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鬼類たちの狂想曲  作者: Niino
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この物語の世界観 鬼の誕生

 鬼士院は延暦二〇年、西暦八〇〇年に時の都であった平安京の南西、桂川を挟んだ長岡京跡地に造られた一辺が約一・二㎞、枡形の石壁に囲まれた城郭都市である。長岡京がこの国の都であったのは延暦三年、西暦七八四から僅か一〇年間の間であった。一〇年で平安京へと遷都せざる得なかった理由は「呪い」である。桓武天皇の勅命により平城京から遷都された長岡京であるが、遷都直後から飢饉や流行り病、川の氾濫など様々な災害に見舞われた。桓武天皇の近親者に死者も出た。陰陽師による調査が行われ、災事難事の原因は桓武天皇の弟、早良親王の呪いであると断定された。早良親王は桓武天皇への謀叛のかどで淡路の国に流される途中で死んでいる。病死か自死か、はたまた謀殺されたのか。はっきりした死因は分からない。だが当時の京において最高のテクノクラートである陰陽師たちは親王の死因についてある程度裏の事情も知り得る立場にあったのだろう。陰陽師たちが「早良親王の呪い」であると断じた理由は星占いや式神からもたらされた情報だけでない。その朝廷内での立場を活かして収集したの噂や金でもたらされた密告など、およそ人間臭い情報も大いに役だったはずである。つまり早良親王は怨霊となっても不思議でない死に方をしたのだ。親王の呪いに震えあがらずにはいられない、身に何がしかの覚えがある人間が朝廷内に少なからずいたということだ。朝廷は早良親王の怨霊を鎮めようと躍起になったが都を襲う怪異は止まなかった。結果的に朝廷は長岡京を捨て平安京への遷都を決断せざる得なくなる。そして遷都後も鎮まる様子の無い親王の呪いが平安京にまで及ぶことを恐れた朝廷は長岡京に墓を造ることを決めた。墓といえば聞こえは良いが、いわば親王の怨霊を長岡の地に封じ込めておくための巨大な霊的牢獄である。

 墓は巨大な寺院を模して造られた。墓守りとして僧の代わりにこの鎮魂の院に入ったのが鬼人達である。鬼人は当時都に現れ始めていた不思議な力を持つ人々の総称である。彼らは自分たちで鬼風と呼んでいる鬼神力を使って病や傷を癒したり、憑きものを落としたりして都人たちから重宝がられていた。中には当て物、失せ物探しを行う鬼人もいた。町医者の薬も坊主の祈祷も効かない病がけろりと治ってしまう。何年も生き別れになっていた肉親が見つかる。男三人がかりで押さえつけるのがやっとといった狐憑きから狐がすとんと落ちてしまう。鬼人のなかには民から生き神様のように崇められる者もおり、こういった話はすでに朝廷の中にも届きつつあった。

 鬼人の出現に頭を痛めたのは陰陽師や僧、医者たちである。星を読み未来を見通す技術と知識は陰陽師だけのものでなければならない。悪霊を退治し悪狐を改心させるのは僧でなくてはならない。病を治すのは医者であり薬草の効能と組合せ方を知っているのは医者だけでよい。民の尊敬を集め特権を享受するのは自分たちだけでよいというわけだ。更に問題を難しくしたのが、鬼人たちの力がまぎれもない本物だったことだ。彼らの吹かせる鬼風は本当に病に、憑き物落としに効いたのだ。こうした状況に苛立ち焦っていた陰陽師や僧たちにとって遷都は絶好の好機であった。

「帝と平安京を守るため長岡の鎮守を命ず」

 陰陽師と僧たちの暗躍の成果もあってか程なくして全ての鬼人達に命が下った。長岡の地に集められた鬼人達は許可なく長岡を離れることを禁じられ、巨大な鎮魂の院の建設を担うことを命じられたのだ。その一方で鬼人達を納得させるためのアメも用意された。鬼人達のために住居が用意され、工事に従事する者にはきちんと労賃が支払われた。出兵を除いて租税や労役も免除されていたらしい。当時としては破格の待遇といっていい。権力者にとってそれだけ鬼人達の力は警戒すべきものだったのだろう。この巨大な鎮魂の院は完成後に清良院と名付けられることになるのだが、鬼人も都人もそこを鬼道院と呼んだ。これが現在の鬼士院、鬼道に関する全ての活動を統べる巨大な鬼人結社の始まりである。

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