サクッと復讐開始
グレンの危機を救ったのは2人の魔王であった。
1人はルシフェルという名前で、金髪ショートカットの小柄でスレンダーな美少女。
もう1人はシャイターンという名前で、エメラルドグリーンのロングヘアーをポニーテールにしているグラマラスな美女。
先で約束した通り、グレンはこの2人と契約する事にしたのだが……
「――と、これで契約の儀は完了した。お前は一生私の下僕だからな、今さら後悔したところで手遅れだぞ? 残念だったな、ハッハッハッハッ!」
「いや、残念というか、ルシフェルから持ち掛けてきたんじゃ?」
「バカ者。こういう時は「ああ魔王様~、どうかご慈悲を~~~」って言いながら許しを請う場面だろうが。ったくこれだから最近の若者は……」
そんな若者の魔王離れみたいに言われてもなぁ。だいたいルシフェルの年齢もボクと同じ16歳だったはずだけど。
「フフン、ルシフェルはまだまだお子ちゃまですわね。そんな子供騙しのおままごと、誰が喜ぶと言うのです?」
「何ぃ!?」(←ここに居ます)
「手本を見せて差し上げますからそこでご覧になってなさいな」
シャイターンが手本を云々言いつつボクを跪かせる。そして次の一言を放った。
「さぁグレン、忠誠の証としてわたくしの足をお舐めなさい」
「え"……」
「フッ、遠慮はいりませんわよ? 男性の多くが喜んで足を舐め回すという統計は既に出ているのです。さぁ!」
「ちょ、ちょっと待って!」
何だその片寄った統計! どう考えても普通じゃないぞソイツら! 自分の足を舐めるのだって勇気がいるのに(←比較対象がおかしい)、他人のを舐めるだって? 冗談じゃない!
「悪いけど、シャイターンとの契約はなかった事に――」
「ちょっとぉ、怖じ気付いたんですの!?」
「いやだって……」
「そんな勝手は許しませんわ!」グリグリ
「ちょ、踏みつけないでってば!」
そんなに踏まれると!
踏まれると……
踏まれると?
「さぁ、もっと喜びなさい!」
シャイターンの足が動く度にスカートの中が見え隠れして、その……う、上手い具合にパ……パ……パンツがこんにちは! ってな感じになったりというか。つまり結論は……
「とっても嬉しいです!」キリッ!
正にこの一言だよ。だって絶景だったもの。
「あら、やけに素直ですわね?」
「シャイターンよ、ソイツ、スカートの中を覗いておるぞ」
「はっ!?」
あ、ルシフェルの一言でバレ申した……。
「こ、この――」
「――ケダモノーーーーーーっ!」
「ぶへぇ!?」
おもいっきり顔面を蹴られ、ボクは意識を手離した。でも脳裏に焼き付いたあの光景は絶対に忘れない!(←懲りないなお前……)
★★★★★
「まったく、次はありませんわよ」
「ふぁい……」
情けなく頬を腫れ上がらせているボクを横目に、シャイターンが手早く契約の儀を終わらせる。残念なことに裸で抱き合ったりとかはなく(←何を期待したんだお前は)、ボクの肩に触れて一言二言呟いただけ。
「もう終わり?」
「ええ。ついでに刺し傷も治して起きましたわ。存分に感謝なさいな」
ホントだ! 流血も止まってるし痛みも感じないぞ!?
