恵美とデート
睡魔と戦いながらもどうにか1限目を終えた。その場で大きく伸びをすると凝り固まった体が開放される。
美味しいカフェを見つけたんだ、とそっとはしゃぐ恵美の隣に並んで教室を出る。キャンパスの賑やかさを背に受けながら、敷地の外へ一歩踏み出すと閑静な住宅街が広がっている。
「どのへん?」
「えっと……」
恵美がスマホの地図アプリで目的地を確かめている。
「ここから歩いて10分くらいかな。おしゃべりしてればすぐだよ」
微笑む恵美に僕は軽くうなずく。朝の澄んだ空気は散歩するのにちょうどよかった。
雑談を交わしつつ、到着したカフェはどこかアンティークな雰囲気の外観をしている。
2人でオシャレだなんだとか言い合いながら中へ入る。店内はレトロモダンとも言うべき言葉が似合いそうだ。アンティークな家具とレトロな壁紙は温かみを感じさせる。
窓際の席へついて、僕は眠気覚ましにブラックを。恵美はカプチーノを頼んだ。
コーヒーと一緒に頼んだケーキを摘みつつ、柔らかなボサノバのBGMを聞いているとささくれだった心が安らぎを覚えた。
恵美がカプチーノを唇に運びながら、窓の外に目を向ける。
外は快晴だ。恵美の視線の先にはスカイツリーがある。
恵美はしばらく眺めると、好奇心を抑えられない子供のように瞳をキラキラさせて、不意にひらめいたように言う。
「ねえ、良くん。スカイツリーの中にすてきな水族館あるの。一緒に行ってみたいなぁ」
「いいよ。行ってみようか」
恵美のかわいらしい提案に、僕は無意識に笑みを浮かべていた。
スカイツリーの5階に位置する水族館は、平日の昼時ということもあり人は少ない。
水族館の幻想的な光がほの暗い回廊を照らす。色鮮やかな海の生き物たちが思い思いに、水槽の中を静かに泳いでいる。
恵美が水槽を眺めてうっとりしている様子に、ふと初デートを思い出した。
恵美と初めてのデートをしたのは水族館だった。
まだお互いに距離感をつかめてなく、ぎこちない会話ばかりだった。それでも一緒になって水族館を巡るうちに、だんだんと緊張の糸がほどけていった。
マンタの大きさに2人して驚いて笑いあったこと、ウツボの凶悪な顔におびえる彼女の仕草、何気ない記憶が次第に蘇ってくる。
恵美の澄んだ瞳の輝きはあの頃と変わっていない気がした。
クラゲたちが青く照らされる巨大な水槽の前で僕は立ち止まった。
突然立ち止まった僕を、前を歩く恵美が不思議そうに振り向く。
「あのさ……実は聞きたいことが――」
その瞬間、僕の問いかけを妨げるように恵美のスマホが鳴った。
恵美はスマホを確認して、小さくため息をつく。
「ごめんね、少し待っててくれる?」
申し訳なさそうに、その場から離れて恵美は通話を始めた。
恵美の背中を見て僕は自分の行動を振り返り唖然とする。一体何を口に出そうとしていたのか。恵美から打ち明けてくれるのを待つつもりだったのに。
それにだ。恵美への疑いが晴れたわけでもない。
恵美への疑心に後ろめたさを感じるが、もしも恵美と佐鳥が好き好んで繋がっていたら?
リスクはできる限り避けるべきだ……。
人工的に作られた水流の中でクラゲがゆらゆらと漂っている。辺りに満ちた水の音に恵美の声の断片が混ざり合う。誰と話しているのか、何を話しているのかはわからない。
しばらくして、恵美が通話を終えて早足で戻ってくる。
「お待たせっ。友達からだったの。さっきなにか言おうとしてた?」
恵美の表情に何かしらの変化があるか観察してみても、何もわからなかった。僕は再び水槽に目を戻して言った。
「……大丈夫、なんでもないよ」
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