居酒屋でついに
金曜日の19時、スケジュール通りに飲み会が開催された。
居酒屋は座敷型で店内の一角をサークルメンバーで占拠していた。机にはメイン料理からおつまみ、お酒が無造作に並べられている。笑い声が響き、グラスの音が鳴り、にぎやかな雰囲気で溢れかえっていた。
僕も他のみんなと同じく、勝手に頼まれている生ビールをちびちびと飲みながら、他愛もないおしゃべりに応じていた。
時間が立つに連れて、アルコールがはかどりにぎやかというより大学生特有の騒がしさが増す。
僕はこのときになってようやく行動を始めることにした。
「そろそろ就活の準備とかしないとだよな」
隣に座る同学年の友人に話を振る。彼とは時々就活に関する会話をしていたので話題に不自然さはない。他の人の状況も気になるよな、なんてしばらく話を続けていると。
「あ、そうだ。先輩はどうです? よかったら話聞かせてくださいよ」
よし! 内心でガッツポーズをする。彼は先輩後輩なく誰にでもフレンドリーでフランクだから、いい感じにきっかけを作ってくれるんじゃないかと期待していたのだ。
最悪、自分から近くの先輩に声をかけるつもりだったが、あまり興味津々というふうに見られたくなかった。心配事がひとつ消えた。
「ああ、私はもう内定もらってるよ」
向かいに座る加藤先輩はビールを傾けながら、くつろいだ雰囲気で答える。
「この時期で決まってるなんてすごいです」
「うちのサークルの3年はちらほら決まってるやつ増えてきてるんじゃなかったかな」
「そうなんですね。僕は先輩方みたいにしっかりした目標もなくて、正直自分が何したいのかとかわかってないんですよね」
「俺も一緒!」
友人が焼き鳥の串を片手に同意する。
「2年の今頃なんてそういうもんでしょ。今から心配してるだけ私より立派だよ」
冗談めいた口調で加藤先輩は笑った。
就活の話題で会話が自然に進む中、僕は佐鳥の内定先について触れた。
「たしか佐鳥先輩はかなり大手に決まったらしいね」
「っ! それってどこか聞いてもいいですか?」
「それなら本人に聞いてみたら?」
加藤先輩の視線が僕の背後に向けられらた。視線の先を追うように振り向くと、酒を持った佐鳥がいる。ちょうど僕の真後ろを横切るところだったようだ。
話に夢中になりすぎて全く気付かなかった。
「え? なに、俺の話?」
佐鳥は、僕の肩に手を乗せ身を乗り出すようした。
「あ、いや。就活に悩んでて加藤先輩に話聞いてもらってたんです」
「酒の席なのに真面目すぎんだろ。特にお前さぁ、いつも大人しいんだからこういうときくらいもっと楽しめよ」
茶化すような口ぶりに周囲から小さく笑い声が上がる。
そのまま立ち去っていく佐鳥の背中に安堵のため息を漏らす。僕が佐鳥の内定先に興味を持っていることを加藤先輩は黙っていてくれた。
さっきまで会話に参加していた友人は、食事に夢中で全くこちらを気にしていないから気が楽だ。
会話の途切れたタイミングを見計らって立ち上がる。トイレから出たところに待ち構えていたのは加藤先輩だった。
「外の空気吸いに行こうよ」
腑に落ちないないまま連れ立って居酒屋の外に出る。室内とは違い冷えた空気が心地よかった。
「教えてあげよっか?」
「え?」
「気になるんでしょ? あいつの内定先が」
「……はい」
「それじゃあ代わりに七島くんが企んでることを教えてもらおうかな?」
「僕はただ、佐鳥先輩を参考にしたくて」
「嘘。さっきさあ、あいつが近寄ってきたときすごい目してたよ」
一瞬言葉を失う。この人は佐鳥とのやりとりを黙って観察していたのだ。
「あはは、やだな警戒しないでよ。ただ気になっただけ」
身体冷えちゃうから戻ろ、加藤先輩はそう言って店内へ吸い込まれた。
加藤先輩なに考えてるの!?って思ったら
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