「ありがとうシャイターン! キミはボクの女神だよ!」
「いいえ、魔王ですわ」
「魔王だっていいさ! 命の恩人には変わらないよ!」
「……少々意外な反応ですが、悪い気はしませんわね」
戦いは強いし回復もでき、それでいて可愛いときた。でも見た目は女の子(←ルシフェルもね)なんだけどね。まぁ周囲に説明するのに魔王だと言わなくて済むのは逆に有り難いのかも。
そんな思考に駆られていると、不意にルシフェルによって襟首を掴まれ強引に立たされた。
「ほれ、いつまで地面に這いつくばる気だ。さっさと借りを返すがよい」
「借り? 他人から借りてるものなんて何もないけれど……」
「バカ者めが。前をよく見よ愚か者。見知った男が寝転んでおるだろう?」
「見知った顔――あっ!」
離れた場所で倒れ込んでいる男が1人。忘れるはずもない、ボクを犠牲にして逃げ延びた冒険者パーティ『栄光の剣』の1人、タンク役のボッツだ。
「お前がシャイターンのスカートを覗いてる間に捕まえてきたのだ」
「どうやって!? というかスカートのくだりは余計!」
「お前からの怒りの念を辿ったらコイツが居たのだ。仲間と呑気に探索しておったところを魔物のフリして拐ってやったのだよ。体の刺し傷もコイツの仕業であろう? 魔法で拘束してあるから好きなようにせぃ」
そう、いざ逃げる際、迷うことなくコイツはボクの足を刺しやがったんだ。直接的な害としては一番大きい。
「フン。誰かと思えばグレンか。何とか逃げ仰せたようだが何の真似だ? まさか復讐するつもりか? 俺にもしもの事があれば他の仲間が黙っちゃいないぞ!」
「そんなの今さらだろ! こっちは死にかけたんだぞ!? コレは刺された礼だ!」
バシッ! バシバシッ!
「ハハッ! 何だその非力なパンチは。そんなんじゃゴブリンすら倒せな――グァァァアヂィィィィィィ!」
途端、余裕だったボッツの顔が苦痛で歪む。それもそのはず、殴っていたボクの代わりにルシフェルが背中を燃やし始めたのだから。レザーアーマーは既に焼け落ち、肉の焼ける嫌な臭いが――ウェッ……。
「グレンよ、お前の制裁は生温い。やるならこのくらいはやってみよ」
「いや無理。物理的に無理。それより臭いをどうにかして。このままじゃ――ゲェェェェェェ!」
堪らず胃の内容物を吐き出してしまう。対するボッツは声を発する気力も無くなったのか急に大人しくなった。
「なんだ、タンクのくせにこの程度の熱にも耐えれんとは拍子抜けだ。まったく、グレンのせいで詰まらんものを殺めてしまったではないか」
「うわっ! 焼死体!?」
「ん? おお、すまんなグレン。お前の復讐を手助けするつもりが加減を誤ってしまったようだ」
「いや、それはいいんだけど……」
なんかね、ボッツの胴体が無くなってるんだよ。もうね、思わず視線を逸らしたね。断末魔をあげた顔もそのまんまって感じだし、復讐という概念がどっか行っちゃったよ。
「ま~たルシフェルは加減を誤ったのですか? まったく、これだから未熟児の魔王はダメなのですわ」
「ム? 未熟児とはなんだ未熟児とは! 身体的特徴を引き合いに出すのは卑怯であろうが!」
「はいはい。お子ちゃま魔王は下がってなさいな」
そう言うと、シャイターンは担いできた何かをボクの前に放り投げる。
ドサッ!
「コイツは……レオ!」
その男はレオ。ボッツ同様この男も【栄光の剣】のメンバーだ。直接的な危害こそないものの、荷物持ちだったボクをバカにする言動は一番酷かったように思う。
「上の階層に居たところを捕えましたの。瞬間冷却で凍りつかせてますから、しばらくは自由が利きませんわ。煮るなり焼くなりお好きにどうぞ」
「お"……あ"……」
辛うじて口だけが動くようで、何かを言いたそうにしているレオ。刃向かわないようシャイターンが手を加えたんだろう。ボッツに出来なかった分をコイツにくれてやる。
「これでどうだ~~~っ!」
バキッ――
――バラバラバラバラッ!
