてほしい。


ブラッドは終始、落ち着かない様子だった。まるで、1年前のあの忌々しい事件が、また起こるのではないかと怯えているかのように、彼は1年前のDランク試験を思い出していた。


1年前、Dランク試験


「いいか、今回はブルーゴブリンの討伐だ。一人一体討伐するんだ。左耳を切ってこの袋に入れてくるんだ。自分でやれなくても、五体分あれば全員合格だ。時間は夕日が沈むまでにここに帰ってくること」


ブラッドは皆に茶色のショルダーバッグを渡した。


「みんな分かっていると思うが、魔獣の強さは色で決まる。青、緑、黄、赤の順番で強さが決まり、今回は青色の魔獣だ。その他の色は希少種だから強さが段違いだ。絶対に逃げるんだぞ」


先生は笑顔で説明をした。


「はい!」


4人は一斉に返事をする。


「今回、初めての魔獣討伐ということもあって、信号弾をバッグの中に入れておいたから、ピンチになったら上に向かって撃つんだ。先生がすぐに駆け付けるからな」


4人はバッグの中を確認し、物珍しそうにしていた。


5人は黄の国を後にした。目的は街道沿いから外れた森の中にいる、ブルーゴブリンだ。群れているので、足跡を探すところから始まる。4人は下を見ながら森の中をどんどん進んでいく。しかし、国を出てから一時間経っても、足跡一つ見つからない。4人の集中力は薄れていった。


「なかなか見つからないね」


「ああ。このままだと僕たちが迷子になっちゃう」


「二手に分かれて探してみるか」


テツオが提案する。


「そうしてみるか」


「ちょうどここに、他の木よりも大きな木がある。これを目印に、一時間分かれるのはどうだ?」


「私はその方がいいかな。少しでも早く見つけないと夜になっちゃう」


「ああ、今回は野営の準備がないからな」


「じゃあ、二手に分かれる。テツオとダンガン、それからダミアと僕、クロの三人でいいか?」


4人は頷き、大きな木を目印にして、二手に分かれて捜索を開始した。クロは自分は関係ないと言わんばかりに、後ろをついて歩いていた。


「ねえ、クロ。少しは探すのを手伝ってよ」


「いやだ」


「待て、ダミア」


アレスがダミアの動きを止める。何かを見つけたようだ。茂みの方から音がする。それはブルーゴブリンだ。アレスはダミアに提案をする。


「ゴブリンの足元をツタで拘束するんだ。その後、僕がとどめを刺す」


ダミアは頷き、地面に手を当てて、ゴブリンの足元めがけてツタで拘束した。ゴブリンは異変に気付いたが、転んでしまった。その瞬間にアレスが剣を出して切りかかった。


「やった!一体討伐!」


二人はハイタッチをした。その後、左耳をナイフで切り、バッグに入れた。こうして、一体は討伐でき、二人は安心する。クロは周囲を見ながら、退屈そうにしていた。


森の奥には、一人の男が邪悪な笑顔で三人の姿を見ていた。


「アレス、もう大丈夫だよ。誰も見てないし、こんなとこで喜んでいたら恥ずかしいよ」


ダミアが注意した。アレスは周囲に誰もいないことを確認し、急いでツタを解除した。


「そうだな。でも、このまま行けば全員合格だ。残り三体。きっとテツオたちも見つけているだろう」


「そうだね」


ダミアは興奮冷めやらぬ様子だった。クロは周囲を警戒しながら、その光景を冷めた目で見ていた。


「アレス、向こうの茂みの方に何かいる」


クロが指をさす。アレスとダミアがそちらに目をやると、木々の間から鮮やかな緑色の皮膚が見えた。


「あれは……グリーンゴブリン!?」


アレスは焦った。ブラッド先生から「青以外の色は希少種だから逃げろ」と強く言われていた。


「どうする、アレス!信号弾を打つ?!」


ダミアはすぐにバッグに手を伸ばした。


「いや、待て、ダミア。数は一体だ。僕たちが二人がかりで、クロがもし手伝ってくれたら、勝てない相手じゃない」


アレスは強がった。ここで逃げたら、一生後悔すると思った。ブラッド先生に言われた言葉など、どうでもよかった。目の前の強い魔獣を討伐したい。それがアレスの闘争心に火をつけた。


「クロ、お前も手伝ってくれるか?」


アレスはクロに同意を求めた。


「俺は関係ない」


クロは静かに首を振った。


「そうか……分かった。ダミア、二人がかりでやるぞ!」


「うん!」


ダミアは頷き、再び地面に手を当てた。グリーンゴブリンの足元にツタを絡ませる。


ゴブリンは青色のものと比べて動きが素早かった。ツタを振り払い、大きな雄たけびをあげた。


「効かない!」


ダミアは顔を青ざめさせた。グリーンゴブリンはダミアをめがけて走り出した。


「ダミア!逃げろ!」


アレスはダミアを守ろうとゴブリンに切りかかったが、グリーンゴブリンはアレスを避けて、ダミアに向かっていく。


ダミアは地面にツタを出す余裕もなく、間に合わなかった。


その瞬間、クロがダミアの前に飛び出し、獣化を発動させた。


クロはゴブリンの頭を掴み、地面に叩きつけた。ゴブリンは動かなくなった。


「一体討伐」


クロはゴブリンの頭を掴んだまま、静かに言った。アレスは何も言えず、クロの背中を見ていた。


「ダミア、大丈夫か?」


クロはダミアに振り返り、優しい声をかけた。ダミアは驚きながらも頷いた。


「ああ、平気だよ。ありがとう、クロ」


「うるせえ。それより、この魔獣の耳、いらないか?こいつは強そうだから、耳を切っても討伐したことになるだろ」


アレスはすぐにゴブリンの耳を切り、自分のバッグに入れた。


「ああ、そうだな。ありがとう、クロ。助かったよ」


アレスはクロに感謝を述べたが、クロはそれ以上言葉を交わすことなく、木陰に隠れてしまう。


「クロはやっぱり変だね」


ダミアはアレスに言った。アレスは何も答えなかった。クロの強さに嫉妬していた。


森の奥の男は、ダミアの姿を見て「最高の獲物だ。やっと見つけた」と、口元を歪ませていた。


ブラッド先生の予感が、最悪な形で的中しようとしていた。

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