プロローグ 退屈な世界の始まり
意識が浮上すると、クロは深い闇の底、冷たい崖の下にいた。
目の前に広がるのは、血の赤、赫、アカ……。それは、教師であるブラッドの体から泉のように流れ出し、地面を染めていた。煮えたぎるように蒸発し、痕跡もなく消え失せていくその血を見て、誰かの悲鳴が遠く聞こえる。
「お前が弱いからだ」と嘲笑う声。
「何故、お前じゃないんだ」と責め立てる声。
それは、弱い自分自身への罰か、あるいは——。
最悪の目覚めだ。久しぶりに深く眠れたと思ったのに。暗澹たる気分で薄目を開ける。
そこは、この世界を構成する6つの国の一つ、黄の国に建つ超能力育成機関——通称STFの、いつも通りの退屈な教室だった。
窓の外は青空が広がり、温かい昼下がりの日差しが、黒板の前に立つ全身黒スーツの教師、ブラッドと、5人の生徒たち(アレス、テツオ、ダミア、ダンガン、クロ)を照らしている。クロは壁際で一人、顔に教科書を乗せて寝転がったままだ。
ブラッドは黒板に大陸の地図を広げ、歴史の授業を続けている。
「みんなも知っている通り、この大陸『キャンバス』には、我々黄の国を含め、6つの国が存在している。そして、それぞれの国を治めるのが、並外れた能力を持つ6人の王、カラーズだ」
ブラッドがそう言うと、緑髪の少年、ダンガンが口を開いた。
「ただ、暗黙のルールで国を取らないなど、信用できないですが」
「ダンガン、その通りだ。領土拡大の野心がないわけではないだろうが、彼らの能力は互いに相殺し合うからこそ、今の均衡が保たれている。争いが起きていないのは事実だ」
金髪の少年、アレスが、覇気のある瞳で質問を投げかける。
「では、もしカラーズ同士で戦争が起きたら、誰がそれを止めに入るのですか?」
「アレス、それはまだはっきりと決まっていない。誰も動かないだろう。争いが起きないからこそ、取り決めもない、グレーゾーンだ。その時は大きな被害が出るが、力関係で言えばカラーズが上だ。だから何も起きたことがない」
ブラッドは困ったように答える。アレスは立ち上がると、高らかに宣言した。
「それなら!僕、アレスが将来、カラーズの戦争が起きないよう尽力してみせます!」
「おお、それは頼もしいな。お前たちの中から、世界を一つにまとめる英雄が出るかもな!」
ブラッドは笑い、テツオ、ダミア、ダンガンの3人もつられて笑った。教室は希望に満ちた賑やかな雰囲気に包まれる。
その賑やかな笑い声を切り裂くように、壁際で寝ていた少年が低い声で呟いた。
「うるさくて、寝れねーよ」
一瞬にして空気が鎮まる。周りの生徒たちは冷え込んだ空気の中、彼を見つめた。特に金髪のダミアは、その不機嫌さを露わにして席を立った。
「何よ、クロ!人が真面目に将来の話をしてるのに、あんたこそいつも授業を邪魔して!寝てるだけならまだしも、文句言うなんて図々しいにも程があるわよ!」
クロは顔に乗せていた教科書をどかし、片目だけ開けてダミアを冷たく見据える。
「邪魔してるのはそっちだろ、イノシシ女。大声で騒いでんじゃねぇよ。耳障りなんだ」
「っ……イノシシ女って言ったな!このひねくれ者!」
ダミアが怒りで顔を赤くし、今にも掴みかかりそうな勢いでクロに詰め寄る。
「ダミア、やめなさい!」ブラッドが強い口調で制止する。「クロも、人を侮辱するのはやめろ!寝ているのは構わないが、周りに配慮した発言をしなさい!」
教師の注意にも耳を貸さず、クロは再び教科書を顔に乗せて目を閉じた。彼の心には、英雄を夢見る周りの者たちとは異質な、あの血の夢の残滓と、理解されない孤独だけが澱のように溜まっていた。
読んで頂きありがとうございます。
この章では主人公が将来をどう生きるか決めるまでの話になります。
人生初めて小説を書いて見ました。
読みずらい所もあると思いますが、
作品に少しでも魅力を感じていただけたらうれしいです。
少しずつ投稿していきたいと思いますので、よろしくお願いします。
感想もお待ちしてます。




