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キャンバス~色なき世界のアービトレーター≪仲裁人≫~  作者: ぶーたん
第1章 研究施設編

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第12話 希望の光

実験室にて。


クロは少しだけ眠っていた。過去のことを思い出しては、ブラッドとどう接していいのか分からず、4人に対して過剰に期待している自分に、なんだか頭がモヤモヤする。


なんで、シルバーリングなんか所長に頼んだんだろう。こんなものもらってもいらないだろ。意識しないと身に着けていられないような機能付きのリングなんて、よほど強くなりたいと思っていないとつけない。あいつらは違うだろ。普段の言動と行動を見て、誰がもらって喜ぶんだ?自分を押し付けるな。自問自答が続く。


「強くなって、どうしたいんだ?」


ふと言葉が漏れた。ただ強くなれば、誰かが自分を見てくれると思っていた。だけど、現実はどうだ?俺は一人だ。ただの研究対象で、仲間として見てくれる人は現れるのか?この強さの先に何がある?なんでみんな平然と笑っていられるんだ?このままずっと孤独なままなのか?果てしない黒い世界がクロの目の前に押し寄せる。


所長が実験室に入ってきた。


「クロ君、待たせたね。これを試してくれるかな」


新しい手錠を渡された。ちょうどいい気分転換にはなるだろう。


「最初よりだいぶ重くなったな。これだと持ち運びに制限がありそうだけど?」


「急いで作ったから重くなったんだよ。最終的には軽くするから、強度の確認を頼む」


所長が出ていき、開始の指示があり、手錠に魔力を流す。今度はびくともしない。


「データ君、どうだ。うまく魔力の排出はできていたかね?」


「想定通りの動きです」


「クロ君、よくやった。完成だよ」


「待って。まだ試したいことがある」


「クロ君、何をする気だね?」


クロは目を閉じ、集中した。魔力をただ流すのではなく、不規則に、そして逆流させるように手錠の魔力を変化させた。


「所長、まずいです!このままだと爆発します!」


データが叫ぶやいなや、轟音と共に手錠が閃光を放ち、実験室のガラスが震えた。


時すでに遅し。手錠が爆発し、クロの両手が地面に落ちる。


「クロ君、無事かね?」(所長の目は、実験の成功よりも、クロの肉体の異常な反応に対する興奮で輝いていた。)


ディーテが血相を変えて部屋に飛び込んできた。「また無茶を!クロ、大丈夫なの!?」


「ああ、問題ない。この状態なら逃亡できるだろ」


クロは手がなくなっているにもかかわらず、手錠の問題点を冷静に説明し始めた。ディーテが部屋に入り、落ちた手を拾って、クロに渡す。


「ありがとう。じゃあ今日のところは終わりでいいか。注文出すなら、自然に魔力を吸い取って、ある程度で吸い取らなくなるようにして、あとは爆発もしないようにしてよ。直すのも大変なんだから」


クロは手を振って実験室を後にした。なくなったはずのクロの手は、元通りに治っていたのだ。


「分かったよ。相変わらず無茶をする。データ君、今夜も徹夜だよ。今、すごくアイデアが湧いてきて試したくて仕方がない」


「分かりました。急いで作りましょう」


クロは寮に戻って、汚れた制服を脱ぎ、新しい制服に着替え、いつものように当てもなく外に出て、夜のトレーニングを始めるのだった。


翌日、早朝の食堂にて。


クロは食堂のおばちゃんと話しながら、大量の朝食を食べていた。


「朝からご飯を食べに来るなんて珍しいね〜」


「なんか、することもないから今のうちに食べておこうと思って。いつ呼ばれるか分からないし、所長に捕まったら、いつ出てこられるか分からないから」


おばちゃんは笑いながら、次々と食事を作っていく。無駄のない洗練された動き。クロはそれを見ながら食べ進める。


「あとで研究棟に行くなら、研究員分の弁当を作ってあるから持って行ってくれるかい?なかなか食べに来ないから、持って行かないと食べないんだよ、あの人たちは」


「いいよ。もう少し食べたら研究棟に行くし」


食事を終えるとおばちゃんから研究員のお弁当をもらい、研究棟に向かった。研究室に入ると、人は誰もいなかった。クロは預かった弁当を机の上に置いて、部屋を後にする。


何をしようか。研究に付き合うこともあり、魔力は使えないから暇すぎてやることがない。仕方ない、また食堂でご飯でも食べようかと研究棟を出ると、ヘファイストス先生に会った。


「ああ、クロ君か。今、授業中じゃないのかのう?」


「研究の手伝いだよ。そっちは暇なのか?」


「そうなんじゃよ。建築依頼がないから、こうして散歩しておったわい」


「ふーん。お互い暇なんだな」


「どうだ、お茶でも。いや、子供だからジュースがいいかな?」


「お茶でいいよ。暇つぶしができればいいから」


「そうか。では、わしの部屋に来るといい」


2人は研究棟の中にあるヘファイストスの部屋に入った。部屋は本棚に建築関係の本がこれでもかと並んでいる。


「相変わらず、すごい本だな。こんなにいらないだろ」


「そうでもないんじゃよ。建築魔術は建築構造を理解しないと扱えないから、こうして忘れないように勉強しているんじゃ」


「理解しないと使えないって、建築魔術は魔法みたいだな」


「そもそも、魔術から魔法になったからのう。似ている所があるんじゃよ。ほれ、お茶を飲みなさい」


ヘファイストスは笑いながら、お茶を差し出した。


「どうも。このお茶、うまいな」


「そうじゃろう。このお茶は、今度行く武闘大会のついでに、毎回貿易都市で買うのじゃよ」


「武闘大会って何だ?」


「ブラッド先生から聞いてないのか?武術国家で年に一度開かれる、大きな祭りじゃよ」


ヘファイストス先生は楽しそうに語った。ブラッドに生徒を連れて行きたいと話したこと。武闘大会は、各国の武術を極めた人たちが集まり、武術国家に認められたらそこで修行ができること。武術家にとって憧れの聖地であること。優勝者には国から賞金が出ること。毎年優勝するのはその国の王であること。話を聞いているうちに、いつの間にかお茶も5杯飲んでいた。


「おかわりはいるかね?」


「ああ、頼む。それで、王はどのくらい強いんだ?どういう戦い方だ?」


「そうじゃな。王が能力を使った所を見たことがないのう。武器や飛び道具でなければ能力は使っていいんじゃが、自分の拳で真っ向勝負するタイプじゃな」


「そんなに強いなら見てみたいな。行けるように話してくれよ」


「そうなんじゃが。今回は決勝戦のチケットしか取れなかったんじゃ」


「それでも、王の戦いは見られるんだな」


「毎年、決勝戦は王が勝ち上がってくるからのう。可能性は高いじゃろ」


「じゃあ、見に行く。ブラッドには俺からも話しておく」


「ああ、そうか。それは心強い。ブラッド先生は乗り気ではないからのう」


「じゃあ、武闘大会の出発の準備はしといてくれよな」


「任せておくれ。チケットは取ったから、あとは移動手段を確保すれば問題ない」


「楽しみにしておく。お茶ごちそうさま。いい時間つぶしになったよ」


「こちらこそ。こんな老いぼれの話に付き合ってくれるのは少ないからのう」


クロはヘファイストスの部屋を出た。研究棟の外に出ると、すでに夕方になっていた。


「武闘大会か。強い奴が一人ぐらいいるだろう。そいつを何とか喧嘩に持ち込めば……」


クロは不敵な笑みを浮かべ、食堂の方に向かっていった。

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