「ひぇっ!? レオの体がバラバラに! ボクにもこんな底力が!?」
「アホか。それはシャイターンの工作だ」
「へ?」
「この男は極限まで凍らせておきましたの。軽~く叩けば崩れるくらいに。この方法ならオーガとて一撃ですわよ」
「そ、そうなんだ」
凍り過ぎると壊れやすい? そんなレベルになるまで凍ったものは見たことがないけれど……、現実に起こっているんだから本当なんだろう。
「どうかしら、少しは復讐になりまして?」
「あ……うん。ありがとうシャイターン」
「フッ、礼には及びませんわ。契約先である貴方の不安を解消するのは当然のこと。今後ともよしなに」
裾を摘まんで優雅に一礼をするシャイターン。そこまでボクを気にかけてくれるなんて感謝しかない。
このまま終われば美談だったんだが……
「騙されるなグレン。他人を懐柔するのはシャイターンの常套句だぞ」
「ちょっとルシフェル、また貴女は余計なことを!」
「そういう事ッスか……」
魔王だけあって腹黒いなぁ。下着は白いのに(←それは余計)。
けれどこの2人が居れば荷物持ちなんてせず、堂々と依頼を引き受けられる。入学費用の目処は立ったかな。
「ではグレンよ、仕上げと行こうではないか」
「え……他にも何か?」
「まだ残っておろう? 復讐すべき対象が。その者たちを放っておいては完全犯罪とは言えぬ」
「人聞き悪っ!」
人聞きの悪さは別として、そこはルシフェルの言う通りなのは分かるんだけど……。
「けどね、冒険者パーティが一組丸っと消えちゃったら騒ぎになると思うんだ。そうなったら同行していたボクが疑いの目で見られるのは確実だよ」
「そんなもの、疑惑を向けてきた者を片っ端から消して行けばよかろう。それで疑う者は居なくなる」
「それって騎士団とかも消すってこと?」
「私は一向に構わん」
「いや、ルシフェルたちはいいかもだけど、そうなったら指名手配だよ! 国を相手にするつもり!?」
「「…………」」
「フッ、面白い。受けて立とうではないか」
「ルシフェル!?」
「元の世界には魔王に挑もうという存在が皆無ですからね。久々に楽しめそうですわ」
「シャイターンまで!」
ダメだこりゃ。正に戦闘狂って言葉がピッタリな2人だよ……。
「なんだ、完全犯罪に手を貸すと言うのに不満そうな顔だな?」
「……そりゃ犯罪者にはなりたくないし」
「ふぅ……肝っ玉の小さい奴め。そこまで言うなら物理的に殺すのは無しにしよう」
「ホント!?」
「うむ。代わりに社会的に死んでもらうがな。――よっと」
グィッ!
そう言って徐にボクの手を引くと、勢いよく飛び立った――って!
「ちょ、ルシフェル、天井天井!」
「分かっておるわ」
ドガン!
「うっへぇ! 天井を突き抜けた!? 壊すのは不可能とまで言われてるダンジョンの天井を!?」
あ、有り得ない……。ドワーフの武器やエルフの魔法、更には竜の爪ですら壊せないと言われているダンジョンを容易く破壊するなんて……。
「見ての通り、壊れたということは不可能ではなかったということ。知識が一つ増えたな」
言ってる最中も次々と突き破っていくルシフェル。その凛々しい姿にボクは……
チラッ
こ、このポジションもまた魅力的だ。突き破る衝撃と共にルシフェルのスカートが捲れ上がって……
「もうすぐ地上だ――ってグレンよ、頬を緩めてどうしたのだ?」チラチラッ
「え!? い、いやぁ何でも……。ピンクだったから、これはこれで中々……」(←懲りないなお前……)
「むぅ? まぁよい。ほれ、地上に出るぞ」
ズボッ!
「ホントだ、地上にで――って、待て待て待て待て! めっちゃ高いんだけど!? このまま落ちたら死ぬんですけど!?」
「街に戻るなら上から見下ろした方が早いからな。アレがそうか?」
「うん、アレが王都。――いや、そんなことより高度を下げて!」
「言われなくとも下げてやるわぃ。それ、王都に向けて一直線よ」
「ひぃぃぃぃぃぃ!」